にゅにゅにゅ、にゅーーーーーーー
フライパンの中に、マヨネーズの山が現れる。
「さ、さんぞう…」
「こんなもんか。マヨネーズは卵と同量で、っと…」
即座に火を止め、菜箸が素早く卵とマヨネーズをかき混ぜ、小鉢に移す。
「…悟空、出来たぞ。あとは自分でしろ」
「わーい、三蔵、ありがと!」
「…フン」
悟空の礼に鼻息の返礼をして、三蔵は厨房から出て行く。
厨房に入って来てから出て行くまで。その間、約2分。
暫くその後ろ姿を茫然と見守っていた八戒が、小鉢に飛びついた。
「あんなマヨタマなんてッ!?」
見た目には、大して通常のサンドイッチのフィリングの卵と変化はない。僅かに酢の立つ匂いがするが、冷めればそれほど気にならない筈だ。むしろスパイシーな香りなのかも知れない…。
八戒は恐る恐る小鉢の「三蔵特製タマゴ」にスプーンを入れた。
「………美味しい。時間掛けて固ゆでにした卵の黄味、つぶした白味の食感がないだけで。いや、卵とマヨネーズのソースとしたら、却って滑らかでいいのかも…。そ、そうか、マヨネーズに火が通り過ぎないように、すぐに火を止めたのか………」
「あ!八戒ばっかりずりィ〜。俺も、俺もーっ」
サンドイッチの具ということを忘れて、悟空は小鉢を抱え込んで嬉しそうに卵を食べ出した。
「あんなに…あんなに大雑把に…。僕が今までの人生で、サンドイッチ用にゆで卵を作っていた時間は、何だったんだ…?ゆで卵の殻を剥いていた時間は、何の為だったんだ…?」
「そんなの、気にしない、気にしない〜♪」
「…なんだか、悔しい…しかし、あのにゅにゅーは、許し難い…」
再びサンドイッチを作り始めながらも、その日の八戒の手際は精彩を欠いていたという。
『あ?極めたからな、マヨネーズは。旅先でも便利なんだよ。昔独りで旅してた頃、炊いたメシでも、茹でた食草でも、…あ、タンポポサラダなんかはナマだったな。マヨネーズさえあれば他にオカズも調味料も要らなかったしな。あのチューブも便利なんだよ。割れて漏れることもねえしな。…なんだよ、その目は。イイんだよ!栄養価高いし!たこ焼きだって、お好み焼きだって、てめェらだってマヨネーズかけるだろーが!?…あの酢のつんとした香りが、食欲そそるんだろーがっ!?…てめェら、マヨネーズに文句つけるなら、一生マヨネーズ食わずに過ごしてみろ!絶対ェ人生損するからっ!!』