mayo mayo 
 出立の朝、八戒は宿の厨房を借りて昼食作りに励んでいた。
 昼食とは言っても具沢山のサンドイッチのみ。悟空の食欲を考えて、分量だけは並みではない。
 色とりどりの食材がたっぷりとパンに挟まれては、ペーパーバッグに詰め込まれて行く。
 ハム、コンビーフ、卵、チーズ、レタス、トマト…
 八戒はゆで卵をフォークの背でつぶしてマヨネーズで合えようとしていた。
「…サンドイッチの卵って、ゆで卵なんだ…」
 つまみ食いをしつつも、サンドイッチ製作の助手を務めていた悟空が呟く。
「ええ、そうですけど…。ゆで卵以外って、何の卵を挟むんです?」
「うん。三蔵が作るとさあ…。あ、丁度いいや、作って貰っちゃえ。三蔵!さんぞーお!」
 厨房のそばを通りかかった三蔵を、そのまま呼び止めた。
「ね、三蔵。サンドイッチのタマゴ作って!前によく作ってくれたヤツ!」
「…ンでオレが…」
「だってアレ食いたいんだもん。ね、三蔵の卵サンド!ちょちょい、じゃんか」
 急に呼び止められた三蔵は不機嫌そうな返事をしたが、自分の作った物を食べたいと目を輝かせる悟空に、多少気をよくしたようだった。ぶつぶつと文句を言いつつも、厨房に入って来る。
「チッ。食欲ザルが、甘ったれてんじゃねーよ」
 食材の並ぶテーブルを見回し、卵を手に取った。
「…卵幾つ分だ?」
「うーーーんとね。3つ!」
 そのままボウルに卵を3つ、割り入れた。
「な、生卵サンドなんですか…?」
 ゆで卵をつぶすフォークを手に持ったまま、八戒が声を掛けた。微かにフォークが震え、銀の輝きが揺れる。
「…阿呆。それじゃパンに挟まらないじゃないか…」
 呆れた様な顔で返事をしながら、三蔵は卵を溶いて熱したフライパンに流し込んだ。
 じゅわ。
 右手の菜箸で卵をかき混ぜつつ、左手がマヨネーズのキャップを外す。
「…卵、3つ分…」
「さ、さんぞう?」
 卵に半ば火が通り掛け、といったところで。
 三蔵はマヨネーズのチューブを思いっきり握り混んだ。

 にゅにゅにゅ、にゅーーーーーーー

 フライパンの中に、マヨネーズの山が現れる。
「さ、さんぞう…」
「こんなもんか。マヨネーズは卵と同量で、っと…」
 即座に火を止め、菜箸が素早く卵とマヨネーズをかき混ぜ、小鉢に移す。
「…悟空、出来たぞ。あとは自分でしろ」
「わーい、三蔵、ありがと!」
「…フン」
 悟空の礼に鼻息の返礼をして、三蔵は厨房から出て行く。
      厨房に入って来てから出て行くまで。その間、約2分。
 暫くその後ろ姿を茫然と見守っていた八戒が、小鉢に飛びついた。
「あんなマヨタマなんてッ!?」
 見た目には、大して通常のサンドイッチのフィリングの卵と変化はない。僅かに酢の立つ匂いがするが、冷めればそれほど気にならない筈だ。むしろスパイシーな香りなのかも知れない…。
 八戒は恐る恐る小鉢の「三蔵特製タマゴ」にスプーンを入れた。
「………美味しい。時間掛けて固ゆでにした卵の黄味、つぶした白味の食感がないだけで。いや、卵とマヨネーズのソースとしたら、却って滑らかでいいのかも…。そ、そうか、マヨネーズに火が通り過ぎないように、すぐに火を止めたのか………」
「あ!八戒ばっかりずりィ〜。俺も、俺もーっ」
 サンドイッチの具ということを忘れて、悟空は小鉢を抱え込んで嬉しそうに卵を食べ出した。
「あんなに…あんなに大雑把に…。僕が今までの人生で、サンドイッチ用にゆで卵を作っていた時間は、何だったんだ…?ゆで卵の殻を剥いていた時間は、何の為だったんだ…?」
「そんなの、気にしない、気にしない〜♪」
「…なんだか、悔しい…しかし、あのにゅにゅーは、許し難い…」
 再びサンドイッチを作り始めながらも、その日の八戒の手際は精彩を欠いていたという。

  後日、三蔵マヨネーズを語る 

『あ?極めたからな、マヨネーズは。旅先でも便利なんだよ。昔独りで旅してた頃、炊いたメシでも、茹でた食草でも、…あ、タンポポサラダなんかはナマだったな。マヨネーズさえあれば他にオカズも調味料も要らなかったしな。あのチューブも便利なんだよ。割れて漏れることもねえしな。…なんだよ、その目は。イイんだよ!栄養価高いし!たこ焼きだって、お好み焼きだって、てめェらだってマヨネーズかけるだろーが!?…あの酢のつんとした香りが、食欲そそるんだろーがっ!?…てめェら、マヨネーズに文句つけるなら、一生マヨネーズ食わずに過ごしてみろ!絶対ェ人生損するからっ!!』















 終 







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◆ note ◆
ち〜ん…。
言わずと知れた、Gファン8月号ネタでございました