| 恋患い3 / 白猫 |
|
【ハボロイ】 『恋患い3〜ロイ編〜』 「おはようございます、大佐」 「ああ。おはよう、ハボック」 名前を呼んだとき、至近距離から覗き込む蒼が、それはそれは嬉しそうに煌めいた。 気まずい。 挨拶だけはよかった。というよりも、目を開けた途端に声を掛けられて、咄嗟に返しただけのことなのだが。 だが、この後は一体どうすればいい? にこにこと見下ろしてくる部下の顔を見つめているうちに、昨夜自分が仕掛けた悪戯を思い出して、頬が熱くなる。コイツは覚えているのだろうか。寝室を出て行ったコイツをわざわざ連れ戻して、服を剥き、ベッドに引っ張り上げた上司をどう思っているだろう。挙げ句、この身体に乗り上げて、キスまで仕掛けて、尚且つ物足りなさまで感じていた自分。 ダメだ。 思い出す程に熱くなっていく頬をなんとか隠すため、慌てて身体を反転させようとして。 「痛ッ」 自分の身体の下敷きになっていたらしい腕が酷く痺れていることに初めて気付いた。身体を支えようとした腕に力がまったく入らずに、そのままベッドに俯せに倒れる。 なんて態だ。自分のあまりの体たらくに、頭を抱えたくなったとき。 「だ、大丈夫ですかっ」 ハボックの真剣な声が背後から掛けられた。 いや、別になんとも。自分の身体の下敷きになった腕が痺れているだけだ。 あまりの情けない理由に一瞬返事を躊躇する、と。 「俺が無茶したからですよね」 …は? 咄嗟に掛けられた言葉の意味が理解できずに、そっと背後を伺うものの、酷く真剣な顔をしたハボックのどこか痛ましそうな表情に掛けるべき言葉が見つからない。 「大佐。どうかひとつだけきいてください」 一体何を言おうというのか。あまりにも真剣な眼差し。 「俺、あんたに一生付いて行こうと決めていました」 一瞬唇を噛み締めたハボックがゆっくりと言葉を続けた。 「だからこそ、俺、あんたのことそういう意味で気になっているだとか、あんたを抱きたいとか、一生言うつもりはなかったんです」 突然の告白に身体が硬直する。 いま、コイツは何を言った? ソウイウイミデキニナッテイルダトカ。 アンタヲダキタイトカ。 まさかコイツが私のことを、本当に? 「あんたが男には興味ないのは解っていましたし、俺だってあんた以外の男に、そんな想いを持ったことなんかないです。だからこれは恋愛感情なんかじゃなくて、きっと尊敬の気持ちなんだと言い聞かせようとしたんスけど、普段のあんた見てるとそれも無理で」 何がどうして無理なんだ? 突っ込みたいのをなんとか堪える。 「だからこれはきっと本当にそういう意味で、けどあんたにはそんなこと絶対に言えなくて、でもそれでいいって思ってたんです。あんたを好きだということ、俺がそれを判っていればもう充分で、そういう関係にならなくても全然…、いや、でも勿論あんたにキスしたいとか、もっといろいろシたいとか思ってなかったワケじゃなくて…」 アンタヲスキダトイウコト。 心臓を直撃した台詞を噛み締める暇もなく、続けられたかなり際どい内容の告白に、なんだかひどく恥ずかしくなって、そのままシーツに顔を埋める。それをどう勘違いしたのか、ハボックの声が小さく掠れた。 「でも本当に、あんたを傷つけるつもりなんかこれっぽっちもなかったんです。なのにこんな…。どんなに謝って済むことでもないと解っています。けど本当に…」 ごめんなさい、と呟くハボックに、それでなくともいい加減パニック状態だった頭のなかは益々混乱する。 どういう意味だ? こいつは何を謝っている? こっちが一方的に仕掛けた行為にどちらかといえば、謝るのはこちらの方ではないのだろうか。 「大佐」 ひどく沈痛な声に、そっと顔を向けると、そこにはいつもの輝きを失って、痛々しそうに細められた蒼。 「こんなこと、あんたに言っていいのか解らないんスけど。でも、あんたに嘘をつくのは嫌だから」 そのまま、まっすぐに見つめられる。 「大佐。俺、あんたにしてしまったこと覚えていないんです。さっきまで、ほんとにあんたとのキスのことだけ考えてたんです。まさか自分がそこまであんたにしてしまっていたとは思っていなくて」 そして呆気に取られている自分の前で突然起き上がりベッドの上に正座をすると、頭をシーツに擦り付ける。 「本当にすみませんっ」 「なっ、ちょっと待て…ッ」 それ以上? キス以上の一体なにを、誰が、いつ、したというのか? 慌てて起き上がろうとして、また忘れていた腕の痺れにバランスを崩す。 「痛っ」 「大佐っ」 一瞬、背中に触れたハボックの掌が、何かに戸惑うかのように震えて離れていく気配を感じて。 「…あ。」 シーツに顔を埋めながら、ようやく気付いた。コイツはもしかして。 「大丈夫ですか? あの…痛いですよね。薬とか、えっと何かその…」 慌てたような声を背後にききながら確信する。コイツのどうしようもなくバカな勘違い。コイツはきっと。 「ハボック」 できる限り平静を装ったつもりだが、微妙に掠れる声。 「はいっ」 「ひとつ訊きたいんだが」 「はいっ」 「お前が覚えていないというのは、つまり…」 「…それは」 そして一瞬の沈黙のあと、意を決したかのような真剣な声。 「ごめんなさい、大佐。俺、あんたを抱いたこと覚えていないんです」 …いや、だから、それは覚えていないワケではなくて、行為がなかっただけで……。 果たして、この誤解は解くべきなのだろうか。 二日酔いだけではない頭痛を感じながら、ただ黙って枕に顔を突っ伏す。 このあと一体どうすればいいのだろう。 『恋患い4〜ハボ編〜』に続く。 |