| 恋患い16 / 白猫 |
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【ハボロイ】(そのテの描写があります) 『恋患い16』 好きです。 何度も何度も繰り返す。言葉にしないそれを、腕の中の人が聴いてくれているかはわからないけれど。 好きです。 そう伝えられることがただ嬉しくて。 「ッあ…」 いつも聴き慣れているものとは違った微かに高く掠れた声。掌に握った熱をゆっくりと高めていくと、僅かに眉を顰めた人が唇を噛み締めた。 「大佐」 傷をつけないで。 空いた手を伸ばして、唇に触れて。それからまた、朱色に染まった尖りに接吻ける。淡い桜色だったそれは、すっかり朱く立ち上がり、舌を這わせるたびに身体ごと揺れる。 感じてくれているのだろうか。 そんなことを口に出せば、きっと怒ってしまうだろうから。何も言わずに、けれど心のなかでなんども問いかけた。 ねぇ、気持ちがいいって思ってくれていますか? ガツ。 突然、頭の天辺を殴られて一瞬目の前を火花が散った。 「痛ッ! ちょ、なにすんですか」 慌てて顔をあげると、怒っているような拗ねているような微妙な表情でみつめてくる人。 「大佐?」 「…なんでもない」 「って、あんたね。なんでもなくて最中に人を殴らないで下さいよ」 「煩い。お前が悪い」 やっぱり怒っている。一体なにを? と思った瞬間に気付いた。この人は何も知らない女性なんかではない。こういう行為に慣れているロイにとっては、自分のやり方は苛つくほどにもどかしかったのではないだろうか。 「……あー。えっと。もしかして、まどろっこしかったですか?」 「あ?」 はっきりとは答えない人の代わりに、そりゃそうだろう、と自分で突っ込んだ。いつまでも撫でているだけのクセに、気持ち良くなって欲しいも何もあったものじゃないだろう。態度で示されるまで気付かなかった自分に舌打ちする思いで、これまで握っていたものに顔を寄せる。 「ハボ…ック! 何をっ」 目の前に迫ったロイのものがもうすっかり勃ち上がってるのがなんだかひどく嬉しくて。こういうのを末期っていうんだろうな、と他人事のように思う。男のモノをみて喜ぶ日がくるとは思ってもみなかったのに。 「ちょっ…、ハボッ、な…」 舌を這わせた途端に聴こえた切羽詰まったような声。 「や…ッ」 ああ、限界が近いんだろうな。 震えるそれに、そんな感想を抱きながらキスをして。けれど、もうちょっと我慢してもらおうと、根元を握りしめる。 「大丈夫ですか?」 「…お前は随分と慣れている様だな」 酷く不機嫌そうな声で嫌味を言われるのはいつものことだから、今更動じる程のことでもない。 「まさか。揶揄わんでくださいよ。こんなこと初めてに決まっているでしょう」 尤も昨日から数えれば二回目の筈だけれど。 「でもまあ、同じ男のことですし。どこが気持ちいいかくらいはだいたい解りますから。あ、でも、もし外してたらちゃんと言ってくださいね。あんたの気持ちいいところ、全部知って全部覚えてしまいたいんです」 「…なぜだ」 「大切だから」 当然でしょう、と囁いてから、また唇を近付けた。何故か大人しくなったロイを良いことに、今度はゆっくりと含んでみる。慣れていない分は、知識でカヴァーすればいいだろう。いつもこの人が相手をしている女性のように、綺麗でも柔らかくもないかわりに、どこをどうすれば気持ちがよくなるかは、絶対に自分の方が女性よりも解っているハズだ。 「ん…あっ」 頭の上から聴こえて来る熱く艶のある声に、ぞくぞくと身体を駆け上がる熱。 「ハ…ボッ…」 「出したいですか?」 銜えていたものをそっと離してから太股に手を遣って囁く。 「でも、もうちょっとだけ待ってくださいね」 「ハボ…ック?」 「ああ、ちょっとこれだとやっぱり身体辛いかもしれませんね」 今度は、催促されるようなことがないように。けれど、あまり辛い体勢は取らせたくなくてそのまま身体を返させて。 「え…?」 ああ、もしかしたら傷付けてしまっているかもしれない。不意に昨夜のことが心配になって、目の前の白い膚をぎゅっと掴んで広げてみる。 「な、ハボック! お前何をっ」 酷く慌てた声を無視して、初めてみる場所にそのまま舌を滑らせた。 「いッ…」 びくんっと震える躯。感じてくれているんだろうか。痛い、というわけではなさそうな様子にほっとする。 「ハボック! んんっ…ッ」 指の先で押し開いた場所に、尖らせた舌先を滑り込ませようとした途端、跳ね上がる身体。 「やめっ、ハボック!」 「傷はついていないみたいですね」 「え?」 「昨日、もしかしたら酷い傷をつけてしまったんじゃないかって、心配だったんですけれど」 よかった、と安堵の溜息をつくと同時にわきあがった疑問。それなら一体どうやったんだろう。このままイれてしまえば傷が付いてしまうのは必至だろうから。 「もしかして俺、なにか薬とか、えっと潤滑油とか使いました? あとクリームとか。大佐、何か持ってたりします?」 何気ない言葉に、なんとなくベッドの上の空気が変わったような気がした。 「ハボック」 「はい?」 「離れろ」 「は?」 「今直ぐ離れないと内臓に火をつけるぞ」 げ。 いろいろ脅しの言葉は聞いて来たけれど、これは初めてだった。内臓、と言われて想像した途端ヘンな汗がだらりと流れる。それは痛いだろう、きっと、いや、絶対。 「大佐? あの。なにを…」 ベッドの上に転がされて、ひどく冷たい視線でみつめられるのは、自分の中心で元気に勃ち上がるモノ。 「あー。大佐? そういう目付きでみられるのはちょっと照れるっつーか、かなり恥ずかしいっつーか、いたたまれないっつーか…」 「黙れ。いたたまれないワリにはデカいぞ。この節操無し」 「いや、それは関係ないでしょうって」 「黙ってろ」 デカいと言われるのは悪くはないが。だからやめる、と言われたら泣くに泣けない。 「…確かにこのままでは無理だな」 眉を顰めたまま呟いたロイが、何かを思い出したようなカオで視線をあげるのを黙って見つめる、と。 「待てよ」 「大佐?」 「確か前にヒューズが…」 ……ちょっと待て。どうしてそこであの人の名前が出てくるんだ? 愕然とする自分に気付くことなく、ベッドの上を移動した人が、小さな引き出しから取り出したのは何かのクリーム。 「ああ、あった」 得意げなカオ。このカオは見たことがある。そう、ついさっき、どうしようもない誤解の元になった着替えを取り出したときの嬉しそうな表情と同じカオ。あのとき馬鹿な誤解をしてこの人を傷付けたのは自分。それに気付いてしまえば、もう疑問を口にすることなどできるはずもない、…が。 「これなら使えるだろう」 「……ですね」 なんでそこであの人なんですか? あの人とそのクリームとあんたは一体どういう関係なんですか? 悶々とする自分に欠片も気付くことなくクリームを手に取る姿。 シャワールームにあった大きなバスローブ。寝室にあったサイズの違う下着に寝巻。挙げ句の果てにベッドに置いてあるクリームに、当たり前のように口から出される男の名前。 …これで誤解するなっていう方が無茶なんじゃないだろうか。 コレは、どうしようもない小悪魔なのか、それともどうしようもない天然なのか。どちらにしてもあまり歓迎したくもない事実に頭痛を覚える自分の前で、今度は微妙に研究者のカオになったロイが突然手を伸ばしたのは。 「ンッ…ッ」 微妙な展開にも関わらず元気に勃っていたモノが、不意に触れられて、益々質量を増す。 「おい。どこまでデカくする気だ」 「不可抗力ですって…」 「いい加減にしろ。それ以上は予想の範囲外だ」 「予想ってあんたね」 ゆるり、と、擦りながらクリームを塗り込められて、そろそろ限界に近付くのを必死に宥める。 「こんなものか」 「なに…が、っすか」 なんとか平静な声を出せたかと思った次の瞬間。 「ちょ、大佐っ! あんたなにをっ」 勃ち上がったモノの上に、なんでもない顔で腰を落としてくるロイに心臓が跳ね上がった。 「なにって、イれるんだろう? 他に何があるんだ?」 「大佐! それはマズイですって!」 「何がだ」 「だってこれじゃ逆じゃないっスか。あんたがそんな…」 この人に気持ちよくなって欲しい。そのために何でもしようと思っているのに。 「…お前がイれて欲しいのか?」 「じょ、冗談でしょ…」 なのに、返ってきた言葉は絶句するしかないようなもので。 「そうじゃなくて。なんであんたが主導権握ってんですか」 「なんだってお前にそんなものを渡さなければならないんだ? いいからお前は黙ってろ。煩くしたらヤらないぞ」 このひとがこういう人なのは判っている。けど、これは。 「くっ…う」 「大佐! 無理です、せめて慣らしてからっ…」 「黙れっ」 「大佐っ」 酷く顰められた眉。痛みを必死に堪える表情。息を詰めて、真っ赤な顔をして。そんな顔をさせたいんじゃないのに。 「大佐!」 「待ってろ!」 「だってこのままじゃ、あんた全然気持ちよくなんかないじゃないですか!」 これは違う。絶対に違う。この人に痛い思いをさせるつもりなんてない。ただただ気持ちよく感じてほしくて。どこまでも気持ちよくなってほしくて。そのための行為なのになぜ。 「そういう…もの…じゃ、ない…だろッ」 「何がですか!」 叫ぶ声が奇妙に掠れた。泣きたいくらい情けなくて。もしかしたら、本当に泣いてしまってるのかもしれなかった。 「大佐!」 「動くなっ! もう、少しだ…ッ」 イタくて悲しくて。なのに、自分が感じているのは、痛みだけではなくて、じわりと侵蝕してくる快感。 「んッ…ぁあっ」 これは違う、と思いながらも、どうしようもない快感に、身動きすることもできなくて。 「大佐…」 「ハボッ…ク。お前…は、気持ち…いい…のか?」 繋がった場所が酷く熱かった。こんな熱さも快感も、これまで感じたことなどなかった。この人を傷付けたくないと思うのに、このまま突き上げてしまいたいという欲望を抑えるのが精一杯で。 「ハボ…ック?」 「気持ち、いいです。すみません、ほんとは、このままあんたを滅茶苦茶に突き上げたい…です」 「それは…よかった」 きれいに笑ったひとが、泣きたいくらい愛おしかった。 ふう、と息をついて、今度は可笑しそうに笑った人を抱き締める。言葉もなにも要らない。ただずっとこのまま繋がっていたかった。 「大丈夫ですか?」 「ああ。気持ちがいい」 漸く落ち着いてから、こんどこそこのひとに気持ちよくなってもらおうと、ゆっくりと体勢を整えた。少し動くたびに、痛みを堪えるロイの表情に胸を掴まれながら。どこをどうすれば快感が生まれるのか、少しずつ、探るようにそっと腰を揺すって。 「苦しくないですか?」 「ああ、ちょっと。だが、大丈夫だ。お前は…いいのか?」 「え?」 「もっと、動いてもいいぞ。これでは、いつまでたっても、達けないだろう?」 「そんなことないです。今すぐイけって言われたらすぐにイける自信があります」 「なんだ、それは」 呆れた声。けど、そんなこと当然なのに。 「だって、あんたが相手なんですよ? いま、俺の下にいるのは、他の誰でもない、あんたなんですよ? あんたのこんな顔みて、触って、キスしてるんですよ。その上、あんたとこうして…」 「あ…ッう…ん」 そっと腰を揺すれば、どうしようもなく可愛い声に煽られる。 「繋がっていて、可愛い声を聞かされてるってのに、イけないワケがないでしょう」 「か、かわい…」 「可愛いですよ、ほんとに。もうどうしていいか解らないくらい可愛いッス、あんたは。こんなあんた、絶対誰にも見せたくない」 さり気なく囁いたつもりだったのに、声が震えて失敗したことを知る。ああ、怒らせただろうか。けど、ごめんなさい、これが本音なんです。誰にも触らせたくない。このひとに触れるすべてのものに、これからきっと自分はどうしようもなく嫉妬してしまうだろう。そんなこと、許される筈もないのに。 「大佐?」 「馬鹿か、お前は」 「痛ッ」 額を指で弾かれて俯けば。 「誰にも見せる筈ないだろう。これは」 呆れたような。でも優しい声が。 「お前だけのものだ」 「た…」 「だからお前も」 ああ、このひとは。 なんてきれいに笑うんだろう。 「私だけのものだ」 「たい…さ」 「なんだ、お前。泣きそうな顔してるぞ」 ずっと好きだったひとが向けてくれた最高の笑顔に。 だからすべての想いを込めた一言を。 「大切にします」 「…なんだかプロポーズみたいだな」 「だってそうですから」 「男にプロポーズするのか?」 「男に、じゃなくて、あんたにしてるんです」 「本当に馬鹿だな。お前は」 「はい」 「私は…」 言葉が切れる。煌めく黒い瞳が揺れた。 多分、馬鹿なことを言ったのだろう。だって叶う筈もない。結婚どころか、いつまで一緒にいられるかどうかもわからない。自分の立場も役目も義務も理解しているから。そしてこのひとは、自分なんかと一緒にいていいような人ではないから。 けれど。 言葉を後悔などしていなかった。例え何があっても、どんなことが待ち受けていても、自分が選んだのはただひとつ。 このひとと一緒にいたい。 それだけだと。 「本当に馬鹿だ」 「大切にしますから」 「私はお前のことなど」 「好き、でしょう?」 「だから馬鹿なんだ、お前は。そんなこと…当然だろう」 ちゃんと大切にしろよ。 目頭が熱くなったのを気取られないように、目の前の愛しいひとを強く強く抱き締めて。 けれど、掠れた小さな返事では、きっと全部バレていたに違いなかった。 『恋患い17〜完結編という名のオマケ』に続く |