恋患い14 / 白猫
【ハボロイ】



『恋患い14〜ハボック編〜』






好きだ、という気持ちは、どうやって伝えればいいのだろう。
何度も繰り返す接吻けを、腕の中の愛しい存在は、僅かにでも嬉しいと思ってくれているのだろうか。





「大佐」
耳許でそっと囁くと、ほんの少し揺れる身体。自分の声がひどく甘ったるいものになってしまっている自覚はあった。もしかしたら、笑われているかもしれない。そんなことを思いながらも、言葉を止めることなどできなくて。
「大佐」
瞼に接吻けてから、ゆっくりと唇を滑らせる。そのまま、まるで誘うように薄く開くロイの唇に触れかけて、気恥ずかしさに、そっと逸らすと、目の前の人の眉が僅かに顰められた。
「大佐?」
何か気に入らなかったのかもしれない。些細な表情の動きにも、わきあがる不安。
「たい…」
言葉を続けようとした途端、開いた唇から紅色の舌先が覗いて、思わず息を呑む。このまま接吻けてもいいのだろうか。不安は残しながらも、その誘惑を堪えることなどできなくて。
「大佐」
重ねた唇の上から、また声をかける。怖がらせたくはなかった。嫌な思いはして欲しくなかった。この接吻けに、自分が感じている気持ちの良さの例え半分でもその半分でもいいから、このひとにも気持ちよく感じて欲しい。それだけを心から願いながら、柔らかく触れる接吻けを繰り返す。
「ヘンだな」
不意に重ねられたままの唇から洩れた言葉に、びくんと身体が反応した。
「え? なにがですか?」
やっぱりいやだったんだろうか。同性の部下相手の接吻けなど、確かにヘンに決まっている。
「ああ、お前のことじゃなくて…」
けれど、目の前のひとは、当然のように首を振るから、つい安心しかけて。
「そうじゃない。お前のことなんだが…昨日とはまるで違うから…」
「あ…」
次の台詞に胸のあたりを殴られたような衝撃を感じて、思わず目を瞑った。
何故こんなに大事なことを忘れていたのだろう。そうだ、自分は昨夜このひとにひどいことをしたのではなかったのか。こんな一方的なキスに酔っている場合じゃ決してないのに。
「すみませんでした。昨日はきっと俺ひどいことを…」
「いや、だから、そうではなくて」
黒い瞳が揺れる。ああ、またこのひとを困らせてしまっている。
「大佐、俺…」
「もういいから」
なのに、このひとは何故こんなにも。
「続きを」
こんな自分を甘やかしてくれるのだろう。

今度は、向こうから重ねられた唇が堪らなく切なく愛しくて。
大好きなんです。ほんとうに心からあなたが好きなんです。
できるかぎりの想いを込めて接吻けを返すと、腕のなかのひとが、それはきれいに微笑んだ。




白く細い首筋に、ゆっくりと唇を這わせる。きっと高級な生地なのだろう、手触りの良い柔らかな白いシャツを自ら脱ぎ捨てたひとをベッドに横たわらせてから、羽織っていたローブを脱ぎ捨てて。素肌を重ねてみれば、僅かに震える白い膚。
「大佐」
「ハボック?」
どうか怖がらないでと、そっと囁けば、いつものエラそうな声とは違った柔らかな声が耳許をくすぐった。
「どうかしましたか?」
「いや、なにも。続けろ」
素っ気無い声に、気付かれない程度に苦笑しながら。
「もし、気持ち悪かったら…」
「煩い。下手な気を遣うな。早くやれ」
「…あんたって」
こんどは、きっと気付かれただろう。あまりにも、このひとらしい言葉に再度苦笑が洩れる。
「…ッ…」
白い膚の上にきれいな薄桃色の尖り。本当に此処に自分の唇が触れてもいいのだろうか。どんなに高価な宝石でさえ適わないだろうきれいな突起に、それでも堪えることなど出来ずに舌先を滑らせる。
「あ…ッ」
震える身体。舌が触れるものが、何度も突いて吸い上げるうちに硬く尖ってきて、どうしようもない酩酊感に襲われる。このままいつまでもずっと舐めていれば、きっとそれだけで自分はイってしまう。このひとを置いたまま。と、そこまで考えて我に返った。そんなこと許される筈がない。自分はいま、このひとに気持ち良くなって貰う為にこうしているのに。
腕の中で大人しくしていた身体が軽く身動きをしたのに気付いて、ぶるんと首を振った。この人にも気持ちよくなって貰いたい。けれど、そのためには一体どうすればいい? 考える余裕もないままに、掌が直接このひとの欲望に触れた。
「ハボックっ」
途端に掛けられた声に構わず、柔らかくそれを握る。
「なっ…」
ゆっくりと擦ると、少し膨らみかけていたそれが、ぐっと反り返るのがうれしくて。握り込んだ掌をそのまま何度も上下に動かすと不意に掛けられた声。
「やっ…、ハボッ…」
いやだ。
絶対に言わせたくなかった言葉に、慌てて手を放す。
「いやですか? やめます?」
また、このひとを傷付けてしまっただろうか。不安に掠れた声。けれど身体だけは正直で。硬く勃ちあがるものにこのひとが気付いてない筈はなかった。
「馬鹿か、お前は。お前にそんな余裕があるのか?」
案の定、呆れたような口調と眇めた目でみつめられて。
「余裕なんてあるワケないですけど。あんたを傷付けるのはいやです」
漏らした本音に、小さな溜息が応えた。
「ここでお前が離れていった方がずっと傷付く」
「あ…」
予想もしていなかった言葉に、自分の馬鹿さ加減を知る。
「いいか、こんな場面でのイヤなど言葉のあやに過ぎないことくらい判れ。このあとまた一度でもそんなことを言ったら、もう二度とお前など相手にしない。例え私が嫌だと言おうが抵抗しようが喚こうが、本気でやりたいなら、最後までやり通せ」
なんて、このひとらしいんだろう。
けれど、そんなこと、どうしてできると言うのか。
「……いや、それはちょっと…」
「…本気ではないのか?」
なのに、大切なひとは、こんなところで微妙に外してくれるから。
「とんでもない! めちゃくちゃ本気ですよ! でも、それじゃ、その、もし大佐が本気で嫌がってた場合に強姦になっちまうじゃないっスか!」
「だからお前は何も判ってないというんだ! お前相手に私が本気で嫌がるワケがないだろう!」
「…え?」
このひとは、いま、なんて言ったんだ?
ぽかんと口をあけた自分はきっとひどい間抜け面だったろう。呆れたような溜息をついたひとが、小さな声で囁いた。
「嫌じゃないんだ。ただ」
「ただ?」
「自分だけよくても仕方がないんだ」

ああ。と、一瞬で理解する。
同じことを考えていた自分達。気持ち良くなってほしい。その思いは、一緒に持ってこそのものだったから。

「大佐」

どうしようもなく嬉しくなって、目の前のひとを抱き締めて接吻ける。
自分が理解したことを、このひとにもちゃんと判ってほしいと。

「あんたとこういうことしていて、俺が気持ちよくないワケないでしょう」
「…本当か?」
「当たり前です」
「それならいい」
「もう遠慮しませんよ?」
「望むところだ」


とても大切で愛しいひとは、やっぱりとってもエラそうだった。


中断してしまった行為を再開するために、ゆっくりとそれを握り込めば。
うっとりと目を閉じたひとに、また煽られて。






このひとに最高の想いをしてもらいたい。








『恋患い15』に続く