「青覧三蔵様!」
裏庭を掃き清めている途中に小太りのその姿を見つけたので江流は走り寄る。「おう」と気軽な返事をする青覧。光明の周囲には気持ちの良い人が多いな、と江流は思う。自然ににこやかになっている自分に気付かぬまま、話しかける。
「一体…こんな裏からこそこそと。もうお帰りなんですか?お食事の仕度も進んでますよ」
「私はね、ご大層なことは嫌いなんだよ。急用で無茶言って出て来たんだから早く戻らないと仕事が滞る」
だからと言って、こんなに隠れて帰ることもあるまいに。まあ、楽しげなオトナの邪魔をする必要もないだろう、と江流は結論づける。友人との間を往き来することすらままならない三蔵法師と言う重責を、光明を見ていて判っていた。
「江流。お前さん…いつか長安においで。出来るだけ早くだよ」
「はい。ありがとうございます」
「長安に来れば…」
長安で三仏神に直接お仕えする程には…バックアップしてやらなくもない。青覧は、それは口に出さずに江流の目をじっと見る。いい目だ。素直で強くて、腕白そうで、でもまだ愚直なところもあるかな。
「長安に来れば私が直々にイイコト沢山教えてやるよ」
「楽しみにしています。お師匠様と一緒にいつか伺います」
青覧を見送る江流の隣りに、何時の間にか朱瑛が来ていた。
「騒々しい人だったな。それにあの金冠…」
『似合わねえ!』
同時に言って笑う。
江流はお師匠様が純白の被布と金冠が一番似合う三蔵だと確信を持った。
朱瑛はお前さんがあの格好したらきっと似合うぜ、などと言う。
戯言を言い合って、江流は掃除に戻る。
朱瑛は道場に向かう途中に、光明に呼びとめられた。
「朱瑛、ちょっとこちらにいらっしゃい」
部屋に招き入れられる。光明はこっそりと杯を持っていた。秘蔵だという酒を注がれ、乾す。
「光明様には珍しいことですね」
「ふふふ、ちょっとお楽しみがあるので前祝だったんです。朱瑛はいつでもあの子の…江流の味方をしてくれてるから。これからもよろしくお願いしますね」
機嫌の良さそうな光明の顔を見返すが、意図が判らない。しかし、伴酌に預かれることには異存ない。中々美味い酒だし…。
「私は、これから大きな爆弾を仕掛ける所なんです。きっと明日になったらみんなびっくりしますよ。あなただけ、予告しておきますからね。特別ですよ」
「はあ…」
「ねえ、後で江流を私の部屋に呼んでください。大事な話しがあるんです」
「はい」
「本当に、大事な、大事な、話し。楽しみな」
窓越しに、夕日が差している。室内が空と同じ茜色に染まっている。
光明も、朱瑛も、その黄昏の前の色に酔いしれる。
庭では江流も空を見上げていた。茜色。金色まじりの茜色。見る間に色を変えてゆく。
江流の顔も、髪も染まっていた。
黄昏の、大きな太陽の光に。
世界中の全てが、茜に染まっているような気が、した。
その時、世界中が美しかった。
江流の中の世界は、それまでで一番幸せで美しかった。
PIECE OF PIECES
PIECES AND PIECES
IT’S NEVER HURT
IT’S ENDLESS.....
thema song: "Pieces" from ALBAM "ark" by L'Arc - en - Ciel
the end