STAY WITH ME 10 
--- 雪花小片的物語 7 --- 


















「コンディショナーは無しな。髪が乾くの遅くなるから」
「別に構いません」
 三蔵の袖が、緩んで肘の下まで落ちて来た。
 服が濡れてしまう。
 三蔵はそれに気付いて、白い歯で袖を咥えて、肩口に引っ張ろうとした。
「…すぐにずり落ちて来るな…」
 暫く頑張ってはいたが、開き直ってまとわりつく袖をそのままに、僕の髪に腕を伸ばした。
「濡れちゃうから、もういいですよ」
「ついでだ」
 三蔵の腕に、つい手を掛けた。
 シャワーコックが三蔵の手から滑り落ち、噴水のように湯が散らばった。
 三蔵の袖も、肩も、胸も。濡れて白いシャツが張り付き、肌を透かした。
 髪も、頬も、唇も。濡れてライトを反射した。
 急な雨に目を見瞠いていた三蔵と視線が合う。
 長い睫毛にも露が宿る。
 僕たちは、瞳を合わせたまま接吻けた。

「濡れちゃいますね」
「とっくに濡れてる」

 息を継ぐ合間に囁いたけど、始めから、止める気なんて無かった。

 三蔵はバスタブの縁に手を掛け、乗り上げるようにして、僕に唇を落とした。
 俯いた顔の、細い鼻梁に、雨が流れる。何度も角度を変えて接吻けると、その度に三蔵から流れ落ちた水が、僕の唇を濡らした。
「沢山、キスしてくれましたね。あなたから」
「……だな」
 深く、舌を絡め合いながら、僕は三蔵を引き寄せた。バスタブに掛かる三蔵の指先に力がこもり、白くなる。
「求めるだけ与えられるのに、余計に喉が渇いて行くようだった」
「欲張りなんだよ」
 切なく掠れるような、三蔵の声。
「もっと、もっと、喉が渇く ―――― 」
 三蔵の躯を引き上げ、バスに引きずり込む。
 僕の躯を挟むように膝を突かせ、回した腕に力を込めると、背が撓った。熱いシャワーを吸い込み、シャツもジーンズも、あっと言う間に三蔵を戒める、重たい枷になった。
「動きにくい」
 鬱陶しげに胸元のボタンを外し掛ける掌を、掴み止めさせた。
「………っ」
 シャツを透かす、色素の白い肌に浮かび上がる桜色。僕はそこに丁寧に接吻けて、布地越しに桜色が勃ち上がる感触を、舌で楽しんだ。
「八戒、止せ」
「何故…?」
 見上げる顔は、困惑の表情を浮かべている。
「恥ずかしいから?じれったいから?」
「服が動きにくいからだ」
「じゃあ……」
 余計ニ、ヤメラレマセン
 きつく囓ると、呼吸交じりの声が、甲高い啼き声になった。

 バスタブの縁と僕の肩にしがみ付いて、躯を支える。
 声を押し殺そうと、僕の髪に顔を埋める。
「動けないと、苦しいですか?」
「判ってて聞くな」
 濡れた衣服と僕の腕に拘束された三蔵が、詰まる息の間に、途切れがちに返事をした。
「僕も、あなたを見るだけで苦しくなることがある」
 三蔵を歯で苛みながら、ジーンズの前を開けようとした。ごわつく布地は言うことを聞こうとしなかったが、手こずる間もずっと、三蔵は僕の肩にしがみついたままだった。
「うんと優しくしたかったり、酷いことをしたくなったり」
 張り付くジーンズを無理矢理下げると、擦れて三蔵の腰に、薄赤い痕が付いた。腿の途中まで下着ごと下ろし、胸の桜色への刺激を止めぬまま、掌で腰を掴まえた。
「僕だけしかみたことのない貌を、もっともっと見たくなったり」
 弾ね上がる三蔵のものを撫で、包み込んだ。
「嫌がることをしたくなったり」
 指を滑らせ、狭い場所に差し向けると、掌が、腿から繋がる筋肉の震えを感じた。
「凶暴なくらい苦しい気分を抑えるのが、甘く感じられたり。滅茶苦茶になる」
 深く挿し入れた指に、三蔵が仰け反った。

 熱い雨が、三蔵を包んだ。
 立ちこめる湯気に、息が出来ないくらいだった。
 仰け反り、時折身を震わせて呻きを漏らす三蔵の膚の上を、雨が流れ、僕に伝う。

「……だろ?」
 胸元から目を上げると、濡れた瞳が僕を捉えた。
 快楽を覚えて輝く、玉石のような瞳。
「ンなの、お互い様だろ?」
 肩を押し、僕の躯を引き離すと、三蔵は腰を屈めて耳元で囁いた。
「オレん中にもいるみたいだ。 ―――― 飼い慣らせない、ケモノ」
 僕の耳から、首筋へ。
 舌でなぞるような接吻け。
 鎖骨を横に滑り、肩の付け根の突起で止まり、

「 ―――― 痛ッ!」

 歯を立てた。

 深く、深く。
「……さんぞっ……!」
 舌の這い回る感触が、妙に生々しかった。
 掌の中で、三蔵が興奮しているのが判った。
 多分、三蔵の噛んだ痕は、暫く消えないような傷になっているのだろう。
 それに気付くと、僕も興奮して、達しそうになった。
 鉄味の接吻けに、躯を繋げたくなって気が急いた。
 三蔵のジーンズを膝下まで引っ張り下ろした。
 雨に濡れて、僕たちは益々熱くなって行った。

「出来ます……?」
 何も言わずに、僕のものを掴んで、ゆっくりと腰を降ろして行く。加減をしながら、のろのろとした緊張の時間が過ぎ、やがて深い吐息を吐いた。
「三蔵、大丈夫ですか?」
「聞くなよ」
 睨む人を揺すり上げると、力の強い瞳が揺らいだ。
 深く舌で探り合ったり、舌先で唇を舐めたり。落ち着かない接吻けを続けながら、僕たちは繋がる場所を意識し、互いを追い上げようと揺さぶり合った。
 やはり動き辛いのだと、途中三蔵は、片方の足からはジーンズを引き剥がしたが、もう片方は、脹ら脛から脱ぐのを諦めた。その姿は、酷く子供っぽかったり、コケティッシュに感じられたりもした。

「脚。も、出来ない」
 自由になった方の脚を膝立て、それにしがみつくように、三蔵が言った。
 僕にしがみつかずに、自分の躯を抱え込むように、溜息のような声で言った。
 肩の傷が、疼いた。
 三蔵の躯を倒し、狭いバスタブに押し付けるように、僕は動いた。

 誰にも聞かれないように、呻き声は全部唇で塞いだ。
 自分の脚を抱えていた腕を、僕の背に回させた。
 背に掛かる爪が時折きつく穿ったけれど、僕は熱い雨の下、凶暴なケモノを今は放ってもいいのだと、知っていた。
















 続く 







《HOME》 《NOVELS TOP》 《BOX SEATS》 《SERIES STORIES》 《83 PROJECT》 《NEXT》 2002.03.15 -->