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STAY WITH ME 9
三蔵お誕生日すぺさる番外 --- 祝福生誕狂想曲的物語 --- |
初対面でノックアウトを喰らった割りに、彼等とはウマがあった。見栄、体裁の無いトコロが出発点だというのが、よかったのだろう。
っつか、夕食は乾麺だと言ったら、八戒さんが同情してお招きしてくれた。確かに八戒さんが作ったという手料理は、どれも美味しかった。煮物、キッレーに面取りしてあったし。花型に飾り切りしてあった美しい人参には感心した。
それ以来、お裾分けをよく頂いている。
「確かに、いい年こいてから『お誕生日会』なんて言ったら、恥ずかしがって逃げちゃうかもしれないですよね。いいですよ、キッチン使って下さい。…トコロで呑みでしょ?呑み」
「トーゼン」
にやりと顔を見合わせる。
酒呑みなのだ。全員。
酒という物が、人の輪を如何に円滑に、より深く結びつけるものなのか…。親しき人と呑む酒が、心にどれほどの喜びをもたらす物なのか。
慈悲深き女神の手の如き、酒。
世界中、酒の無い国は無い。
要は呑み助は呑む機会を逃さないのだ。
酒の買い出しなどの役割分担を決めると、八戒さんがまず部屋に帰った。三蔵さんの講義の終わる時間までに、何食わぬ顔で部屋に戻るつもりらしい。鉄壁笑顔のポーカーフェイスのクセに、わくわくが滲み出ているのが微笑ましい。
「…なんか、仲良くていいなあ」
「ナニ?ちゃん、羨ましい?カレシ欲しくなった?俺なんか、どお?」
悟浄さんが、少しだけこちらに身を寄せ、色っぽく流し目をくれる。
「悟浄!エロ河童!セクハラ河童!」
二つ目の乾麺にポットのお湯を注いでいた悟空くんが大きな声を上げ、悟浄さんが笑う。
「悟浄さん、オトモダチに手を出すタイプじゃなさそうだもん。ただなんだか、あのふたり見てると、いいなあって」
「気持ち判るけど、俺ちょっと交じりたくって悔しい時もあるけどな」
「大事な大事な誰かサン、ね。あいつら、自分より相手の方が大事なんだもんなあ」
目を見合わせて、揃って溜息をついてみた。
「……余り考え込むと、わざわざ祝ってやるのが馬鹿らしくなってくるから、やめねえか?大体、何で八戒の口車に載っちまったんだか、俺も自分で理解し難いんだわ。とにかく呑み、だろ」
「そですね。美形の隣人と呑んで騒げるいいチャンス、ってだけにしときます」
ひとり悟空くんだけが、両手をバタ付かせながら一生懸命だ。
「何だよっ、俺はちゃんと三蔵を祝うんだからなっ!八戒のメシも食いたいけど、でも俺は三蔵の…」
コンコン。
急なノックに、一瞬全員が黙る。
そろそろとドアを開けると、噂の主の姿が表れた。
「…なんだ、オマエら」
三蔵さんはロウテーブルに並ぶインスタントラーメンと、それをすする悟空くん、悟浄さんを呆れた顔で見た。
「さんが好きみたいだから、ちょっと見掛けて買って来たんだが…。丁度いい。数はあるから俺も食ってみたい。上がるぞ?」
「は?あ、どうぞ」
一瞬の冷や汗がひいてみれば、美貌の三蔵さん、偉丈夫の悟浄さん、元気で可愛い悟空くん…中々見目に楽しい面々が揃い、密かに喜びをかみしめる。
三蔵さんがどかりと座った。
「…ナニ?何買って来たん?」
「部屋で食うと、八戒が嫌な顔しやがる。コンビニ限定販売の」
カップ麺ががさりとテーブルの上に出された。
「さん、よっ…程、好きみたいだったからな。オレはこれが食ってみたい」
チーズフォンデュ味のカップラーメンを手にした三蔵さんは、いつもと変わらぬぶっきらぼうさで、……それでも妙に嬉しげだった。
……自分ひとりの為に料理を作るのが虚しいだけで、別に私はカップ麺を愛している訳じゃないのだと。弁明するのも更に虚しさが増しそうなので、いそいそとカップにお湯を注ぐ三蔵さんを黙って見ることにした。
くそう。
そして呆気に取られるような立派なケーキ。
実際呆気に取られた。
悟空くんと共に、母屋のキッチンのオーヴンを借りてケーキを焼く八戒さんの手際を見た。
流れるような手さばきで大量の卵を割り、微笑を絶やさずそれを泡立て、目にも留まらぬ早業で粉を混ぜ込む……。天板イッパイのサイズで新聞紙とアルミホイルで作った四角い型を置き、温めたオーヴンにそれを入れる。その間にスポンジにぬるブランデーで香りをつけたシロップだの、飾り付ける果物だのの下準備を済ませる。冷まして薄く切り分けたスポンジをまた手製の型に入れ、果物を並べてババロア生地を流し込み、スポンジをそっと乗せて挟み込む。
ケーキを盛りつける際に添えるのだと、紅玉リンゴの赤ワインコンポートまで作る、そのまめまめしさ。
煮立てたリンゴの甘酸っぱい香りと、ワインシロップに加えたシナモンの香りに満たされたキッチンで、八戒さんは輝いて見えた。
「…八戒さん、何でそんなにマメなんです?一般的にいう『オトコの手料理』レヴェル、越えてますよね?そんなに料理好きなんですか?」
手伝いと言いながら、私はババロアに混ぜ込む苺や洋梨を刻んだだけだった。悟空くんとつまみ食いも沢山したし。
「好きというか、特技ですね。誰かの為に作るとか、作って貰うとかって嬉しいじゃないですか。自分の作ったものを美味しそうに食べて貰うのとか」
ふっと、微笑んだ。
八戒さんは誰かのことを思い出しながら、とてもきれいに、柔らかに微笑んだ。
「誰かと一緒に食事をする、…すごく贅沢じゃないですか」
特別な、誰か。
特別な誰かと過ごす、特別な時間。
純粋な喜び。
「…そう思ってたらいつの間にか技術がついた、っていう程度ですね。食事自体は、以前から作る時は作ってましたけど、それ以外はカロリーメイトでもインスタントでも、体力が維持出来ればいい、って感じでしたし」
それは、判る。
「今はねえ…」
八戒さんが宙を見上げながら呟いた。
「三蔵が美味しそうに食べるの見るのが、僕のシアワセですからねえ。ちょっと凝った料理で吃驚させて、もいいし。技術の成果を見るのが楽しいっていうのは、シュミの世界かなあ…?」
判った!ヘンゼルとグレーテルだな!?餌付けして太らせて食っちゃう、それを楽しみに料理してるんだな!?
…口には出さなかったが、私は確信を持った。
という訳で。冷蔵庫一段丸々に、ババロアケーキがたっぷりクリームと果物を乗せて鎮座マシマシテいらっしゃる。
誠にご立派だ。
「ー!準備そろそろだって」
ホットプレート付随の鍋を抱えた悟空くんが、ノックもせずにドアを開けた。そろそろ慣れた。
手順としてはこうだ。
みんなで持ち寄った鍋物をつついて酒を呑む→ちょっと回っていいカンジになって来た所で、八戒さん作巨大ババロアケーキ登場→みんなでポケットに忍ばせたクラッカーで、お誕生日おめでとー→後からつまみを温めつつ、ひたすら酒を呑む。
いいじゃないか、いいじゃないか。
既に蝋燭も準備済み。
林立する蝋燭を、酔っぱらいに一息で吹き消させるのもまた一興。
鳥鍋の予定が、タイミング良く実家から送られて来たたらばで、急遽カニしゃぶパーティ。豪勢じゃないか。
私はカニと切った野菜を持って斜め向かいの部屋へと向かった。
こたつの上の鍋に、白菜と椎茸と葱がぐつぐつと煮えている。昆布と日本酒たっぷりのいい香りの湯気で、部屋中が暖かい。
…たらばサマのお陰で、みんな真剣に食べモードに入っていた。
カニ爪と、棒。
たらばサマの前では、誰だって黙るのだ。ふはは。
しゃぶ鍋ではないものの、半透明になった白菜の隙間を縫うように、箸で摘んだたらばサマを、しゃぶっ、しゃぶっ、と泳がせる。刺身で食えるものに熱を入れるのだから、ひたすら短時間、食感の為だけに熱湯にくぐらせる。
かぼすの香りの効いたタレにちょっと付けて、口中に拡がる甘味を楽しむ。
至福。
「…悟空。野菜を食え、野菜を。お前は野菜野菜野菜豆腐カニ、野菜野菜野菜豆腐カニだ」
三蔵さんが鍋奉行のようなことを言いながら、冷酒をくいっと空けた。
湯気と日本酒で、色白な頬と唇が艶やかに色づいている。
と。
薄い舌が、ぺろりと唇を舐めた。
ちょっとこれはえっちだ。
こんなにきれいな人がそんなことしたら、駄目だろうと思う。性別越えたあたりで、老若問わず誘われた気になってしまうだろう。心臓が強く波打った。
「…ちょっと。ちゃん、ちゃん」
「へ?何ですか?」
突っつかれて、悟浄さんの目線の先を見た。 ぞくっ。
「…どうしました?一体(にっこり)」
八戒さんが微笑んでいた。
「やだなあ、急に。赤くなったり青くなったりして、大丈夫ですか、さん?それとも、悪酔いでもしちゃいました?(畳みかけるようににっこり)」
「……何でもありませぇん(涙)」
微笑む八戒さんにどれだけの自覚があるものか、それとも全くの無自覚なのか…。コワかった。あんなに人をコワイと感じたのは、生まれて初めてだった。
「八戒、オマエの初心者に凄むな。…失礼」
三蔵さんが手洗いに立つ。
自分の所為だって、判ってるのかなあ。そう言えば頬が更に赤かった様な気もするし。閉じたドアを眺めながら、ボンヤリと思った。
「!今だよっ!今ケーキ持って来ちゃえば…」
「だな。ワインも飲みたいしなあ」
部屋に戻ろうとすると、悟浄さんが荷物持ちに付いて来てくれた。
一見ヤンキーの様にも見える悟浄さんは、実はかなり紳士的にドアを開けるなどのサーヴィスをしてくれる。…女慣れしてるってことなのかなあ。
今もワインを抱えつつ、ケーキで両手の塞がる私の為にドアを抑えてくれていた。
「…先刻さ、怖かったろ?」
艶のある声に耳元で囁かれ、また心拍数が上がりかけるが、八戒さんの笑顔を思い出した瞬間肝が冷える。
「『いいなあ』って言ってたけどさ。…アレ、結構三蔵も苦労してると思うよなあ?…あんな奴に惚れ込んだ八戒も、苦労してんだろーけどさ」
「人生、中庸が一番です。平凡にこそ、幸福があるのかもしれません」
大変小市民な感想を伝えると、悟浄さんが深く肯いた。
悟浄さんの開けてくれた戸をくぐり、こたつの天板にケーキを置いた瞬間に、三蔵さんが室内に戻って来た。
兼ねて準備のクラッカーを、一斉に鳴らす。
『誕生日、おめでとう!』
色とりどりの細い紙テープが拡がり、金銀の小さなカケラが部屋を舞った。それはきらきらと輝きながら三蔵さんの周囲を飾った。
長目の前髪に隠れそうだったアメジストの瞳が、一瞬まん丸に開かれ、開きかけた唇が、驚きを隠そうと慌てて引き結ばれた。
そんなことをしても後の祭り。赤や黄色の紙テープの引っ掛かった三蔵さんが、幾らむっつりとした表情を見せても、照れ隠しなのが私達全員に丸判りだった。
「…てめェら…危ねェんだよ。人に向けてクラッカー鳴らすか!?こんな狭い部屋で」
うんと睨み付けるその顔の、頬が、耳が、染まっていて…それはそれはきれいだった。
こんなに小さなことで今三蔵さんは幸福で、それできれいなんだと思った。
見ている方が、幸せを感じるような。そんな仏頂面だった。
「…でけえな」
四辺をカットしてはあるが、天板イッパイサイズのケーキは一辺40センチの正方形。苺とスライスした紅玉リンゴのコンポートが上品に飾られ、"Happy birthday, SANZO !"の文字が中央に絞り出してある。ホワイトチョコレートのコポーが、ふわふわの天使の羽根のようにまとわりつき、カットした横の面には、うっすらとピンク色を帯びたババロアが、ラインを引くようにキレイに見えている。
見蕩れるような出来のケーキに、八戒さんが手早く蝋燭を並べて行った。
「……本当にすんのか?オレがか?」
「三蔵の他に誰がするんだよ。ちゃんと一息で吹き消すんだぜ?一年間、それでいいことあるんだって!」
「………ホンットーにすんのか?」
この時ばかりは少々情けなさそうに、それでも素直に三蔵さんは蝋燭の火を吹き消した。
ケーキの四辺にぐるりと並ぶ蝋燭の灯りを、じっと眺めながら息を吹きかけて行く。金色の長い睫毛が輝いた。
最後の蝋燭の火が消えた時、八戒さんが優しい声で言った。
「三蔵。お誕生日、おめでとうございます」
「……ああ。……アリガトウな」
にや、と三蔵さんが笑い、八戒さんの瞳が引き込まれたみたいに見えた。
「あのー。ふたりの世界作るのは、後でにして頂けませんかー?」
「そーそー。甘いのは後回し。…もーちっと鍋食わねえ?ツマミ、まだまだあんだろ?」
「俺、取って来る!」
「…貴様ら、好きなように言いやがって…。忘れると思うなよ」
「あははははは…」
悟空くんは部屋を往復し、悟浄さんがワインを開け、三蔵さんは杯を重ね、八戒さんはキッチンに立つ。私は上気した気分で窓辺に向かった。
真っ白に曇ったガラスに指をすべらせると、つ、と滴が垂れる。指の跡の形に藍色の夜が見えた。冷たさが気持ちいい。
「…やっぱり、いいなあ。楽しいや」
「楽しいよなっ」
ほかほかの湯気の中、悟空くんが元気な声を返してくれた。元気過ぎて、コップのジュースがシャツにこぼれる。
「冷たっ!」
「サルはそそっかしいんだよ」
コルクを抜いた悟浄さんにからかわれ、悟空くんはふくれっ面でやり返す。
「ちゃんと拭かないと風邪引くよ、悟空くん…タオル借りよっか」
フライパンでチョリソを炒める八戒さんに、タオルの在処を尋ねた。とんとんと、濡れタオルから乾いたタオルに染みを移す。殆ど目立たない程度まできれいになった。
「そのままじゃ冷たいよね。…コレ、借りよっかあ?」
冷たく湿った悟空くんのシャツに、ドライヤーの熱風を当てた。ぶおん。モーター音が響く。
「…あ!?それちょっと待った…!!」
八戒さんが叫んだ。
バチンと音がして、暗転。
「うわ!」
キッチンでは電子レンジ、部屋ではホットプレート、こたつが稼働していた。そこにドライヤーが加わり…ブレイカーが落ちたのだった。
「ー、駄目じゃーん」
「ナニ?ちゃんの所為なの?」
「……」
「すいませーん…」
ブレイカーを上げるべく、慌てて室内に戻ろうとして…何かに引っ掛かってつんのめった。
「!?」
「ばか…!」
ひっくり返りかけ、誰かに腕が掴まれたけれ、躯が反転し…慌てて手を前に突いた。
湿った物がつぶれる音。冷たい。柔らかい。ぬるっとする。
慌てて突いた腕を引くと、何かが飛び散り甘い香りが漂った。
この香り、覚えがあり過ぎる。
急に明るくなり、天井近くのブレイカーを上げた悟浄さんが、同情の籠もった目で見下ろして来る。
「…あーあ。怒られるー」
三蔵さんに支えられた私は、こたつの上にあったゴージャスケーキのど真ん中に、自分の手型が深々と残るのを見た。
「……ごめんなさい…ブレイカーを戻そうと…慌ててて…折角のケーキが何てこと……」
茫然とクリームだらけの掌を見ると、苺が幾つか貼り付いていた。
「あんなにきれいなケーキだったのに……」
申し訳なさで一杯で、三蔵さんの顔が真っ直ぐに見られない。俯きながら謝ると。
掌に乗っかったつぶれかけの苺を、三蔵さんが摘んで自分の口に放り込んだ。
「…美味い」
ぽかんとしていると、三蔵さんは大真面目な顔でべとべとな掌を指さした。
「…食って見ろ、。美味いから」
指の隙間にくっついていたババロアも、また摘んで食べる。
「ん。甘過ぎなくて、美味い」
真面目な顔でそこまで言うと急に吹き、躯を二つに折って笑い出した。
「……オレもやったんだよ、八戒のケーキ。あん時は箱ごとひっくり返した。チョコレートクリームがぐっちゃぐちゃになって、スポンジも割れて、でも染み込んだラム酒がすげえいい匂いして、とんでもなく甘くて苦くて濃厚な味がして…美味かった。やっぱりあの時も美味かった」
涙を滲ませながら三蔵さんは笑い、一息つけると私の背後に向かって声を掛ける。
「おい。オマエのケーキって、こういう運命なんじゃねェのか?」
「三蔵、あなた…。失敗したのが自分だけじゃなくなって、それで喜んでるんですか?…ちょっとそれ、どうかと思いますよ。美味しいって言って貰っても…なんだか素直に喜べないじゃないですか」
憮然と八戒さんが応えると、三蔵さんは更に腹を抱えて笑いだしたのだった。
手を洗った後には、やっぱり八戒さんに叱られた。
「こたつの上には鍋だってあったんですからね。危うく大火傷するところだったんですよ?判ってます、さん?大体これだけバカでっかいのが揃ってるのに、なんだってブレイカーひとつくらい、任せられないんです?」
ただひたすらに低姿勢で謝るしかない。
悟空くんが袖をひっぱり、「俺の所為で怒られてごめんな」と、耳の垂れた子犬みたいな様子で謝るから、つい微笑ましく思ってしまう。
「…所でさ。俺の長い足にちゃんたら引っ掛かっちゃったらしいのよね」
「てめェが原因か!」
「いや、ブレイカー落ちて真っ暗だったのが原因だろ」
「一番身長のある悟浄がさっさと動けば、こんなことにはならなかったんですよ?」
「すいません、すいません…」
謝り続けながら、徐々に楽しくなって来て、顔が笑い出す。
「…オレの誕生日の祝いなんだろ、今日は。…その調子でずっと笑ってやがれ。どうせここは莫迦だらけなんだよ。莫迦は須く伝染するもんなんだよ。諦めやがれ」
にや。
三蔵さんが片頬を上げて笑った。
「、オレを祝ってくれてんだろ?…アリガトよ」
男でも女でも、共に食事をするのでも、だらけるのでも。
時間を共有できる、特別な誰かが欲しいと願った。
この人達と出逢って、それがとても素敵なことだと思った。
私はこれからそれを探せるんだと、心が浮き立った。
「ああ。空が高い、引越し日和ですね。何かいいこと、ありそうな……」
エンジン音がして、車がゆっくり動き出した。
三蔵さんが大きな声を出した。
「…明日にでも来てみせろ。待ってるから。 !」