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STAY WITH ME 10
--- 雪花小片的物語 2 --- |
「もしかして、二日酔いですか?」
「………。」
判ってんなら聞くな。
そういう目をして歯ブラシを動かし続ける。
「…頭、痛いんですか?」
「………。」
うわ。三蔵は益々機嫌の悪そうな表情を浮かべる。
「頭痛薬でも飲みます?」
「………。」
暫く考えてから、頷く顔はやっぱり不機嫌なまま。
僕も歯ブラシを咥えると、三蔵の隣に腰掛けた。
ぼんやり前方の壁を見上げながら、黙々と歯を磨く。
隣り合って座りながら、ぎりぎり躯が触れない距離。時折袖がかすめそうになるくらいに、体温を感じる距離。
それでもバスルームの空気は、足下から冷たさを昇らせ、僕は寒さに一度身を震わせた。
「………。」
三蔵が横目で僕を見た。
「………。」
フン。
声と呼吸の間くらいの音をさせて立ち上がり、口を濯いで洗面を済ませ。
タオルを持ったままの三蔵が、僕の目の前に立つ。
「見てるだけで余計に寒いんだよ。…ばーか」
そう言い捨ててバスルームを出て行った。
寒そうな格好のヒトに付き合ってあげたつもりの僕は、大変不本意な思いで洗面を続けた。
僕はトーストを焼き、目玉焼きを作る。
作業をする背中の方で、時折ボトルの上げ下げの水音がする。煙草に火を着け、足をぶらつかせながら、溜息交じりで数回紫煙を吹き上げる音が聞こえ、気分が悪いのかすぐにもみ消す気配がする。僕はおかしみを感じて微かにわらった。
「……なんだ?」
「なにも?」
微笑みながら三蔵を見ると、ほんの少しだけ不貞腐れて、またトマトジュースのボトルに口を付けた。
二日酔いから抜け出せず、三蔵は、マルボロを一口吸ってはもみ消すということを、数度繰り返した。目を瞑って壁に頭を凭れ掛け、細く溜息をついては、ジュースに口を付ける。
僕はトーストの上に半熟目玉焼きを乗せ、シンクに寄り掛かって囓り付いた。
「…てめェの行儀の方が問題アリなんじゃねえのか?」
「たまのことだから、見逃して下さい」
コーヒーのマグカップを差し出して言うと、三蔵は嫌そうな顔をして受け取った。嫌そうな顔をしながらも、薫る苦みの芳香に、眉のラインがリラックスの角度に開いたようだ。
鎮痛剤が、漸く効いてきたのかもしれなかった。
「……だって、見てると面白いんですよ」
三蔵は、カップから目線だけを上向かせた。
「ろくに吸ってもいない煙草が、やたら灰皿に溜まって行くばかりだし。三蔵はと言えば、溜息ついたり、天井見上げたり。かと思ったら、何を思い出したのか、急にむすっとした顔して見せたり。……ひとりで百面相してるみたいでしたよ」
眉間のしわを深くしつつも頬を赤らめて。
僕のトーストに手を延ばすので、渡してやる。
「…あ!」
「……。百面相見物料金だ」
唇の端に黄色いものを付けたまま、目玉焼きの黄身の部分だけをぱくりと食べてしまった三蔵は、また満足そうに椅子に腰掛けた。