◇◆ "SUPER AYUIZUM !" SPECIAL EDITION ◆◇

   

   

STAY WITH ME 3

EPISODE - One day of the Honey days -

   


    

 例えば、誰かが祝ってくれるから、自分の誕生日が嬉しかったり
 それとか誰かが一緒にいてくれるから、キャンドルを眺めるのが素敵だったり
 一緒に口ずさんでくれる人がいるから、
 おんぼろラジオから聞こえる懐かしい歌が好きだったり

 そんな積み重ねを貴重だと知ってる自分のことも、愛せたりするんだ

      

         

          

「結構怠惰ですねえ」
「いいじゃねェか、これはその為にあるんだから」


      

 三蔵の部屋の窓辺の特等席には、古いカウチがある。多分、イイモノなんだろうそれの脚は、猫足というのだろうか。優美な曲線を描いている。
 「ばら色」としか言い様のない、落ち着いた、でも少し優しくくすんだ色の天鵞絨張り。
 僕のアパートの隣室に越してくる時にも、衣類や本は悟浄の車に乗せたのに、これだけは別便で送って来たのだ。大事な大事な宝物。古くて、三蔵以外の誰も貴重とは思わない宝物。

 僕たちのアパートは、洋館と言えなくもない古い木造だ。正面エントランスの扉を両側に開くと、もう傷だらけになってしまっているけれど、床にモザイク模様がある。モザイクのばら窓模様の中央を通ると、磨かれた手すりの階段。
2階に僕たちの部屋がある。

    

 僕たちの部屋を区切るのは、小さなバスとキッチン。この間まで僕が占領していたスペースに、三蔵のこまごまとした物が置かれているのが、なんだか嬉しかった。例えばリネンや、香りの違う石鹸や、好みの味のシリアル。

知らないのに、どこか親しみを感じる小物の数々。それから彼が後から買い足したワインラックや、僕が探してきたティーポット。
 古い家屋だけど、いつだって日溜まりの中にいるみたいだ。

    

 僕はキッチン側のドアから顔を出したところだった。カウチにふかふかのクッションを当てがい、裸足の片足をだらりとさせて寝転がっている三蔵。僕が声を掛けると、顔の上に開いていた本を、ひょいっと上げて答える。日溜まりの中で、猫の様に微睡みを楽しんでいる。

「これがあるから、他には何もないけどいい部屋に見えるだろ」
「本当に何も無いですねえ…」

 僕は少し笑いながら答える。
 正方形の部屋に、デフォルトのデスクとベッド、クロゼット。かなり重たかったデスクを横にずらして、無理矢理に窓辺に置いたカウチ。ぐるりとそれらの物に囲まれた、部屋の中央はまるきりのスペースだった。

「読書中でした?」
「そう見えるか?」

 猫の様に伸びをして、三蔵は起きあがる。気持ちよかったけど、退屈してきた。そう言いながら。僕も答える。丁度僕も退屈してたんです。お茶でも淹れようかと思ってたんですけど、ご一緒します?ケーキありますよ?
 とても素敵な日曜日だ。 

「ホールのケーキだ」
「ひとりでいる時には、流石に買いませんでしたからね」
「カットしたケーキはひとりでも買ったのか」
「たまにはね」


   

三蔵の部屋の日溜まりの真ん中に並ぶケーキとティーセット。僕たちは床に座り込んで、なんだか子供がこっそり悪戯してるように額を寄せ合った。

「ちょっとお行儀悪いでしょうかね」
「いいんじゃねぇか?誰にも怒られる訳じゃなし」

 三蔵がケーキを切り分けるナイフに付いたクリームを、ぺろりと舐めた。危ないことするんだから。ナイフを取り上
げられた三蔵は、今度はケーキに載っていた木イチゴを手でつまみ取った。

「大人なのに」
「子供がやったら叱られるだろうが」

 笑いながら寝転がる。寝転がったままでまた木イチゴに手を伸ばす。僕は三蔵の腕を捕まえ、木イチゴを自分の口に
入れた。

「大人なのに」
「子供がやったら喧嘩になるでしょう」

 僕はそのまま三蔵の指についたクリームを舐めた。三蔵は笑っている。だから僕は彼の掌に唇を移した。手首の青白い血管に沿って、唇を移した。肘の内側まで続けて、唇を離す。三蔵はまだ笑顔のままだった。

「好きですよ」
「ああ」
「とても好きですよ」
「ああ」

 三蔵は、満足した猫の様に、美しく伸びをした。

「オレも…」

    

 日溜まりが柔らかくて、日に透けるあなたの髪が綺麗で、優しげな瞳の色が大事で。だから、木イチゴの匂いのする接吻けをした。僕たちの今の時間は、カウチの天鵞絨の色に似ているかも知れない。

 三蔵は指で大きくクリームを取った。まだ舐めるの?と、思ったら僕の頬に付けられた。本当の悪戯っこみたいなことをする。驚いていると、また反対の頬に塗られる。

「三蔵!」

 手を捕まえようとして、反対にひっくり返された。笑う三蔵の顔が、僕の真上に来る。顔を舐められる。くすぐったい。頬も、唇も、鼻も、目蓋も、額も。舐め取られてるのか、広げられてるのか。どっちだろう。僕は諦めて、日溜まりの真ん中に寝転がる。三蔵は僕の上で猫のようにクリームを舐め続ける。ねえ、まだ味するの?

 なんて眩しいんだろう、今日の太陽。今日のあなたの髪。目。僕は三蔵の髪を撫でる。そのまま、背中の曲線まで。
何度も何度も、撫でてやる。

「…くすぐってぇ」

 どっちがです?
 とても暖かな日溜まりの中で、僕たちはずっとそれを続けた。お茶は冷めてしまったけど、今度は寒い日に一緒に飲もう。熱いお茶を一緒に飲もう。

   

    

 カウチは、大事なご主人を取られて、手持ち無沙汰そうだった。日溜まりの特等席で、文句ありげに僕たちを見ていた。

 たまにはご主人、貸してくださいね。三蔵の宝物さん。
 僕だって、キミに焼き餅妬くことだってあるんですから。

 カウチはやっぱり手持ち無沙汰そうに、でも笑いながら僕たちを見ているような気がした。

   

   

<終>

   


 

和泉歩さまに差し上げた666 HITのリクエスト小説に、素敵なイラストを付けて頂きました。イラストだけを頂いて、自分で編集作業をする予定だったのですが、全体をこんなに美しいセピアトーンで統一して頂いて……そのままこちらで上げさせていただきました。感激。どうぞこのうつくし優しいイメージで続きも読んで貰えると…STAYの人達、好感度アップとか…他力本願。あゆさん、心より、ありがとうございます。

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