実際美味いのだ。
肉はちょっと張り込んだし、スキヤキのタレとても、八戒特製のザラメ糖入り。
新品のスキヤキ鍋の上で、肉の脂身もとろけ、ふつふつじゅうじゅう。
先に入れたザラメ糖が焦げてカラメル化した、甘い薫りが暖かな部屋に立ちこめる。
「肉、追加してくれんの?」
期待に満ちみちた悟空の瞳に、悟浄はアッサリと勝負に負けた。
「……行って来まあす」
早く、部屋に帰りたかった。
熱燗と、スキヤキ。
こもる湯気。
……賑やかな、食卓。
「何しろ、寒過ぎ」
暗い空から、雪は後から後から降り続く。
通い慣れた商店街への道が、見知らぬ光景のようだった。
通りを歩く人も、寒さにかがむように、下を向いて歩く。
静かだった。
雪が雑音を吸い込むと、どこかで聞いたことがあったかもしれない。
夕日も沈みかけ、子供達の姿も声もない。
誰もが、家路に向けて黙々と歩き続けるばかりだった。
「寒過ぎんだよなあ」
泥交じりの雪道が、新たな雪に覆われて、悟浄の足跡が黒々と残った。
靴が、雪に埋もれる。
歩くごとに、爪先が雪を、少しだけ蹴り出し、沈む。
肉屋と酒屋をハシゴした。
ついでにストックの切れかけていた、ハイライトもカートンで買った。
更についでにマルボロも3つ買い、まるで冬眠準備のようだと思った。
「…ま。明日にゃやむでショ」
希望的観測ではあるものの、日差しの映える新雪を思い、悟浄の気が僅かに晴れた。
ガキ共が、きゃーきゃー喚きながら、遊び回るんだろ。
きっと明日は煩くなるな。
しもやけ、あかぎれ、りんごの頬。
ガキの雪合戦の流れ弾が、何故か俺は当たる確率が高い。ような気がする。
それは被害妄想か。
どーせ、ぶっつけられたところで、躾で投げ返すんだが。
新しい煙草に火を着け、また紫煙を吹き上げた。
眩しい新雪の中で駆け回る子供達の間に、雪合戦に混ぜてくれと駆け出す悟空の姿を思い描いた。
雪まみれで転げ回る悟空の、嬉しげな顔が浮かんだ。
「……サルだしな」
くすり。
知らずに洩れた笑みに、後から苦笑した。
天に向けて紫煙を吹き上げ続けた。
肉と酒の、ビニール袋が手に食い込み、かさかさ、カチャカチャと音を立てた。
雪道を俯いて歩く人波に逆らいながら、悟浄は天を眺めながら歩いた。
「明日にゃやむでショ」
とっぷり暮れた夜道に、近付く家の灯りが、悟浄には妙に暖かく、目に映った。