story by とほぽん子さん
illust よしき
■■■  scarlet 





轟く闘気に圧倒され皮膚がびりびりと刺される。
「僕から離れないで下さいね」
抱え起こされ、その胸に庇われる。必死に頷きながら金蝉は視界を過ぎった赤に慌てて天蓬を見上げた。
「お前っ…」
「これくらい、僕らには大したことじゃありません」
いつものように天蓬は微笑んだ。だが、ひび割れた眼鏡のレンズと白い皮膚を裂いた傷が金蝉に動揺を呼んだ。
無意識に血を拭おうと伸ばした指を、天蓬がそっと押しとどめた。「かまわないで下さい。貴方が汚れる」
「そんなことはどうでもいいっ!テメェは……っ」
「駄目です、金蝉」
この期に及んでまだ自分を丁寧に扱おうとする天蓬の態度に、金蝉は本気で腹を立てた。半壊しかかった広間の中央では、悟空を後ろに捲簾が大立ち回りを続けている。血の海に沈んだ小さな闘神太子の体はぴくりとも動かない。不意に、遣る瀬ない怒りに胸を鷲掴みにされ、金蝉は息を詰まらせた。
何のために、こんなことが起きているのか。
「貴方は、僕が護ります」
真率な声が降って、金蝉は顔を上げた。見上げた天蓬の表情は、視界の中でわずかに滲んで見えた。
「天……」金蝉の言葉が消える。
微笑みの消えたその頬を見るのは、出会ってこれが初めてのことだったかもしれない。金蝉は思い、凝っと天蓬を見つめ返した。金蝉の肘に触れていた天蓬の手にゆっくりと力が込められた。
金蝉の心の底を見るように、目を凝らした天蓬は、静かに言葉を紡いだ。


「貴方には、自分以上に護りたいものがあるのでしょう?」



「-----天蓬ッ!!」
捲簾の声が響いた。兵がひとり、上段に剣を振りかざし膝をついた天蓬の背に向かい跳躍り込んだ。白刃が一閃し、噛み合う鉄が火花を散らした。刃に両断されるかに見えた白衣の男は既でに身を翻し、抜き身で切っ先を受け止めていた。金蝉は、自分を護ると言い切った背中に力がこもるのを目にした。
細く見える体の一体何処にそんな強靭さがあるのか、天蓬は力で相手を押し返すと肩先から相手の懐へ入り込み、低い姿勢から構え直す中途の膝頭をずっぱりと斬りつけた。もんどりうって転げ回る兵士を尻目に、天蓬は涼しやかに背後の金蝉を振り返る。
「始めましょうか。-----行きますよ、金蝉」






天蓬







 endless..... 




《HOME》 《NOVELS TOP》 《BOX SEATS》 《SERIES STORIES》 《PARALLEL》 《83 PROJECT》




◆ note ◆
カウンタ83838ヒットをした時に、天蓬画像配布企画を致しました
重たいイラストであったのも関わらず、拾い上げて下さった方々、その節はありがとうございます
そのイラストで、とほぽん子さんが外伝短編を書かれたのを、頂戴致しました
2001年冬の外伝よりのイメージです
……泣きそうなんですが

ぽん子さん、ありがとうございます