| 恋患い13 / 白猫 |
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【ハボロイ】 『恋患い13〜ロイ編〜』 接吻けというものは、こんなにも優しいものだっただろうか。 厳かと言ってもよい程の雰囲気のなかで与えられるそれは、それでも、触れられた瞬間にまるで電流が奔るような熱さを含んでいて。 「大佐」 なにかを心から慈しむような声。コイツから、こんな声をかけられる対象とは一体どれほどの価値があるものなのだろう。そんな風に思ってしまってから、その声が自分自身に掛けられていることに気付いて躯を震わせる。 「大佐」 瞼に触れた唇が、ゆっくりと鼻筋を降りてくる。唇の僅か上に触れたあと、まるで焦らすかのように頬に逸れたそれに軽く眉を顰めると。 「大佐?」 例えどんな僅かな表情も見逃さないとばかりに、すぐに声音が変化するのがくすぐったい。 「たい…」 もういちど声をかけられる前にそっと舌先を覗かせて誘えば、一瞬息を呑む気配のあと、すぐに引っ込めた舌を追い掛けるように、それでも多少躊躇いながら近付いてきた唇が柔らかく重なった。 「大佐」 重ねられた上から掛けられる声。震える吐息。与えられるものは、どこまでも甘い。昨夜、意識のないコイツに同じ行為をしかけたときには、同じ場所も、こんなに柔らかくも甘くもなかった筈なのに。 「ヘンだな」 思わず呟けば、慌てたように唇が離される。 「え? なにがですか?」 ひどく焦ったような、情けない声に、思わず笑いが洩れた。 「ああ、お前のことじゃなくて…」 言いかけて、これではまた誤解を生むと、慌てて言い直す。 「そうじゃない。お前のことなんだが…昨日とはまるで違うから…」 「あ…」 途端に、しゅんと項垂れた奴に、もっと悪いことを言ってしまったと気付いて小さく舌打ちする。 「すみませんでした。昨日はきっと俺ひどいことを…」 「いや、だから、そうではなくて」 …なんと言えばいいんだ? 今更、昨夜は何もなかっただとか、こちらから勝手に仕掛けたもののお前は何もしなかっただとか、そんなことが言えるものだろうか。 「大佐、俺…」 「もういいから」 随分と勝手だと自覚はしているものの、これ以上、ややこしくなるのは御免だと。 「続きを」 こちらから重ねた唇の向こうで、困ったような顔で笑ったハボックが、また柔らかな接吻けを返した。 唇が喉元を降りて行く。羽織っていただけのシャツを脱ぎ捨てて横たえられたベッドの上で、同じくローブを脱ぎ捨てたハボックの裸体が重なる。ずっと望み続けて、何度も頭のなかでシミュレーションさえ重ねた行為に、けれど初めてのように震える躯。 「大佐」 こいつは、他の言葉を忘れてしまったのだろうか。可笑しくなるくらいに、同じ言葉だけ繰り返す奴。それは、あくまで階級であって名前ではないのに。こいつが呼ぶと、こんなにも心に響くのは何故なのだろう。 「ハボック?」 自分の声は同じようにこいつのなかに響くだろうか。 「どうかしましたか?」 鎖骨の上をなぞっていた唇が動きを止める。 「いや、なにも。続けろ」 「もし、気持ち悪かったら…」 「煩い。下手な気を遣うな。早くやれ」 「…あんたって」 呆れたような呟きのあと、くすりと笑ったハボックがゆっくりと顔を胸に埋めてくる。 「…ッ…」 普段はその存在さえ気にすることもない尖りに、熱い舌先が触れて押し付けられる。例えば、美しい女性の豊満な胸や、何も知らない処女の薄桃色の柔らかな膨らみであれば、この行為もどれほどこの男を愉しませることだろう。けれど、自分のそれは、あまりにも貧弱でつまらなくて。一体どうすれば、コイツを悦ばせてやれるのだろう。気持ちがいい、と。そう思って貰えなければ、せっかくここまで漕ぎ着けた行為にも意味等ない。 「あ…ッ」 何度も押しあてられる舌が、突くように、そして円を描くように、その場で蠢いていく。そのたびに、ぞくりと躯が震えてしまうのに、心のなかで首を振る。このまま自分だけ気持ちよくなっていても仕方がない。 なんとかして形勢を変えようと一旦身体を起こそうとしたとき、ハボックの大きな掌に下腹部を撫でられて、身体が跳ね上がった。 「ハボックっ」 叫んだ瞬間に、中心で既に勃ち上がりかけているものを握り込まれて。 「なっ…」 ゆるりと擦られたものが、一気に熱を持って形を変える。 「やっ…、ハボッ…」 思わず被さってくるハボックの身体を押し退けようと腕を伸ばした途端、呆気無く放される掌。 「いやですか? やめます?」 心配そうな口調で掛けられた声は、揶揄しているわけではなく、真剣に気遣っているのだと解るのが、ひどく悔しくて。 「馬鹿か、お前は。お前にそんな余裕があるのか?」 ずっと足にあたっている硬いものに、こっちが気付かないとでも思っているのだろうか。もしも、ここで、イヤだと言えば、こいつはこのまま離れてしまうのだろうか。 「余裕なんてあるワケないですけど。あんたを傷付けるのはいやです」 真摯な声で。けれど、こいつは本当に何も判っていない。小さく溜息をついたあと、蒼い瞳をまっすぐに見据える。 「ここでお前が離れていった方がずっと傷付く」 「あ…」 「いいか、こんな場面でのイヤなど言葉のあやに過ぎないことくらい判れ。このあとまた一度でもそんなことを言ったら、もう二度とお前など相手にしない。例え私が嫌だと言おうが抵抗しようが喚こうが、本気でやりたいなら、最後までやり通せ」 一気に捲し立てると、困ったような顔で頭を掻く奴。 「……いや、それはちょっと…」 「…本気ではないのか?」 矢張り本気でやりたいというワケではないのだろうか。 眉を顰めた瞬間、目の前でぶるんっと首を振ったハボックが慌てたように声をあげる。 「とんでもない! めちゃくちゃ本気ですよ! でも、それじゃ、その、もし大佐が本気で嫌がってた場合に強姦になっちまうじゃないっスか!」 「だからお前は何も判ってないというんだ! お前相手に私が本気で嫌がるワケがないだろう!」 「…え?」 目を瞠くハボックの前で小さく息をつく。いやだ、と、言ってしまった自分に遠慮するコイツに、今度はきちんと思ったことを伝えなければならないから。 「嫌じゃない。ただ」 「ただ?」 「自分だけよくても仕方がないんだ」 気持ち良くなるなら一緒がいい。 少しだけ俯いて囁いた言葉は、酷く掠れていたものの、きちんと届いたようだった。 「大佐」 満面の笑顔で抱き締められて、あたえられた接吻けに、身体が蕩けていく。 「あんたとこういうことしていて、俺が気持ちよくないワケないでしょう」 「…本当か?」 「当たり前です」 「それならいい」 「もう遠慮しませんよ?」 「望むところだ」 嬉しそうな笑顔を浮かべた奴の掌が、また中心をゆっくりと握り込むのを感じて、こんどはうっとりと瞼を閉じた。 一緒に気持ち良くなりたい。 『恋患い14』に続く |