水蓮さん、よしき八戒ドール購入記念小説(笑)
『ハッカイくん』 

presented by いちうあいさん
「なんだ、これは・・・。」
 憮然と困惑と呆れとが入り混じったような顔で呟く三蔵の目の前には彼の右手につままれた八戒によく似た「ハッカイくん」人形がぶら下がっていた。





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 三蔵達がこの村に着いたのは3日程前である。本当は一泊だけの予定だったのに3日も留まっている、と言った方がいいのかもしれない。
 この村に留まらざるを得なかった理由は誰かがダウンしたから、とかこの村が気に入ったから、などというものではなかった。三蔵に言わせるとバカが調子にのったせいで足止めをくらってしまうことになった、というところだろうか。



 事の起こりはこうだった。
 一夜の宿を求めて村に立ち寄った一行の目に祭の準備をする人々の姿が映った。どうやら明日からこの村伝統の祭が始まるらしい。こんなご時世に、と思わなくもないが、人間は時にこんなふうにして何かを発散させる必要があるのだということも知っている。

 とりあえずは宿を探そう、ということになった時・・・、刺客たちの襲撃があった。
 いつも通りの烏合の衆だったので難なく倒す事ができたが、最後の最後に悟浄が殴り飛ばした妖怪が腰を抜かして(本人は逃げてるつもりの)オヤジの方に飛んでいってしまい、「あ」といった時には『ぷぎゅ』というオヤジにしては可愛らしすぎる悲鳴をあげて妖怪の下敷きになってしまっていた。
 オヤジ、見事に骨折(笑)。

 普段ならとっととその場を去っていたところだが、オヤジに駆け寄ってきた(オヤジに全く似てない)可愛い娘に悟浄が飛びついていってしまい、祭の時期に稼がないと店が潰れてしまうなどと泣きつかれて手伝ってやると安請け合いをしたのだった。
 もちろん、三蔵ご立腹。バカッパだけ残りゃいいなどと言い放ったが、八戒にまで元々は自分たちに原因があるのだからと説得され渋々と祭の間の三日間だけこの村に留まることになってしまったのだ。



 オヤジがやっている店というのが酒場だったので、悟浄は夕方から明け方まで手伝って宿に戻って休み、悟空は昼の間祭の手助けをして(本当に助けてるかどうかは怪しい)、というような形になった。もちろん三蔵は何もしない。
 ところが八戒だけは違った。初めは悟浄と共に酒場の手伝いだけのはずだったのに、ちょっと悟空のところに顔を出したとき、持ち前の器用さでなにやらかにやらこなしてしまったため、すっかり重宝がられて引っ張りだこになってしまったのだ。
 おかげで彼はこの三日間殆んど寝ずの形で動き回っている。もちろん宿に帰る間もない。そして三蔵はといえばずっと部屋にこもりっぱなしだったので二人はまったく顔を合わすことがなかった。

 何故三蔵が部屋を出なかったのかというと、もちろん人込みの中が苦手だというのもあるけれど、悟浄に「気になるなら会いに行ってやれば?」などとニヤニヤ顔で言われたため絶対出て行くものかと意固地になってしまったのである。

 そんなわけで三蔵の前にある灰皿は今にも崩れ落ちそうなほど吸殻の山盛りになってしまっている。いつも苦笑しながら「吸いすぎですよ。」と警告して片づけてくれる相手がいないので、喫煙の歯止めがきかずあっという間にタバコのストックがなくなってしまっていた。
 誰かに買ってくるように言おうにも、悟空は祭に出て行ってしまっていないし、悟浄は今は寝ているはずだ。叩き起こしても別に構わないのだが、悟浄のことだ。きっとからかってくるだろう。それが嫌で悟浄を起こすという選択肢も選びきれなかった。

 後は自分で買いに行くしかない…か。
 ものすごく嫌ではあったけどタバコを吸うにはそれしかない、とそう思って三蔵は重い腰を上げた。どうやらタバコを自粛するという選択肢は存在しなかったようである。

 そうやって立ちあがった三蔵の目にふと八戒の荷物が目に入った。そういえば以前に吸い過ぎだと八戒にタバコを取り上げられたことを思い出す。もしかするとまだ持っているかもしれない。
 淡い期待をもって三蔵は八戒の荷物の前にいく。以前持っていたものより大きくなっているような気がしたが、とにかくバッグの口を開け手を突っ込んだ。

「…?」
 真っ先に手に当たったのは柔らかな感触。それなりに大きなもののような気がする。
 それがタバコでないことはもちろんわかっていたが、何故だか気になって三蔵はそれを掴んで引き上げる。

 そして彼の目の前に現れたのは「ハッカイくん」人形だった。





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「……。」

 擬音にしてみればプラーンといった感じで自分の前にぶら下がっている「ハッカイくん」を前に三蔵は困惑してしまっている。

 前回の「サンゾーくん」の件もあるから間違いなくこれも八戒が作った物だろう。
 …しかし、普通自分の人形なんて作るか?しかもあまりにもよく特徴をつかみすぎている。目の前の人形はにこにこと笑っているのだが、それがどこか怖いところまでそっくりだ。

 ハァーと息を吐いて三蔵はもう一度バッグの中に手を突っ込んだ。奥の方に同じような手触りがして引き上げると今度は「サンゾーくん」が出てくる。
 がっくりと肩を落としながらやっぱり、といった感じで三蔵はもう一度脱力する。
 ちなみに今三蔵はそれぞれの手に「サンゾーくん」と「ハッカイくん」をつまんだまま、立ち尽くしている。きっと悟浄辺りが見たら大爆笑してしまうだろうほど珍妙な光景だった。

 暫くして盛大なため息をつくと「サンゾーくん」を机の上に置く。本当はさっさと処分してやりたいところだが、黙ってそれをやると後々恐ろしいことになるというのもわかってたりする。
 さて、どうしたものか、と思案にふけ出したとき、三蔵は急に視線を感じて振り向いた。

”ニャ〜”

 開け放たれた窓の枠に一匹の猫がいた。じっと三蔵の方を見ている。近くに木の枝が見えるからそれを伝ってきたのだろうか。
 入ってこられるのも面倒だ、追い払おうかと三蔵が身動きした瞬間、ふいに猫が窓枠を蹴っていた。

「!?」
 驚いた表情の三蔵の顔面のすぐ横を猫は掠め過ぎる。 タン、と机の上に着地する音がして三蔵が振り返ると猫はすぐにまた三蔵の方に向かって跳びかかり、そして三蔵が今だに手に持っていた「ハッカイくん」を奪い取って再び窓枠へと戻っていった。

「てっめえ…。」
 いい度胸だ。この俺からものを奪おうなんざ。

 こめかみに青筋たてて呟き、大人げなくも銃を取り出す。しかし猫もおとなしく待ってはおらずすぐに木の枝に飛び乗ると下へと降りて木の幹に隠れるようにしてちらりと顔をだして三蔵を見上げた。その口に「ハッカイくん」をくわえたまま。

”間違いなく俺を挑発している。”
 猫の分際で俺にケンカふっかけるなんざ百億年早い。

 ゴゴゴゴ・・・という擬音と燃え盛る炎をバックにマジ切れした三蔵は、一発本気で発砲した。しかし猫はひょいと木の陰に身を隠し、銃弾は「ハッカイくん」をぎりぎり掠めてそれていった。
「ちっ!」
 本気で悔しがる三蔵に対して再び木陰から顔を出した猫は逃げるでもなく、三蔵の顔を見上げている。もはや三蔵は外に出ることを嫌がっていたいたことなどすっかり忘れて猫と同じように木の枝を伝って外へと飛び出した。
 猫はその姿を見るとパッと走り出す。しかし時に立ち止って三蔵の姿を確認するなどして、まるで彼が追ってくるのを望んでいるかのようにも見えた。





 家と家の間の狭い隙間を猫は軽やかに逃げまわる。敵(?)もさるもの、様々な障害物を利用して三蔵に発砲のチャンスを与えなかった。また猫より遥かに体の大きい三蔵は猫を見失わずに狭い道をくぐり抜けるのに必死であった。

 油断をしていたとはいえ(この辺りは負け惜しみ)、ここまでコケにされて一矢報いないのでは己のプライドに関わる、と三蔵は意地になっていた。しかも自分の持っているものを盗むなど許さざるべきことだ。
 ・・・と、ここまでの三蔵の思考の中で「ハッカイくんを」という部分が省かれているのは無意識なのだろうか。

 そんなこんなで猫と三蔵の追いかけっこはかれこれ30分以上も続いていた。三蔵が何かを追い回す、などという珍しい姿は、しかし誰にも見られることがなかった。皆、祭に出掛けているようで、民家には人の気配がまったくない。
 だが、ギャラリーのない障害物競争も終焉が近づいたようである。前を走っていた猫が、ピタリと動きを止め、何事かと見据えた三蔵の目にけっこう高い塀が映った。どうやらそこで行き止まりのようだ。

 少し離れたところで足を止めた三蔵は、口の端を僅かに上げた。こんなバカバカしい追いかけっこなどもう終わりだ、と銃を構える。本当に当てる気は今はなかった(多分)。ちょっと驚かせて人形を落して行けばそれで見逃してやろう、と何故か最初の頃の意気込みはなくなっていた。

 トリガーにかかる指に力がはいる。
 と、それまで三蔵をじっと見ていた猫が口にくわえた「ハッカイくん」を持ち直すかのようにすると…再び身を翻して塀に向かってダッシュし、ふいに猫の姿は塀の中へと消えた。

「なにっ!?」
 急にターゲットの姿が消え、慌てて三蔵も塀に近づくとそこには猫が通りぬけられるだけの穴が開いている。役に立たねぇ、と舌打ちをすると三蔵は辺りを見回した。塀の高さはかなりある。よじ登るのは決して不可能ではないにしろ苦労しそうだ。だが、回り込んで塀の向こう側にいくのも時間がかかるだろう。
 ちょっと考えこんでいた三蔵だがすぐに腕を持ち上げ・・・塀に向かって鉛玉を撃ちこみ、穴を人一人通れるぐらいにまで広げてしまった。
 決して既物破損罪などと突っ込んではいけない。

 それから三蔵は自分で広げたその穴を何とか潜り抜ける。塀の向こうは雑木林になっていて、用心深く辺りを伺う三蔵の耳にカサリ、という音が聞こえた。音のする方へと視線を上げると、ハッカイくんをくわえた猫がいつの間にか木に登っていて上からじっと三蔵を見つめている。まるで彼が見つけてくれるのを待っていたかのように。
 妙な静けさが二人(?)の間に流れていた。


   やがて、先にその静寂を破って動いたのは三蔵の方だった。眉をひそめてはいたが、瞳の中には何故か賞賛を称えたような光が僅かに見える。
 そして三蔵はなんとその木によじ登りはじめたのだ。

「ったく、この俺にこんなことまでさせたんだからあっけなく撃ち殺してたまるか。」
 そんなことを呟きながら木を登ってくる三蔵を猫は逃げもせずジッと見つめている。その瞳の色が深い緑色であったことに三蔵は気付いていただろうか。

 やがて三蔵は猫の側まであと少し、といったところまで登りつめて、一旦動きを止めた。そして同じように動きを止めたまま三蔵を見ている猫と視線を合わせる。  じっと猫を見ているうちに三蔵は何故か笑った。

「まったく…。誉めてやるよ。この俺をここまで引っ張りまわしたんだからな。…だがそれももう、 終わりだ、よっ!」

 ふいに三蔵はハリセンを投げつけた。猫も三蔵のいきなりの行動にさすがに驚いたのだろうか。くるくる回りながら横を通りすぎていくハリセンを見て、「ニャッ」と鳴いてしまった。
 開かれた口からハッカイくんがゆっくりと離れていく。三蔵は落ちてくるハッカイくんに向かって手を伸ばした。しかし、若干目測を誤ったのだろうか、届きそうになくて慌ててさらに手を伸ばし、そして枝を掴んでいた手の力が緩んで…。


 ザザザ、ドサッ!!


 大きな音をたてて三蔵は木から落ちていた。


「つっ…。」
 腰をさすりつつ起きあがる三蔵の手にはしっかりとハッカイくんが握られている。猫がくわえたまま引きづりまわしたせいか若干汚れてしまっていた。ホコリを払いながらハッカイくんの変わらぬ笑顔を見て思わず三蔵は頭を抱える。
 一体なんだってこんなに走りまわらなきゃならなかったんだろうか。



 ニャ〜。


 ふと小さな鳴き声が耳に入って三蔵は振りかえった。少し離れたところにいつの間にか木から降りてきていた猫が小首をちょっと傾げたようにして三蔵の方を見ている。
 すでに三蔵には猫に銃を向ける気も更に追い駆けまわす気もなくなっていた。無言で猫を見つめ返す。

 やがて、猫は名残惜しそうに一声なくと、踵を返してその場から去っていった。

「…ホントに俺は何をやってんだろうな。」
 猫の後姿を見送り、再びハッカイくんに視線を落しながら三蔵は自分の前髪をかきあげ、そして苦笑をした。







「おーい、三蔵。悟空も帰って来たし飯食いにでもいかねーか。」

 日も暮れ始めた頃、悟浄が三蔵のいる部屋の戸を叩く。
 八戒は今日も宿に戻る暇がなかったようだ。帰って来た悟空によれば、どうやら悟空が(また)ヘマをしてその後片付けにおわれて一旦戻ってくるはずだったのに出来なくなったらしい。さすがに悟空も申し訳ないようで、しゅんとして帰って来た。どうやらハッカイはそのまま酒場の方へ行ったらしい。
 さすがに八戒が気の毒になった悟浄は、三蔵を誘って酒場で食事ぐらいはさせてやろうと思って部屋を訪れたのだった。


「…三蔵?」
 返事がなく、中を覗いてみると、そこにはベッドの上で眠り込む三蔵の姿がある。
「なんだよ、寝てんのか?おい、三蔵…。」
 ベッドに近寄って三蔵を覗きこんだ悟浄は思わず目を大きくした。三蔵はまるでベッドに倒れこむかのようにうつ伏せになって寝ており、着ているものには何故か泥や葉っぱがついてて薄汚れている。それに悟浄が側に寄っても一向に目覚める気配がなかった。
 眉間に皺を寄せることもなく、あどけなさそうに眠る彼は一体どんな夢を見ているのだろう。


 そして三蔵の枕もと、サイドテーブルの上にはサンゾーくんとハッカイくんが仲良く並んで座っていた。
≪八戒編→≫≪悟浄編→≫







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◆ ◆ ◆
「サンゾーくん」「サンゾーくんR」に引き続き、いちうあいさんから
水蓮さんとよしきにプレゼントでございますv
ハッカイくんを追いかけて木登りまでしてしまう三蔵サマ…愛です。愛
しかも三蔵サマ、とうとう添い寝の共に!!ををを!!

いちうさん、本当にありがとう
そして一緒におねだりしてくれた水蓮さんも、とってもとってもありがとうv
いちうさーん、私ホントにドールと一緒に寝てないのよーーー?(笑)

omake
いちうさんに感謝をこめて、八三ドールズ写真ページ(合計で100KB近いです)です