STAY WITH ME 13 
--- 生誕前々々々々…夜祭的物語 --- 


















 イルミネイションの彩りに足を止めた三蔵が、呟いた。
「えらく気が早いな」
 ショウウィンドウの中身は、すっかりクリスマス。赤や緑に、金の縁取り。スノウスプレイの白が、ガラスに文字を浮かび上がらせている。
「年末の最大行事ですから。クリスマスセールに向けて、お店も張り切ってますね」
「クリスマスったら、サンクスギビングデイの後に盛り上がるもんだと思ってたがな。ターキーとカボチャ食って、連休中から街中でクリスマスセールが始まって、プレゼント選びで店が賑わって……」
「サンクスギビングデイっていつですっけ?」
「11月の第4木曜日」
「じゃ、約一ヶ月間のお祭気分ですね」
「そんなカンジだな」

 本を探して、食事を終えた帰りだった。街路樹にライトが巻き付けられたのは随分前だったし、冬は夜の景色がとても可愛らしくきれいだ。

 街中が化粧をしている。
 きらきら、ちかちか。
 見上げると、明かりにもめげずに幾つかの星。

 三蔵が近付いたウィンドウには、プラスティックのツリーが置かれていた。真っ白なもみの木に、ガラスのオーナメントと銀の細いリボンが巻き付いて、雪化粧が虹色にライトを反射させている。
「買います?」
 振り向いた横顔に、銀の光が映り込んだ。三蔵の頬も、瞳も、輝きを吸い込んで、金色の髪が揺れるのが、どんなイルミネイションよりもきれいだと思った。
「どこに置くんだよ」
「何とかなるでしょう」
「先に置き場作ってからにしろ」
 くるりと躯の向きを変え、三蔵は歩き出そうとする。
「じゃ、クリスマスリース!これなら置き場所に困らないですよ」
 袖を引っ張る僕に、三蔵は呆れた顔を見せた。
「八戒、てめ、店の魂胆にまんまと乗せられてんじゃねえよ」
「たまのことですから」

 小さなリースと、アドベントカレンダーを買い、僕らは家路に就いた。
「アドベントカレンダー……。八戒、お前一体歳は幾つだ」
「子供の頃に買わなかったから、今欲しいんです」

 大きな暖炉から真っ白な煙を吐く、雪が積もった家の絵の描かれた平たい箱に、日付の描かれた小窓が沢山。窓を開けば、小さなチョコレイト。近付くクリスマスを楽しみに、一日ひとつずつ食べる甘いお菓子。

「三蔵、チョコは順番こに食べましょうね」
「いらねえよ!」
「そんなこと言わずに。お口にあーんしてあげますから」
「いらねえったら、いらねえ!」
 大股で歩き出す人を、笑いながら追い掛け、腕を捉える。指を、繋ぐ。夜の寒さに、その温かさが嬉しくて。

「サンクスギビングデイって、11月28日でしたね」
「ああ。そうだったな」
 店に飾られていたカレンダーを、三蔵も見ていたことに気付いた。
「あなたの誕生日の前日ですね」
「そうだな」
「じゃ、サンクスギビングのお祝い込みで、三蔵の誕生日は御馳走にしましょう」
「ターキー?」
「カボチャ。山ほどカボチャ。カボチャスープにカボチャのパイに、カボチャのプディングに……」
「全然嬉しくない」
 唇の両端を下げた子供じみた表情が、可愛らしかった。
「あなたの好きな物、作りますから」
 繋いだ指に、少しだけ力をこめた。
「三蔵の誕生日までの、アドベントカレンダー代わり」

 引き寄せて、三蔵が反応をする前に唇を触れ合わせた。
 甘い、甘い、僕のお菓子。

「ばっ……!」
 三蔵は慌てて飛びすさり、辺りを見回した。接吻ける前に、ちゃんと回りに誰もいないことを確かめたなんて、言わない。あっと言う間に耳朶まで赤く染まった三蔵を、眺めて僕はただ笑っていた。
「てめェ。……一日、一回だな。まとめて食べたりはしねえよな。何せアドベントカレンダーはよい子のお楽しみだもんな」
 頬を紅潮させたまま、意地悪く言う三蔵を、また掴まえて。
 数も数えられないほどに、接吻けを。
「楽しみで、結局我慢し切れないのがアドベントカレンダーですよね」
「子供ぶっても、全く可愛くねえからな」















 終 







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後日修正追加
作中の「アドベントカレンダー」を初出時「イベントカレンダー」と勘違い致しておりました
『advent…出現、到来。《A-》待降節,降臨節:クリスマス前の4週間。an A〜 calendar 《英》 降臨節カレンダー(小さなドアをあけると中の絵が見える子供用の暦)。《通例A-》キリストの降臨;(最後の審判の日の)キリストの再臨』(プログレッシブ英和中辞典 小学館)だそうです
アドベントカレンダーが正しい名前です