「好きです」
「愛しています」
日毎、夜毎にアイツの口から紡がれる言葉。
俺は、一度もその言葉に答えたことはなかった。
以前、強請られた時も、うやむやにして、答える事はなかった。
■■■ 想いの名前
「愛なんて、知らない」
突然、そう言葉にすると、ふかふかの枕に顔を埋める。
「三蔵?」
「・・・・・・・」
八戒の呼びかけに無視を決め込むと、顔を覗き込もうとして身体を浮かせた隙をつき、三蔵はその白磁の腕を枕に絡ませながら完全に背を向けた。
「一体、どうしたんですか?」
後ろから抱き締めると、耳元でそう囁いた。ついでと言わんばかりに、こめかみについばむようにキスをする。
「…お前は、どうして『愛している』と言える?」
キスの洗礼に身をよじりながら、口を開く。
「貴方を思う気持ちが、『愛』だと思うからです」
「・・・俺には、判らない」
「別に、貴方が僕を思っている感情が『愛』だと決め付けなくても良いんじゃないですか?」
間を置いて答えた三蔵に苦笑しながら、首筋を舌でなぞる。
「確かに、僕としては貴方が僕を『愛している』のなら、嬉しいですけど」
「・・・お前は、俺を『愛している』?」
どこか虚ろな響きで、返事が返る。
「ええ、勿論。怒らせてしまうかもしれませんけど、貴方が望むのなら僕は命さえ捨てても良い」
「・・・俺にとって、それはお師匠様だった」
「傍にいたい」
「そう俺に請わなくてもウゼェくらいに付き纏う猿が居る」
ぽつぽつと、淡々と、交わされる言葉。
「来年も、再来年も、三年後、五年後、十年後…幾つになっても貴方を杯を交わす相手で居たい」
「・・・河童にだってンなもんはなれる」
「――――じゃあ、こうやって…」
「八戒っ!?」
悲鳴めいた呼びかけを黙殺して、すこし強引に三蔵の身体を反転させて足を開かせると、さっきまでの情事で緩くなったソコに自分のモノをイれる。
「貴方と愛し合う、唯一の相手で居たい」
本格的に抵抗し始めた三蔵に、そう耳元で甘く囁く。
「・・・それもお前…次第、だろ?」
ほんの少し息があがった三蔵が、口元を嘲笑うようにゆがめた。
「貴方にとっては?」
「…他に誰が俺を抱けると思ってんだよ、貴様は」
平静を装いながら聞いた言葉に、眉間を寄せてそう答える。
「・・・・・・・」
告げられた言葉に、八戒は言葉を失う。そして、トドメと言わんばかりに紡がれる言葉。
「お前だけだろ」
「・・・三蔵」
天使が歌うハレルヤを聞いたような錯覚を八戒は覚えた。
「もういいだろ、抜けよ。俺は寝る」
そっぽをむいて、三蔵が腕の中で身じろぐ。それに確かに刺激されながら八戒は笑みを浮かべて口を開いた。
「ヤです」
「はっか・・・っ!?」
慌てて口を開いた三蔵の唇を塞ぐ。舌を絡ませながら、焦らすように全身に手を滑らせる。
「もう一回シましょ?で、朝になったら一緒にシャワー浴びて。美味しいコーヒー入れてあげますから、一緒に飲みましょ?」
「お前、明日しゅっぱ・・・ひゃっ…う」
柔らかな微笑で告げられた言葉に、三蔵は驚愕するように目を見開いて言葉を紡ぐが、その言葉は体内で蠢くモノによって遮られた。
三蔵があげた声に、一瞬目を見開くと、例えようもない程の満面の笑みを浮かべて囁いた。
「愛してる」
「いつか、ぜってーブッ殺す・・・」
自分が何時意識を飛ばしたのか覚えていないが、「もう一回v」だけで済まなかっただけは克明に記憶している。おまけに今現在、片手を身体に絡ませて俺の自由を奪っておきながら、穏やかに寝息を立てている相手に、かなりの殺意が向いても仕方ないだろう。
―――貴方を思う気持ちが、『愛』だと思うから
ふと、先ほどの会話を思い出す。
人々が愛と呼ぶ、ひどく相手を想い求める行動と感情は愚かしく醜いモノだと思っていた。
自分はもう、ヒトは誰かの為のヒトでは在り得ないコトを、知らないとは言い切れない。どんなに求めていても、結局自分以外は全て他人。血の繋がりが有った人間だとしても、何を考えているかなんて到底解りはしない。だから、他人を求める「愛」という行為なんてのは無駄な行為の最たるものだった。けれど。
「今こうしてるのも、多分俺の意志で…」
相手の魂までもを欲する行為に名前を付けるなら。
そして、伝えられない不安要素と、伝えきれない思いや感情に名前をつけるなら。
そっと、口付けて。
「・・・・・・愛してる、八戒」
――― 愛でも、いいのかも知れない。
◆ 終 ◆
◆ note ◆
「Style」様の彩瀬赦栖さんの配布小説を頂戴致しました
ハレルヤです!愛してるです!
配布されていたのは実は83dayの頃であり、お話頂戴エントリだけさせて頂いていたものの、アップがこんなにも遅れてしまいました
もたもたもたもたと、失礼致しました
赦栖さん、ありがとうございます