◇ 子猫日記 2 ◇




○月 ○日(曇り)
毎日あついです。
三蔵はあついのが苦手なので、ぼくは涼しいところを探すのがとても上手になりました。
おうちの窓がいつも開いているので、ぼくたちは好きなようにあそべます。
ぼくたちが泥んこになっておうちに帰ると、悟浄は寝そべったままで怒ります。
この間は悟浄といっしょにねむっていた人の上に、足跡をつけてしまいました。
めずらしく悟浄が追いかけて来て、ぼくたちは洗われました。
悟浄が泥んこが嫌いだなんて、ぼくは発見だなあと思いました。
三蔵は長い毛がぬれてぺちゃんこになってしまったので、ぷりぷりと怒ってました。
ちゃんと舐めて毛繕いをしてあげましたから、もう三蔵はきれいです。





てめェら、このっ!
大人しく洗われやがれっ!!ひっかくなっつーの!
あ、ああ。マジ悪ィ。なに、お腹の上に足跡付けられたのが、そんなに楽しかったの?
……ネコと追っかけっこする俺がおかしーの…?あっそ。
そんなに笑ってばっかりいるとこっちの仔猫も掴まえたくなっちまうね。……ほら!

……大人しい仔猫は、優しく洗ってやるよ。


○月 ○日(曇り)
ぼくと三蔵は、狩りをします。
ぼくは小さいとき、狩りがせいこうするとうれしいので、獲物をぜんぶ食べました。
今はもう大きいので、三蔵にも悟浄にもとってあげます。
三蔵が獲物をおうちに持って帰らないのは、まだ狩りがへただからです。
もっかれんしゅうちゅうです。
ねずみは逃げるのが早くてむずかしくって、せみは急にあばれるのがびっくりするのでむずかしいです。
三蔵は、くわえたせみがバタバタいったので、離してしまってくやしそうです。
その後、とっても怒りんぼになってた。


いや、だからさ。
気持ちだけで充分だから!
俺がいつ、家賃請求したよ!?
誉めるから! ちゃんと誉めてるから!! 狩りが上手で嬉しいよ、飼い主として!
でもホントーーーにお気持ちだけで充分なんだったら!


○月 ○日(晴れ)
とっくんです。
獲物に気がつかれないように近くまで行く、とっくんです。
うんと静かにして、息をとめます。
しっぽをふったり、かゆくてもぷるぷるや、かしかしをしてはいけません。
獲物と目が合わないようにしらんぷりをしたり、見つからないようにかくれたり、地面にぴったりついたりします。
けはいを消すのは、むずかしいけど、かっこいいです。
にくきゅうだけで歩いていって、「行くぞ!」というときに爪で地面を思いっきりけります。
タイミングをはかるまでに、爪がむずむずと出て来そうになります。
三蔵の目がきらきらしたり、すうっと細くなったりしたので、三蔵も爪がむずむずしてるのがわかりました。
背中の毛がふわあっとなって、三蔵はとっても、とっても、きれいでした。
今日は三蔵はせみを一匹つかまえました。
きらきらした目のまんまで三蔵はせみを食べてしまいました。
そういうもんなんです。


俺さー……知らなかったんだけど、家の鼠を退治してくれてるばっかじゃないんだって?
わざわざ森の野鼠を、俺の為に持って来てくれてんだって?
自慢する為にさ。
どーせ後から自分らで全部食っちまうくせになあ。
何べん頼んでも、家まで持ち帰って来るんだよなあ。
ホント、言葉が通じないって切ないもんなのよね。
……こんなコトまで、そんなに楽しそうに笑ってくれるんのに、な。
どうして淋しそうなんだろうな。


○月 ○日(雨 )
悟浄のおともだちの女の人は、みんなやさしいです。
おいしいものや、ふわふわしたものを、よく持って来てくれます。
さんぞうは強いにおいのものが嫌いなので、女の人が撫でたがるといつも走って逃げます。
ぼくは香水はそんなに苦手じゃないので、三蔵の替わりに撫でてもらいます。
身代わりになってあげてるのに、三蔵は怒りんぼなのでこまります。
怒ってぼくのお鼻をひっかいたので、血が出ちゃったこともあります。
その時は、ぼくについた香水のにおいが嫌だったんだと、後からあやまりました。
ぼくは三蔵にくっついて、三蔵のにおいにしてもらいました。
ぼくたちはいつもおんなじにおいです。
いま悟浄が仲良しの女の人は、香水のにおいがしません。
たまに三蔵とぼくののどをなでます。
三蔵が逃げません。


なあ。
全部、忘れっちまえよ………。


○月 ○日(晴れ)
夜、悟浄がお散歩に連れていってくれました。
いつも来る森のはずれの小川です。
ちいさな光る虫がたくさんとんでました。
ほたるというそうです。
ぼくと三蔵は、むちゅうになっておいかけました。
悟浄が何か言ったような気がしたけど、ぼくたちは聞こえませんでした。
そうしたら、川におっこちそうになりました。
ぼくたちは川にいるホタルもとりたかった。
動かないほたるがあったので、三蔵がひっかこうとしましたが、それは水にうつったやつでした。
ほたるじゃなくて星でした。
それでまた三蔵は川におっこちそうになって怒ってました。


こんなきれーな所もあるんだなあ。
螢なんか、子供の頃以来かな。見るの。
こーゆーの、似合うんだな。髪にも螢、とまってるぜ?
ほら、また笑う………。

暗い森ん中でも、切れ間から星が見えるもんだな。天の川かな、アレ?
流れ星なんて、単なるゴミが落っこちて燃え尽きるだけなのにな。
……願ってるだけで、いいワケ? 後悔すんぜ? 嘘つきな女は、嫌いじゃないけどな。


○月 ○日(雨)
やった!
三蔵がついにやりました。
お庭に来ていた小鳥を、三蔵はつかまえました。
まっしろくて、きれいな小鳥です。
三蔵がとびついたら、ぱっとしろい羽根がちりました。
今度は三蔵もたべないで、翼をくわえると悟浄のところまで持って行きました。
そうしたら女の人が手を出したので、三蔵は女の人にあげちゃいました。


嘘つきな女は優しいからな。
嘘つきで、疲れてて、優しいからな。
……帰るトコ、あんだろ?

人間に小鳥をあげると、いつも埋めてしまいます。
女の人も、悟浄とおんなじ場所に埋めてしまいました。
そこはいつもお花が咲いています。
人間はお花を食べるのかもしれない。
女の人のしろい服が、血のあかい色と、泥んこによごれてしまいました。
雨にぬれて、寒そうでした。
悟浄も一緒にぬれてました。


帰りな。
帰るトコあんなら。
自分の似つかわしい世界に。
……優しい女の似合う世界に。


○月 ○日(雨)
雨と風がつよいので、悟浄が窓をぜんぶ閉めてしまいました。
おそとに行けなくて、ぼくたちはがっかりです。
悟浄がため息をついたので、三蔵がねこじゃらしを持って行きました。
しばらく悟浄とねこじゃらしであそんであげていました。
たまには悟浄ともあそんであげましょう。
さびしそうだったら、優しくあそんであげましょう。
晴れたらこんどはお花を持って来てあげてもいいかなあと、ちょっと思いました


逢いたい人がいるなら、迷わず逢いに行けばいい。
天の川なんざ、死ぬ気になりゃ泳いで渡れるんだよ。
雨が降ろうが、槍が降ろうが、何がなんでも渡ればいい。

……ああ。俺、今、淋しいのか?
明日になりゃ、またいつもの酒場に行くさ。
嘘つきで、優しくて、寂しがり屋の女なんざ星の数ほどいるからな。
おい。オマエら。今夜は一緒に寝てやるよ。ありがたく思え。














 終 







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■ note ■

カウンタの10,000 HITを踏んで下さったユーキさんへ
リクエスト内容は『子猫日記』の続編を…とのことでした
ちょっと大きくなった子猫達と、ちょっと切ないご主人様になりました(ごくー…ごめん)
ユーキさんには、逞しく成長しつつある八戒猫と三蔵猫と、結局優しいごじょさんを捧げます

10000ヒット、ありがとう