■■■  月ガ、カガヤイテイタ。 

 月ガ、カガヤイテイタ。




 真っ暗闇で世界中を覆い尽くそうと、真っ暗闇で世界中を眠らせようと、夜が腕を広げているのに。
 世界中を、暗黒の腕で抱き締めて、静かに眠らせようとしているのに。

「ねえ、烏哭」

 優しげな微笑が、淡い光を投げかけた。

「怯懦、不安、恐怖、強欲、怨嗟。なんてこの世は醜いのでしょうね」

「奸計、制覇慾、強奪、争乱、恩讐。そんなものが、人の世にはなんて満ち満ちているんでしょうね」

 嘆く様子もなく、淡々とただ事実を確認するかのように、その人は口にした。

「ねえ、烏哭」

 月光に照らされた穏やかな表情は、その人こそが月であるかのように、淡い輝きを持っていた。

 柔らかなその輝きだからこそ、暗闇と同時に存在出来るのだと。
 夜と共に寄り添えるのだと。
 夜を侵食し続けるのだと。

「だからこそ、その中で足掻き苦しみながら生きる人を、わたしは、」

 月光が、辺りを照らし映し出す。
 ほっそりした緑の下生えの、小さな露を輝かせる。
 柔らかな月光が、夜を喰らう。
 真の暗闇に薄い光輝をヴェールのように広げてしまう。
 夜は夜であらねばならない。
 真の暗闇こそが、静かな眠りを導くのだから。
 ほんの微かなともしびさえも、深い眠りを阻止してしまう。

「ねえ、烏哭」

 群雲を透かした月光が、その人を映し、象った。
 その人は、月の光のかたちをしていた。




「 ―――― 賭けてみましょうか?烏哭」




 穏やかな微笑の持つ、芯の強さを知っていた。
 柔らかな光が、ゆっくりと確実に染み込むのを知っていた。
 月が沈まず輝いていれば、世界中が深い眠りに落ちることなく、夜明けを迎えてしまうことを知っていた。




 夜は月を愛していたのに。




 月の告げた決別の言葉を、夜は黙って受け止めた。










 終 




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◆ note ◆
経文妄想に取り憑かれての、一応ゼロサム6月号受けてのネタバレのつもりです。

─wwヘ√レvv~─受信状態が落ち着いてから、書き直しか削除の可能性アリです。