天気雨が降った日 
presented by 未来 恵ちゃんv
 雨が降ると、三蔵は機嫌が悪い。
 それは、空が青く、雲が白くて、ポストが赤いのと同じ位、周知の事実ってヤツ で。
 ついでに、長雨のせいで足止め食らってる現在の機嫌は単なる不機嫌を簡単に通り 越してるらしいって、顔を見るまでも無く。煙りの充満した室内を見れば十分過ぎる 位よく分かる事実だった。
 その半分位は…俺の責任かも知れないが…。
 灰皿の上は、もう山が崩れそうな勢いで吸い殻が積まれてる。
 最も、それはヤツの前の…だけに限った事じゃ無いが。
 ま、でも四六時中ふかしてなきゃ気の済まない、文字通りのヘビースモーカーな俺 と違って、奴さんが煙草に手を出す理由ってのは限定されるんで。
 無理もねぇか、もう今日で四日目だ。一日二日なら骨休めにもなるが、あんまり続 くとな。山間の小っせぇ村だから、娯楽もなんもありゃしねぇし。
 だから、俺もまあする事無くて、ボーッと引っ繰り返ってる訳だが。そんでもっ て、他に見るもんがあるでもねぇから、黙ってりゃ別嬪な生臭坊主の様子こっそりを 伺ってたりする…と。俺も大概物好きだね…全く。
 今朝はそれでも、漸く晴れ間も覗いてて、だから、今日こそは出発出来るかと期待 した訳だ。
 所が…所が。
 お天道さんはどうやら、俺らをこっから動かしたく無いらしい。
 朝飯も済ませて、いざ出発って段になって、また振り出した。
 まいったね。ホント。
 バケツ引っ繰り返したみたいな豪雨は、そう長くは続かなかったんだが。
『橋が、落ちたらしいです』
 この村と外を繋ぐ唯一の…が、雨の勢いに耐え切れずに落ちたらしい…と。宿の親 父が知らせてきて…結局出発は見送り。元々老朽化してて、そろそろ直さねぇとなっ て話は出てたらしい。だったらさっさとやっといてくれっての。
 今は、雨の勢いも納まってる。
 ついでに…空もだいぶん明るい。
 晴れてるって言っても良いくらいに。
 こういうの何て言うんだっけ?
 晴れてるのに、降ってる雨…。
「なぁ、何だっけ?」
 気になったら放っとくのも気持ちわりぃし。
 窓際で、相変わらず不機嫌全開なオーラガンガン発してる三蔵に、煙り、吐き出す のと一緒に問いかけてみる。
 いや…まあ、返事が返って来るとはあんまし期待してねぇけど。
「天気雨ですよ…」
 案の定、奴はそっぽ向いたままで。代わりに、丁度扉が開いて、顔を出した八戒が 答えた。
「まったく、凄い煙りの中で良く平然としていられますねぇ…」
 手にしたトレイには、カップが三つとポットが一つ。
 多分、珈琲だろ。
 ホント、マメなヤツ。
「少しは換気してくださいね」
 張り付いてる…ニッコリ笑顔は変えないまんま…ほとんど間違いなく、アレは単な る条件反射だ…トレイテーブルに置いて、ガラガラと窓を開け出す。
 結果、一気に冷たい空気がそっから流れ込んで来て、開けたままだった扉から抜け て行った。お見事!!でもさみぃよ。実際。
 続く雨天で気温はかなり低下気味。
 最も、雨降りな上に気温が高かったりしたら、鬱陶しい事この上ないんで、それは まあありがたいんだが。
「珈琲、飲むでしょ?…三蔵」
 手際良く、灰皿の中身空にしながら問いかけるのは対三蔵。
 カップの一つに、湯気の立つ珈琲注いで窓の外…睨みつける勢いで見てる三蔵に差 し出す。
 問いかけってか、断定だな。まぁ、晩飯にはまだちょっと早く、けど、そろそろ小 腹は空く頃だし。
 何も言わないまま、当たり前に受け取った三蔵が、そのままそれを口元に運ぶ。窓 の外を睨みつけるのやめて。でもって、ほんの少し、目伏せて。
 何の躊躇いもなく、差し出されたままのソレを口にする。
 三蔵を取り巻いてたトゲトゲしい空気が、若干和らぐ。
 あくまでヤツにしては…ってレベルだけどな。
 温かくて美味い飲み物には、人のイライラを溶かす効力があるんだって、どっかの 女が言ってたっけ?そーいや。
 まあ、この場合イライラな空気を溶かしたのは、ニコニコと嬉しげにその様子を眺 めるヤツの発するほんわかした空気なんだろうが…。
 甲斐甲斐しく三蔵の世話を焼く八戒のヤツからは、幸せオーラが出てる。
 世話焼かれるがままな三蔵も、ま、満更じゃねえんだろ。
 俺やサルが、アレ位纏わり付いたら、速攻で壁に無駄な銃弾のレリーフが刻まれて る事間違い無し。
 いや、良いけどな。俺には聞いてくれない訳?
「心配しなくても悟浄の分もありますよ」
 振り返りもしないで。言う親友の言葉に、俺はため息を一つ落として起き上がっ た。
 馬に蹴られない内に退散した方が良さそうだ。
 テーブルに放置されたカップに、同じく放置されたポットから珈琲を注いで。それ を手に、そのままその部屋を抜け出した。

 だから、その後がどうなったか…なんて俺の知った事じゃねぇ。ただ、雨の上がっ た翌日も、結局出発出来なかった。
 ま。つまりはそーゆう事。














 end 







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◆ note ◆
A planetの未来恵ちゃんから、83らぶらぶなお話を頂戴致しました
ごじょさんも逃げ出すらぶらぶパワー!
翌日の三蔵の様子想像すると……か、可愛い過ぎます……
恵ちゃん、ありがとうございますv