とある日常 -1- 

太陽がいっぱい

その日は朝から延々の強行軍だった。
ギラつく太陽の下、果てしなく広がる砂漠を、砂塵を巻き上げただひたすら前進を続ける。

《…疲れた…》

ふと、弱音を吐いてみたくなった。

《時折、何か忘れてるんじゃないかと思うこともある。
このメンバーと共に過ごして、何か大事なことを思い出しかけることもある》

彼は自嘲の笑みを浮かべる。

《何を求めているのかも判らず、何を失ったのかも判らず、
 この身は流されて行くだけなのか。
 …疲れた。いっそ投げ出したい程に。
 …いや?投げ出してはいけないという理由はあるのか?
 ないのではないか?》

突き抜けるような青空に殺人的な光が満ちている。
彼は突然自暴自棄な自分に気付き、自嘲を深めた。

《…たまには投げやりな気持ちに我が身を任せてしまっても…いいだろう》


 ドン!

炸裂音と共に白煙が舞い、4人は投げ出された。
「何事だ!?」
「紅孩児の刺客か!?」
 砂まみれで転がる4人の真上で、ジープはくるりと円を描いた。
「きゅー(身勝手を許してください)」
「……ジープ…?」
モノクルの吹っ飛んだ八戒が声を掛けた。
三蔵はすっぽ抜けた草履を探して地面に手を突いたまま、ジープを仰ぎ見た。
逆光の中落ちて来た、きらりと光るものを掌に受ける。
「……ナミダ?ヨダレ?」
「きゅいーーーきゅいーきゅいー…(ごしゅりんさま、ごめんなさいーーーさいーさい ー…←エコー)」
「おあッ!ジープ!?」
「どこ行くんだよ!!」

4人に背を向け、ジープは天高く飛び立つ。
遠い所から、罵声が聞こえて来たような気がした。
探さないでください…、そう思いながら、ジープには涙が頬を伝うのを止めることが出来なかった。

「ジーーーープ!!…この…焼き鳥ーーーッ!!」
 三蔵の渾身の一投の草履がへろっと空を舞い、砂漠のど真ん中に、落ちた。




恋のバカンス

ご主人様、ごめんなさい。
道ならぬ、このキモチに整理をつける時間を下さい!

こんなジープの叫びが届いたかどうかは知らないが、ともかく旅のメンバー3人の視線は一斉にその飼い主たる八戒に注がれていた。
・・・少しばかりの非難を込めて。

「皆さん、僕になにかおっしゃりたいことでも?」
にこり、と優雅な笑顔で先制のジャブを放つ。
うっ、と詰まる三人だが、此処でめげてはいけない。
何しろ相手は八戒なのだ!
普段なら涙ならぬ煮え湯を飲むところを、今日ばかりは多勢に無勢と数を頼みに反撃を試みる。
「どーゆうことだよ、はっかいぃ?!」
子供は無邪気に疑問符を投げかける。
「さあ、急なことで・・・誰か苛めたりしませんでした?それともうっかり寝ぼけて齧ってしまったり、とかv」
「そんなことしねえよっ!」
ムキになって悟空が言い返せば、八戒の思うツボだ。
「じゃあ、いいんですよ、別に。『僕』は別にねv」

石になったペットの後を引き継いで、飼い主の三蔵が不機嫌そうに八戒を視線で責める。
「・・・三蔵?貴方もなにか?」
八戒の隻眼に嵌められたモノクルが、明るい陽光を反射してきらり☆と光る。

分の悪さと、さらには意味も無く(?)身の危険を感じた三蔵が、背中に流れる嫌な汗を無視して、矛先を変え、隣りの悟浄の脇を肘でつつく。
「な、なんでこんな時ばっかりオレよ?!」
と、かすかに声がひっくり返った悟浄の腹に今度は思いっきり、肘を入れる。

このクソ坊主!と叫びかけた悟浄のこめかみに、慣れた冷たい感触がして、カチリと激鉄の上がる音が、頭蓋骨をダイレクトに伝わって鼓膜に振動を与える。

前門の八戒、後門のS&W。
逃げてしまった白竜のために、沙悟浄・22才、通称エロガッパは絶体絶命の危機に陥っていた。




憎みきれないろくでなし

(冷や汗って、なんだか後で風邪引きそうな冷たさなんだよな…)
ふとヤサグレた気分になって、悟浄は空を仰ぎ見る。
ああ、太陽が眩しい。
八戒が微笑んでいる。

「……先ずさ。あれ…ナニよ?こーゆー風に荒んだ気分になるのって良くねえと思う訳よね。何か前向きな意見とかってねーの?」
「…悟浄。そういうことは、真っ先に自分が発展展開可能な意見を出してから言うんだな」
三蔵が「一切合切を投げ出すことに決めた」とでも言いたげな言葉を投げつける。
八戒の教育で知恵付いた悟空は、必死で無言の行に耐えている。
八戒も鉄壁の微笑みを崩す気配はない。
「う…あ…えーと?……ここで暫く、待って、みる?」
せめて場を和ませようという努力で、最後に悟浄は小首を30度程傾げて見せたが、すっぱーーーん!という、小気味よいハリセンの響きで労を報われる。

「…まあ、この場合悟浄の提案が正しいかもしれませんね。ジープ逃走の理由が判らないままでは、誰の責任という訳にも行きませんし。戻って来た時に僕たちがここにいないと、ジープも迷子になっちゃいますからねえ。幸い荷物も残ってますから、今日明日に飢えて死ぬという心配もないし」
ジープの飼い主の管理責任ということには全く触れずに言い抜けようとする八戒に、流石に三蔵が鼻白んだ表情をした。
悟浄が口からざーーーーっと砂を吐いているのに、八戒は急ににこやかに語りかける。
「でもね、悟浄。悟浄がこんなにジープのことを思いやってくれるだなんて、僕ちょっと感動しました。まさか『ここで待機』を悟浄が言い出してくれるだなんて…。言い出しっぺの責任を悟浄が持ってくれるだなんて…」
「ちょ、ちょーーーーっと待て!誰が責任だ!?飼い主は誰なんだよ、飼い主は!!言い出しっぺだろーが、何だろーが、他に選択肢はねえんじゃねーかよ?」
「ありますよ。ここで悟浄がひとりで待つとか。……普段ジープに載せて貰ってるのは、みんな同じですし。あなたを置き去りにするとしたら僕も良心は疼きますけど、ほら、三蔵と悟空の食事作るのなんて僕しか出来ないし…ね?」

「ね?」って、一体誰に向かって言ってるの?
大体八戒の「良心」ってどこにあるんだ?

八戒の他のメンバーはそう思いながらも、言い出せずにいた。
真昼の砂漠に現れた暗黒の微笑みに、悟空が口の中で呟く。
「悟浄、もうやめといた方がいーぜ。責任取っちゃった方が、いっそラクになれるって…」
八戒の微笑みと、悟空の同情のこもった目と、三蔵の逸らされた視線に、悟浄は世界中で自分がひとりぽっちであることに気付いた。
「……ジープ……焼き鳥にする時には、七味唐辛子大量にぶっかけてやる…」


その頃、ジープは天高く舞っていた。
既に地上に置き去りにした自分の飼い主の姿は認められない。
乾いた砂地が白茶けて続くのが見えるだけだった。
一転、空は何処までも高く、青い。
太陽に向かって羽ばたき続けるジープは、その眩しさに目を眩ませた。
視界に広がる純白の世界が、ジープの意識をどこかへと運ぶ。

《ああ、この真っ白な世界は、どこか覚えがある。この純白の中、誰かが居た筈だ。懐かしい誰かが、自分にも居た筈だ……》

脳裏にぼんやりと浮かび上がる姿を懐かしく求めながら、ジープは失速し、ゆっくりと落下して行った…。




川の流れのように

ぼちゃん、と擬音的な音を立て、世にも珍しい白竜は川に落っこちた。
たゆとう水の中、その小さい脳味噌内を駆け巡るのは、辛くも楽しかった旅の日々。
走馬灯のように駆け巡る思い出とはこの事か、とジープは感傷と川の流れに身を任せていた・・・と
行きたいところであったが。

西域の川は細かい砂混じりの白濁した流れが殆どで、ジープが落ちた川も例外ではない。
照りつける日差しによって温度の上がった生ぬるいざらつく水が、顎だの、瞳の粘膜だのを容赦なく攻撃する。
しかも溺死なんて一番苦しい死に方ではないだろうか?

おかしい、こんなはずではなかった。
本当の自分、新しい自分を探したくて、この胸のワダカマリの正体を突き止めるために、優しいご主人様(願望)や、いつも遊んでくれる少年(希望)や、結構人のいいガテン系(そのまま?)や・・・思い出すだけで胸(?)が苦しくなるような美僧だとか(ドリーム)・・・そんな人々を置いてここまできたのに、死体がもっとも醜いといわれる溺死をしてしまうなって・・・きっとご主人様は許して下さらない(・・・そうでなくても許してもらえるかなー?)。

「きゅーーーっ!」
最後の力を振り絞って、長い首を水面から出す。
そのまま力尽きて、水の中に沈んだあと、シープの記憶は剥落している。

至るところ創傷と裂傷だらけになりながら、運良くたどり着いた、人肌のような温度の、浅い泥の中。
あの一声が届いたのか、意識を失ってとある岸に流れ着いたカラダを掬い上げる白い手・・・

た、助かった・・・
そこでジープの意識はまた途絶えてしまう。

白い腕に引き上げられた白竜は、脱力してぐったりと目を閉じているが、外傷は無く、水も飲んだ様子も無いから、しばらくすれば目を覚ますだろう。
脇から掛けられた声は、心配と不安に満ち満ちている。
年のころから言えば壮年を過ぎた頃の気のよさそうな、そして気の弱そうな。
「・・・またそのような気まぐれで生き物を御拾いになって・・・どうなさるんです?」

「どうもこうもねえよ。しょうがねえじゃねえか、こいつが呼ぶんだから」
「時空までお曲げになって、ですか・・・しかし」
うけたコチラは心底楽しんでいるようで、低めのハスキーボイスが心地いい。
「いいじゃねえの、オレの名前どおりじゃねえか・・・ま、どのみちコイツの面倒なんて、お前の予想通りの人物が看るんだろうよ」
「・・・やはり」
深々と溜息をついた男の口ひげがそれにつれて靡く。

白竜が流れ着いた岸辺には、白い睡蓮の花が咲き乱れていた。




SHOCK HEARTS

ゆらゆらと、自分がどこかに運ばれて行くのが判る。
人を運ぶことを常としている自分だが、優しい腕で気を遣われるのも、悪くはない。
…「人を運ぶ」?
自分はそんなことをしていたんだっけ?
いや、そもそもの自分って、ナニモノだ?

ジープは慌ててその長い首を起こし、周囲を見回した。
自分が誰だか判らない。ここが何処なのかも判らない。
辺りには柔らかな花の香漂う空気と、どこまでも続く回廊。
立ち並ぶ朱塗りの丸柱を何十本通り過ぎた頃だろうか、ジープを抱いた人物はひとつの部屋へ入って行った。
「よお。相変わらず退屈そうだな。暇なんだろ?これやるよ」
「ああ!?何言ってやがる。これが暇に見えるのか、この書類の山が目にはいら…」
ジープは突然自分の身体が放り投げられたことに驚いた。
そして更に、自分を胸元で受け止めると思われた人物が、「わ、とと…」などと意味不明のコトバを口走りながら、キャッチし損ねて慌てて自分の身体をひっ掴んだことにも。
…どんくさい。
…3回、宙に浮かされ、最後にシッポを掴まれた時にはあわや顔面が床に激突寸前。
ぶら〜んとぶら下げられながら、嫌な汗をかいたジープだった。
「…おい、殺すなよ」
「急に生き物を投げるからだろーが!一体これは何なんだ。何故俺の所へ持ち込むんだ」
「そいつは迷い白竜。お前は暇人。故に適材適所。俺ってコーディネーターだよなあ…」
「ババァ、何ひとりでご満悦してやがる!?あ!待て、こんなモン、置いて行くな…!」
振り回されたジープの視界で、艶やかな黒髪の人物が扉を閉じながら振り返った。
「ま、暫く預かれ。…金蝉、俺も心配してるんだよ。可愛い甥っ子が激務に忙殺されて、明るい微笑みのひとつも見せないままに人生送ってるってのをよ…。どっかに潤いってモノを与えてやりたくてよ…」
「ババァ…」
フッ…と、黒髪の人物は憂いを帯びた横顔を見せる。
「……茶番はここまで。で、本心を言ってみろ」
「やっぱ、面白いからに決まってンだろ」
笑い声が響く中で、閉じられた扉に物が投げつけられた。

「きゅ、きゅ〜……」
金蝉と呼ばれていた息を乱す人に向かって、ジープは控え目に主張してみた。
延々逆さ吊りで流石に頭に血が昇り、息苦しさを感じて来たので、そろそろ解放して欲しかったのだ。
「ン…?白竜って言ってたか?泥がこびりついているが…コイツ元は白なのか?」
望みは叶えられず、ジープはぶら下げられたままで浴室に運ばれ、頭からお湯をかけられた。
手荒に身体をこすられた為に長い首が揺さぶられ、血が昇った挙げ句に目まで回って来た。
「…よし。こんなモンか」
乾いたタオルで自分を包み込み「金蝉」はジープの顔を覗き込んだ。
柔らかな日差しを返すけぶる金髪。
神秘のアメジストの瞳。
薄い肌を透かす頬と唇の血色。
「きれいになったな…お前」
金蝉が、ジープの目の前で微笑んだ。
柔らかな、湯気のように優しい微笑みだった。
「……きゅー」
ジープの真っ白な羽毛に、鼻血がタリッと垂れた。




Seventh Heven

「お、おい!お前しっかりしろ!」
ジープは 真っ白なタオルにくるまれたまま、やはり純白の衣装に身を包んだ金蝉に抱かれて、天界は観音菩薩が居城の、長い長い回廊を移動していた。
その白い鱗は、鼻腔から流れ出る鮮血によって赤く染まっている。
濁流にもまれ、ようやく岸に辿りつけばそのままなげだされて逆さ吊り。
しかも洗ってくれるのはイイのだが、どうにも慣れない手つき、ハッキリ言って「不器用」な人物にごしごしヤラレタあげく、温度調節もままならない冷水と熱湯でふらふらだ。
別にそれも、温熱療法というわけではなさそうだ。
が。
ジープことこの白竜が、そのために鮮血を・・・いや「鼻血」を出したのは全く別の訳で。
ともかく、色んなイミで極楽浄土で極楽行きな気分で、ゆらされつつも移動していた。

ばあん!と勢いよくドアが開く。
その振動に耐えられなかった本の山がどさどさと崩れ落ち、床に堪った埃がまき上がる。
「天蓬!天蓬!」
普段育ちの良さと天然ボケぶりを発揮して、大声で怒鳴ったり、乱暴な挙措をしたりしない人物が、必死な顔で戸口に立っている。
何事かと、顔の上に載せた本をずらしてみれば、金蝉童子が必死の形相だ。
しかも、所々中途半端に水に濡れ、頬に掛かる観音自慢の(?)シャギーは横顔に張り付いている。
「おや・・・」
と漏らされた平凡な感想は、非日常を凌駕するオドロキが込められており、反面なにがそこまでこの男を駆り立てるのか興味が湧いた。
みれば、胸元に大事に抱えられた白い布の固まり。
いや、何か生き物なのか、動いている。
見たことのない生物だ。
眼鏡を改めてかけ直し、近づいてしげしげと観察する。
ぽたりと落ちる赤い滲み。
視線があい、うっかり中途半端な間で見つめ合ったしまった。
流れる沈黙。

まずはどこから来たのか調べるべきだろう。
そうしなければ対処方法も判るまい。
まず、持ち込んだ本人に訊くのがてっとりばやい。

「金蝉、どうやって産んだんですか?」

・・・天蓬は軍人でありながら研究者タイプであるからして、疑問はつい口に出てしまう。
つまり。

この手のウィットを金蝉がたしなむかどうかは、考慮に入れられていなかった。




剣の舞

「おやまあ、随分と可愛らしいお子さんで…。あなたに似てないということは、パパ似ですかねぇ?」
「誰が産むんだ、誰が!?これは押し付けられただけだ!!そんなことより、こいつの鼻血が止まらねェんだよ!オマエ、診てやってくれ!」
金蝉の必死の言葉に「その返答もどうだかなあ」と密かに思いつつ、天蓬は更に白い生き物を覗き込んだ。
真っ白な鱗と羽毛に包まれた、小さな動物。
白い竜。
アルビノの深紅の瞳と、鼻血だけが引き立って見える。
しかし暫く観察しているうちに、その白竜の視線が揺れながらも金蝉の姿に惹き付けられていることに気付いた。
陶然と眺めては、アタマを振りつつ視線を逸らしている。
そうと気付くと、どうやらこの白竜の体温は、小動物の暖かさというよりも熱を帯びているような気もして来る。
ナマイキにため息なんかも付いていたりして。
深いため息の後に、また白竜と天蓬との視線が出逢った。
パリパリパリッ!
まるで乾いた空気に走る静電気の様に、お互いの気持ちが分かったような気がした。
「ふっ……」
「きゅっ……」
小さな白竜と天界軍元帥閣下が、頬を引きつらせながら微笑みを交わした。
金蝉らばーのライバルとしての、宣戦布告の微笑みであった。

「おい。判ったのか、天蓬?」
もの言わぬ天蓬の様子に不安になった金蝉が、心配げな声をあげる。
不器用ながら、小さな動物を抱え込む腕には細心の注意を払っているようだ。
「ああ、単にのぼせただけでしょうから、ほっとけばそのうち鼻血は止まりますよ。アタマを冷やしてやってもいいのかもしれない」
「そうなのか」
露骨に安堵を現した金蝉は、普段のどこか澄まし切った様子とは違い、妙に子供のようなあどけなさを漂わせた。
天蓬はそれを微笑ましく見た。
「…きゅー」
タオルにくるまれた白竜が頼りなげに鳴くと、金蝉は覗き込んで優しい声で語りかける。
「オマエ、もう大丈夫だとよ。そんな不安そうな顔してんじゃねェよ」

「きゅー」
小動物の甘え声をあげた白竜が金蝉に首を凭れさせ…チラっと天蓬を横目で見た。
『ふっ。羨ましいだろう』
白竜の目がそう語っていることに気付いた天蓬は、笑顔を一層深くした。
誰にも聞こえはしなかったが、奥歯がぎしりと音を立てた。
「…金蝉、一応熱を診てやってください。そう、おでこをこっつんです」
金蝉は疑いもせずに白竜の額に自分の額を当てた。
光を透かす金糸が白竜の身体を囲み、視界はアメジストの瞳で占められる。
白竜の瞳孔が開き、血管を沸騰した血液が走り回り、小さな脳味噌が限界突破の悲鳴を上げた。

ぷしゅーーーーーーっ

「ああッ!?益々鼻血が噴水になったじゃねェか!しかも今天辺から蒸気が出たぞ!?」
「おやあ、困りましたね。やっぱり冷やしてやるのが一番なのかなあ?冷水に突っ込んじゃってクダサイ。冷水に。いっそ、バケツの氷水かなんかに突っ込むのがいいかもしれない」
「こ、氷水だな!?判った。邪魔したな、天蓬」
金蝉の慌てる後ろ姿を見送りながら、天蓬は微笑んで呟く。
「……いけませんねェ、小動物の分際で。しかしこの愛らしい小動物というポジションは、案外侮れないものかもしれませんねェ」
唐突に先程の「産む、産まない」「パパ似かなあ」という馬鹿話を思い出した。

「…そういえばあの白竜、誰かに似てる…ような気がしますかねぇ?」







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