真・カラスの仮面1 

present from いちう あい さん

(その1)カラスの仮面

「何?演劇をやってる意味がわからなくなった?」
 ツキハゲ観世音は不機嫌そうな三蔵の顔をにやにやしながら見やった。その視線を受け三蔵はさらに不機嫌さを深める。
 ツキハゲ観世音の無理矢理な勧誘にて劇団ツキハゲの奨学生となった三蔵だったが、(ほとんど)観世音の行動のせいで演劇をやる意義を見失ってしまっていた。
「ったく、しょーがねーやつだな。目的みたいなもん持ってねーからそーなるんだよ。」
「なんだ、その目的ってのは。」
「そうだな、例えて言うなら俺様がやった幻の名作と呼ばれる演目の主役を目指して見るとかだな。おおそうだ、いいもの見せてやるぜ。」
 そう言うと観世音は三蔵の腕を掴んでずるずると引っ張っていく。(一応)見た目は女なのだがとてもそうとは思えない力で、三蔵は振りほどく事も出来ずにいいように振り回されていた。
 バターンッ!
 観世音は思いっきりよく、ある部屋の扉を開ける。
「!?これは・・・?」
 そこには無数の仮面が飾ってあった。埴輪顔やらおたふく顔やら、さらには獅子舞の被り物やらトーテムポールとかまである。
「あれを見な。」
 そういって観世音が指さす方向を見た三蔵は目を細めた。
 そこには硝子張りのケースにひときわ大切そうに保管されている・・・白いカラスの仮面があった。
「カラス・・・?」 
「そうだ。」
 そういって観世音はその仮面を取り出し三蔵に渡してやる。
「それこそ演劇界の至宝の名作、俺しか主役を張ることができねぇと絶賛された作品に使われた代物だ。」
 三蔵はどこか疑わしげな目でそれを見ている。
「お前もそれくらいこなせるようになってみろよ。」
「・・・一つ聞くがこれで何するんだ?」
「あ?わかんねーのか?クライマックスで主役のカラスの精がそれを被って「カラスの舞い」を・・・。」
「やってられるかーーーっっっ!!」
 カラスの仮面を投げ捨て三蔵は部屋を出て行く。観世音はその姿をにやにやと笑いながら見送った。
「まったく、冗談も通じねーんだからお子様だねぇ。」



(その2)ウレナイ天女

「ウレナイ天女?」
「そうだ。」
 あの後再び観世音に捕まった三蔵は劇団の食堂に連れ込まれていた。
「それこそが演劇界不朽の名作、60年前ツキハゲ観世音ここにありとまでいわしめた作品だ。」
「・・・ちなみに聞くが観世音、あんたいくつだ?」
「人の歳の事なんざ気にすんな。それより俺様はこの劇団のえっらーい人なんだぞ。せめてツキハゲ先生って呼べ。」
「てめーの名前はムカツクんだよ。」
 マジいやそーな顔をして三蔵はタバコに火をつける。
「ま、いいわ。」
「・・・で、その「ウレナイ天女」ってどんな話なんだ?」
「おお、いい事聞くな。そう、とある猟師に助けられたカラスが恩返ししようと人間の女に化けて―――。」
 そこまで聞いた時点で三蔵はすでに脱力している。
「おしかけ女房になるわけだ。んで、貧乏から脱出しようと自分の羽をちぎって反物をこさえるんだが、それがちっともウレナイ、ウレナイ。かっかっか。どうだ、俺様以外この役をこなせるものはいないと評判だったぞ。」
 そりゃ、あんたしかそんな役こなせねーよ、と思いながら三蔵は冷めたコーヒーをすすりつつ、自慢気に話を続ける観世音を眺めていた。
 この劇団に入ったことを本気で後悔していた。



(その3)紫の・・・。

「キタシマ三蔵、か・・・。」
 リムジンの中で大道芸能の社長、ナヤミ八戒は呟いた。
 「ウレナイ天女」の上演権を得るためにも劇団ツキハゲを潰さなくてはならず、その画策のため劇団オンドリャーのニィ・オーノー寺と共に公演を見に行った彼だったが、そこで出会った三蔵に強く心を揺さぶられていた。
 ひたむきで(?)心を打たれる演技(←アバタもエクボらしい)。その強い眼光。カリスマ的存在感。
 策略のために公演の悪評を振りまかねばならないのに、三蔵のことを思うと酷く良心が痛んだ。
 ふう、とため息をついて窓の外を眺める。ふと花屋が目についた。
 運転手に車を止めさせ、花屋の中に入っていく。しばらく花を物色していた彼だがとある一点で視線が止まった。
「これは珍しい・・・。」
 そう呟くと店員に言って大きな花束を作らせた。

 次の日の公演の前。
「うわぁ、三蔵。すげーよ、これ。」
 同劇団員の悟空が三蔵より先に楽屋に入って大きな声をあげる。悟空に続いて中に入ると抱えきれないほどの紫の・・・。
「彼岸花・・・?」
 三蔵宛のメッセージカードにはこう書いてあった。
『あなたの演技に心をうたれました。頑張ってください。 あなたのファンより。』
 紫の彼岸花を抱えた三蔵は素直に喜んでいいのかわからなかった。

<続く、のか?>

   













 終 







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◆ アトガキ ◆
いちうあいさんの『バウンティハンター』お笑い化計画の核の部分を為す
『真・カラスの仮面』シリーズ第一弾!!
キタシマ三蔵とナヤミ八戒の関係は!?
ツキハゲ観世音の思惑は!?
『紫の曼珠沙華』のヒトとは、一体…!?

……カッコイイ三蔵主役のシリアス長編をどんでん返す、
お笑いシリーズ……毎度楽しみでしょうがありません…

ずうずうしく頂きまして、ごちそうさまですv