煙草はキライだよ。
だってあんなに煙たくて臭いじゃないか。
ねえ、どうしてオトナはあんなものを好んで吸ったりするんだろうね。
てんで悪趣味で、僕には理解出来ないなあ。
大体火事の元だったり、ポイ棄ての元凶だったりするじゃない?
肺ガン…?
勝手になって死んじゃえば?
だから僕に煙を吸わせないでよね。
動物もキライだね。
だって言葉が通じないじゃない。
僕ワカンナイもの、奴らの言葉。
通じない癖に、奴ら何を言いたいんだか目を見てくるじゃない。
……駄目だね。
通じないんだったら、最初っから訴えて来ないでよ。
通じない言葉なんて、意味なんかないんだから。
危ないモノなんか、僕のお城に入れちゃ駄目だ。
大事な玩具、壊されちゃったら困るしね。
…くすくすくす。おかしいよね。
あのピストルが無いと闘えないのかな?
あんなに小さいモノに頼ってるの、玩具みたい。
……そんなに大事な玩具なのかな。
貸してくれると、思う?
返したくなくなると、思う?
ねえ?
子供はね、お城にひとりいれば充分なんだよ。
たったひとりの大事な子供を、お城の真ん中で可愛がるんだ。
そういうものなんでしょ?
犬の縫いぐるみと女の子の人形を向かい合わせにして、時折話し合っているように腕や顔の向きを動かす。
かと思うと、片手間に積み木を細長く積み上げては、ボールを転がして崩そうとする。
…ねえ、遅いねえ。
本当にちゃんと来ると思う?
来てくれないと、僕、面白くないんだよねえ。
あのお兄さん達、僕の玩具で遊んでくれるよね。
だってねえ、コレ、返して欲しがってるみたいだしねえ。
でも駄目だよ。
僕だってコレがずっと欲しかったんだもの。
……どうして先生はコレだけは僕に……
人形を放り投げて床に転がる。
投げ出された人形と同じポーズを取りながら、天井を見上げる。
先生、僕イイコにしてるよ。
だから先生も、僕のこと好きでしょう?
ねえ、アイシテくれてるんだよねえ?
もう、悪いことなんかしないから。
イイコにしていたら、僕のこと、アイシテくれるんだよねえ。
転がった床から、のろのろと四つん這いで部屋の隅に行く。
何かを覗き込んでは、しきりに呟く。
アイシテるからなんだよねえ。
僕のこと、アイシテルからなんだよねえ。
だから何度も何度も……
長い時間屈み込んでは呟き続ける。
覗き込んでいた何かを、捧げ持つようにして額を押し付ける。
アイシテルから、僕のことを何度も……
ごめんなさい、ごめんなさい。
もうしません。
もうイイコになります。
だから許して…。
もう…、叩かないで……
…酷いことを、しないで…
覗き込んでいたのは、小さな玩具のドレッサー。プラスティックの鏡が、引きむしられたように半分ちぎれている。
カミサマ、歪んだ鏡の縁に、ゆっくりと唇を沿わせる。
ねえ、僕のこと……?
ドレッサーを片手にぶら下げ、がっくりと首を垂らし立ち上がる。
ふと何かに気付いたように目を瞑り、呪文を唱える。
壁に幻術で映像が浮かび上がると、4人が階段を駆け昇って来る様子が映る。
カミサマ、肩にかかる経文を、無意識のように撫でさする。
先生、僕、全部先生と同じになったよ。
でも僕、どうして先生がコレだけはくれなかったのか、それだけがワカラナイんだ。
先生。
先生。
お願い、教えて…。
カミサマがドレッサーを壁に投げ付け、暗転、カミサマ消え去る。
中央に再びスポットライトで首をすげ替えた縫いぐるみ。
甲高い声のナレーション被る。
『どうぞ、ごゆっくりお楽しみ下サイ。
どうぞ、ごゆっくりお楽しみ下サイ。
どうぞ、ごゆっくりお楽しみ下サイ。
どうぞ、ごゆっくりお楽しみ下サイ………』