「それじゃ行きましょうかね
    不良園児達のお迎えに」
   そのセリフは世のヲトメ達を熱狂させたとゆー…(ちょっと出遅れ過ぎたけどね)


 せんせいといっしょ 



「おはようございまーす」
 ここ、私立斜陽学園幼稚舎(おい、潰れるぞ…)は仏教系で高等部まである名門学園の幼稚舎です。今日も朝から幼稚舎の先生の優しい声が響きます。
「せんせー、おはよーございまーす」
「はい、おはよう、紅くん」
「おはようございまーっす!」
「李厘ちゃん、今日も元気ですねえ」
 八戒先生は朝から園児達のお迎えです。皆さん、お父さん、お母さんに連れられて元気に登園して来ます。先生は毎日お迎えに出るたび、「ああ、幼稚園の先生ってなんて楽しいのだろう」と感慨を深くします。
「…先生」
「おや、三蔵くん、今日は挨拶してくれるんですね。嬉しいですよ」
「…ああ。おは…」
「せんせーっ、おっはー!」
 自分の送り届けた子供を押しのけて先生に挨拶するのは、三蔵くんの保護者の悟浄さんです。
「お、おはようございます」
「せーんせえ、すいませんねえ。躾の悪いガキで。オラ、さくさく挨拶ぐらいはしろよなっ。人間関係の基本だっつの!」
「くっ!このォ。オレはまだてめェのことなんかオレの保護者と認めてねェんだからなッ!」
 おやおや、どうも複雑な事情がありそうですね。
「三蔵ぉ、諦めてさっさと挨拶しろよお。せんせえ、待ってるぜえ」
「悟空くんも。おはようございます」
「おはようございまーす。俺ねっ、今日もお弁当おっきいの持って来ちゃったの。後でせんせいだけに見せてあげるねっ♪」
「てめェはこうなってもまだ食欲ザルかっ!?」
「お、おやあ?三蔵くん、話の設定無視するようなセリフ、吐かないでくださいねえ」
「う゛…。おはようったらおはよう!」
 三蔵くんは走って行ってしまいました。
「悟浄さん、三蔵くん、やっぱり最近不安定みたいです。調停とか上手く進んでないんですか?」
「いや、お恥ずかしい。どーも最近の女ってば妙に強くって、悟空といい、三蔵といい、ガキだけ押しつけてまた別のオトコ見つけんの、上手いみたいで…」
「ああ…。結構大変なんですねえ。いつでもやり放題、し放題って訳にも行かないんですねえ」
 朝から幼稚園児に囲まれて、ついしみじみとした声を出してしまう大の男ふたり…。
「あ、朝からこんなに暗い話題にするつもりなかったんです。すみませんねえ。どうも普段の習性が出てしまうらしくって、ちょっと…。あ、僕まで設定無視する発言してしまった」
「(どうでも)いーよ。もお。進まないしさ」
「あ、ええ。(にっこり)丁度そろそろクリスマスシーズンなんです。クリスマス会は年長さんは寸劇をする予定なんです。三蔵くんも、出来るだけ元気が引き立つような配役に出来るといいと思ってるんですけど」
「あ、いーです、いーです。多少の逆境には強いヤツですから。どうぞいぢめてやってください。普段心配ばっかしてるウサはらしちゃっていいからさ。思いっきりやっちゃえばいいじゃん」
「保護者の許可出ちゃったしなあ。どうしよう。ホントにいいですかねえ?ちょっと総受けサイトとか多い三蔵が園児で、僕が先生でしょう?流石に園児押し倒す訳にもいかないんですけど。僕、幼児ポルノとかは絶対反対ですから。でも遊びたい気分は満点なんですよねえ…」
 だから設定無視した会話しないで欲しいんですけど…。
「あ、ごめんなさい。そういう訳で、楽しいクリスマス会になるといいですね」
「せ、先生もマイペースぶりは健在で流石ですね」
「ではまた」

 (暗転)

「それではみなさーん。クリスマス会の劇はイエス様のご生誕の寸劇に決定しました。これから配役を決めましょうね。マリア、ヨセフ、天使、三人の羊飼い、三人の東方賢者、をまず決めましょう」
「はーい。三蔵がマリア様がいいでーす」
「はーい」「はーい」「はーい」
「ハイ、みんな賛成ですね。決定」
「待てえ!今時の幼稚園、園児の意志を尊重して主役希望が多ければひとつの役を三人、四人でパート分けるなんてのもアリなのに、なんでここまで当人の意志を無視しやがるんだ!?国際子供の権利年とか知らんのか!?国連大使のアグネス・チャンが泣くぞ!さてはてめェら本当に新聞読んでねェな!!」
「だからちゃんと子供からの性的搾取には反対してますって…」
 先生はそこで凛とした声を出しました。
「三蔵くん。これはお教室のお友達、みんなの意見なんですよ。権利を主張するからには義務というモノも理解しなくてはいけませんね。とにかく幼稚園児なんですから、主役に選ばれたら素直に喜びましょうね」
「ううう。大多数の意見が少数の意見を踏みつぶすことをファシズムと言うんだ。大体、仏教系の幼稚園でなんで、キリスト生誕劇なんてことやるんだ。クリスマス会なんてやりやがるんだ…」
 普段暴君な人が言ってもあんまり同情引きませんね。
「ちゃあんと灌仏会もしますよお。催し物の季節的偏りが無いようにしたいだけですって」
「絶対になんか間違ってるぜ…」
「ケビン・コスナーだってハロウィン出来ない家の子供を可哀想がって暴走する映画、撮ったじゃないですか。(なんだっけ?タイトル?パーフェクトワールドだっけ?)やっぱり他の子供がやれるのに自分がやれないお楽しみ、ってのは子供の心に傷を付けるんじゃないでしょうか?」
「…それをオマエがオレに言うか…」
「あんまり追求すると崩壊しちゃうからやめときましょうよ、三蔵。とにかく三蔵くんがマリアで決定ですね。」
「絶対に間違ってる…」

 思っているよりずっと時間がかかってしまいそうなので、この辺で端折ることにしましょう。マリアを三蔵くんが演ずることに決定した他は、ヨセフが紅孩児くん、天使が李厘ちゃん、羊飼いが悟空くん、八百鼡ちゃん、朋明ちゃん、、東方三賢者はアニメから偽三蔵一行の皆さんです。ちなみに独角兒さんは流石にご父兄でいらっしゃいます。

 さて、練習の様子を覗いてみましょうか。
「とーにかく、お前は孕んだんだったら、三蔵っ。その子をイエスと名付けなさーい」
 大きな羽根を付けた李厘ちゃんです。元気よさそうですね。
「三蔵じゃねェッ!今のオレはマリアだっ。マリアになり切らなきゃ身ごもるも孕むも絶対ェ嫌だっ!」
 清純な乙女マリアが処女受胎を大天使に告げられる有名な場面です。処女の象徴として百合の花を手に持ち金髪の長いかつらを被った三蔵くんは、とてもきれいです。自分が神の子を身ごもったことを知らされ、恥じらいと不安と喜びに揺れるオトメです。
「今のオレは三蔵じゃねェ…三蔵じゃねェ…」
 なんか唱えてるみたいですねえ。
 続いてはマリアとヨセフの結婚です。紅孩児くんの手に三蔵くんの手が取られます。
「ふっ。今日の所は大人しくこの手を取ってやる。お前を俺の嫁と認めてやるぜェ」
「…こっちが喜んでこの手を取られてると思うなよ。練習終わったら覚えとけよ。コノ。てめェ、なんだかんだ言って、なんで力一杯握ってやがるんだよ」
「気のせいだ。気のせい」
 紅孩児くん、本当は三蔵くんと仲良くしたいみたいです。
 そしてベツレヘムへ向かう、マリアとヨセフです。
「…お前ら、東方三賢者じゃ、なかったっけ…?」
「ひい!お許しください。お許しください。」
 何故か偽三蔵一行がロバの役をしています。どうしても踏みつけにしていい役、って限られちゃいますね(笑)。いえいえ、純真な園児の心を傷つけるようなことは言ってはいけませんね。只でさえ三蔵くん+紅孩児くんでロバ役の子供達はびびりまくっているのですから。
「トチったりしたら、お前ら分かってんだろうな」
「ひいいい、セリフありませんったら、ロバなんですから…」

 さあ、遂にキリストが誕生します。羊飼いの役の子供達が囁きあっているようです。
「三蔵ってやっぱりああゆう格好すると似合うんだよなあ」
「そうですね。来年のバレンタイン、私も考えちゃおうかしら」
「ええ!?八百鼡ちゃん、紅孩児くんじゃなかったのー?」
「えっ?何で判っちゃったのー?」
「何?バレンタインって」
「悟空くんはいいの!あたしがチョコあげるってば!」
「チョコくれんの?えへへ」
「わたし…紅孩児くんと、あとやっぱり八戒先生にあげようかしら…」
 ……女の子の内緒話をこっそり聞くと後が怖いですからね。この辺にしておきましょう。
 おや、もうイエス様が生まれてしまったようです。幼稚園の寸劇ですからね。あんまり生みの苦しみとかは追求しない方がいいでしょうね。三蔵くん、ちょっと呻き声出しただけで、真っ赤になってしまいましたからね。どういう訳か八戒先生も、鼻血吹きそうな顔してますしね。

「か、可愛い…。ヤバいですよ、コレ」
「…ああ、確かにヤバいかもなあ」
 練習を見学に来た父兄の中に悟浄さんがいました。今のはどうも八戒先生への言葉みたいです。
「本当に幼児ポルノ、反対を通し切れんの?」
「ええ!それだけは!それだけは自分の筋を通したいと思ってますっ。あってはならないと…。ああっ!犯罪に走りそうで自分が怖いです…!」
 悟浄さん、引きつってます。
「大丈夫!僕、大学、心理学専攻だったんです。教員免許も持ってるんです。養護教諭になって、保健室カウンセラーとして三蔵くんと一緒に小学校、中学校、高校まで、進学します!!気は長い方ですっ」
「………」
 八百鼡ちゃんに聞かれたらフられますよ。八戒先生…。
「お前ら、相当屈折してるよな。ストレス溜まってんだろ?可哀想に」
 独角兒さんも見学にいらっしゃっていた様です。
「ンだあ?てめ、誰の父兄なんだよ」
「決まってるだろ、紅孩児に。昔の誰かさんと違って、素直に操作されて可愛いぜ?」
「紅孩児も可哀想になっ。こんな兄貴にからかわれて育つとは」
「兄貴とちゃうちゃう。保護者だって」

 そんなことを言っている間に、東方三賢者がお祝いをしに来る最後の場面になっています。三賢者の後ろに随員としてその他大勢の園児達が並んでいます。賢者が贈り物を捧げて、マリア様がイエス様の未来を思い描いて、全ての救われる人々の幸いを喜び、自分の息子の犠牲を予知する所で感動的な賛美歌を全員で合唱します。
「ひいいいいいっ」
 だーれも、何にも言わないのに三賢者、躯が逃げてますねえ…。
 三蔵くんも、段々慣れて来たのか諦めが勝ったのか、真面目にマリアを演じているようです。色白に紫色の神秘的な瞳の、神聖な雰囲気の聖母です。愛というものの喜びと悲しみを小さな躯いっぱいで演じています。
 練習だというのに、見学の父兄から割れんばかりの拍手が起こりました。





「…ふうっ」
 ここは幼稚園の裏庭です。三蔵くん以外、誰もいません。三蔵くんは少し疲れている様子です。
「ちぇー…、格好悪いったらねェぜ。なんでオレがマリア様なんだ」
 みんなが似合う似合うと誉めた言葉を、全部からかいと受け取っている三蔵くんです。
「…あんな姿、先生に見られちまったじゃねェか。格好ワリィー…。先生、悟浄の傍なんかでナニ話してたんだろ。アイツ、手当たり次第だから先生ヤられちゃうぜ」
 さ、三蔵くん、意味判って言ってるとは思えませんね。大体、うちの八戒は責めですってば。もしかして、自分が大きくなったら八戒先生をなんとかしよう、なんて思ってるみたいですね。自分がどう育つかも知らずに…。くすくすくす。
「三蔵くんがあんまり上手だったから、悟浄さんとは三蔵くんのお話をしていただけですよ」
「わっ」
 気が付くと、三蔵くんの後ろに八戒先生がいました。にこにこと優しそうに笑っています。
「オレ、女の服なんか着て、格好悪かっただろ」
「いいえ。きれいで可愛くて、前よりもっと好きになっちゃいましたよ」
「ホント!?」
 今まで俯いて口を尖らせていたのに、急にお日様の様な笑顔です。
「喜んでくれるんですか?本当に」
「オレ、八戒先生が好きになってくれたら、先生お嫁さんにしてやってもいいよ」
「お、お嫁さんですか。嬉しいです。是非お願いしますね」
「じゃあ、じゃあ…。約束のシルシ、していい…?」
「約束のシルシって、なんですか?」
 先生、期待で顔が壊れそうになっていますね。
「うん、テレビで見た。ちゅうするんだ」
 はあうっ!純真なだけに素直です。ストレートです。
「…し、してください」
 三蔵くんは照れくさそうに目を閉じると、八戒先生のほっぺにそっとちゅうをしました。
「じゃあ、僕からもお返しです」
 先生は、そっと三蔵くんの唇に自分の唇を寄せました。そうっと、そうっと、ついばむようなちゅうを返しました。三蔵くんも、八戒先生も、何故だか真っ赤になってしまいました。

「クリスマス会、楽しみですね」
「うん。段々楽しみになって来た」
 ふたりは、練習が上手に出来たご褒美に貰ったキャンディーを分け合って食べました。
 とても幸せな一日でした。





「全然、ダメじゃん…」 by 悟浄

















 ダメダメじゃん 








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■□ AOTGAKI □■
すいません、遊びました…
こんなのなのに、どんどん長くなって行くし、でも顔もにやけながらだし…
暗いのの反動なんですけど、こういうのって読んでくれる方、いらっしゃるんでしょうか…?
さて、よしきはクリスマス大好きなんですが皆様は?
この仏教マンガでクリスマスを楽しむのって、イロモノ以外でないですかねえ?