by 剣菱=蝉丸
一方的に会話を打ち切って三蔵がベッドに入ると、八戒と悟空も諦めたかの様にすぐにそれに続いた。しかし誰も眠ることなく、ただ沈黙の中の責める空気だけが部屋を満たしていた。三蔵が部屋を出る時にも、二人とも眠っていないクセに身じろぎひとつしなかった。
「サルのクセに黙って責めるなんて高等技術使いやがって」
「…八戒に仕込まれたんじゃねーの?でもアレっしょ?良心が咎めるから、沈黙に耐えきれずに逃げ出して来たンっしょ?」
S&Wの引き金を引きかけ、止める。
「……クソ忌々しい」
「誰だって沈黙が一番コワイのよー」
悟浄が笑いながら三蔵の背を叩いた。それに冷たい視線を一度だけやり、グラスを一気に呷る。
「正面切って文句言われたり、聞こえる様に陰口叩かれる方がマシだぜ」
「聞こえても来ない声が響いて来たり、雑踏の中の方が静かだったりするもんだぜ。誰かの間にいても孤独だったり、もういない人間が側にいるような気がしたりとかよ」
悟浄はグラスを顔の前に掲げ、氷をライトに透かす様に眺めていた。
家族と共に暮らしていても孤独だった子供の頃と、愛憎の入り交じった義母の瞳、同じベッドにいても赤の他人だった女達、躯だけは熱くなっても冷め切っていた自分の眼…そんなものを微かに思い出しながら。
「…隣り合って座ってても、一緒に飲んでないとかさ」
にやり、と三蔵に笑い掛ける。
「……河童如きに説教されるとはな、オレも堕ちたもんだぜ」
「これ以上堕ちないように、これ飲んだら戻るか。明日も早いんしょ?」
「……もう一杯だけ飲んでからにする」
「じゃあ付き合うか」
「だから一緒に飲んでねェんだよ!」
それでも悟浄は新しいグラスを三蔵のグラスに合わせようとした。ひょい、と避ける三蔵。またグラスを近づける悟浄に、更に避ける三蔵。
3度目に悟浄がグラスを近づけようとすると、今度は三蔵は避けなかった。
「ン?」
「……クソっ垂れ」
苦虫を噛み潰した様な三蔵と、悟浄は今度こそグラスを合わせた。