between the seets 
 ぐい、と。
 三蔵が胸を押し返した。
 濡れた唇が開き、薄い舌が一瞬覗いた。
 きつく瞑られた目蓋には、薄明かりを反射する睫毛。
 そのすぐ上の、寄せられ歪んだラインの眉。
 花が開く瞬間のような、見る者を期待させる唇。
 突き上げる動きに呼吸を求めるように開き、噛み締められた。
 眉頭が上がり、まるで三蔵は泣いているように見える。
 切なげな子供の泣き顔。
 ほんの少し眉の確度が変わるだけで、その純粋さが、とてつもなく淫靡な誘惑に変化する。
 肩を掴んで三蔵の逃げ道を断った。
 僕を見返す瞳は、快楽と困惑の色に濡れていた。
 一瞬、もの問いたげに震える唇。

「……っ!」

 きつく、きつく、白い歯に噛み締められる。
 突き放す勢いで、僕の胸をまた押し返す。

 痛い?
 気持ちいい?
 波にのまれて、自分を無くすのが怖い?
 こうされるのは、好き?
 必死な腕を、両方まとめて絡め取り、金糸の散らばる枕に押し付けた。
 ぬめるような青白さの腕の間で、湿度と温度を振りまきながら金色が震えた。
 努力していないとすぐに引き瞑ってしまう、紫玉の瞳は、僕の姿を捉えたり逃れたり。
 繰り返し、濡れ、濡れて。濡れて行く。
 白くなるまで噛み締めた唇の隙間から、甘い吐息が漏れた。
 喉元が苦しげに引きつり、鼻腔が震えた。

 息が、苦しくありませんか?

 問えば即座に睨み返す。

 その勝ち気が、
 僕を、
 狂わせるというのに。

「……くっ……っン……」

 ゆっくりと唇を覆うと、三蔵の小さな喘ぎの、末尾が上がった。
 だって、ねえ?
 息なんか継がせない。
 快楽から逃れるように洩らす、そんな吐息閉じ込めてしまいたい。

 覆い尽くしてざらりと舐めると、また一際甲高く、
 これは、やはり
 悲鳴なのか。
 悲しそうな、追い詰められたような。

 訴えるような。

 抑え付けた両の手首は、深く深く枕に沈んだ。
 僕の真下にさらけ出された、白い躯の、肋に沿って掌を登らせ、吸い付くような肌触りを、余すことなく味わい尽くす。
 暖かさと、滑らかさ。
 僕の掌に刺激され、瞬間粟立ち、震える膚。
 撥ねる躯。

 きつく噛んだ唇を、宥めるように舐め続けた。
 唇で挟んで、隙間から誘うように。
 くすぐるように。
 そのひとつひとつに、身を震わせながら三蔵は抗う。
 揺らされることに、半ば流されつつあるというのに。
 可愛らしい、気の強さ。
 この人は知らない。
 堅いつぼみが開く、その瞬間の僕の暗い喜びを。

 暖かな窪みと、肩の関節が敏感に動く軋み。
 そこに辿り着いた掌を、暫く留まらせて、続く軋みを楽しんだ。
 僕が躯を揺らしても、唇をなぞりあげても、その度解放をねだるように肩は軋む。
 潤んだ瞳を目蓋が隠し、目尻から小さく涙がこぼれた。
 睫毛が濡れて、更に長さが強調されていた。
 欲情に染まった頬に、たったひと筋流れる涙の、うっすらとした光が美しかった。
 三蔵の肩をくるみ込んでいた掌の、躯の前を撫でる親指をまた移動した。
 腋の下の、体温と湿り気。
 ごく薄い、柔らかな金色の体毛を、逆撫でた。
 性感とくすぐったさを同時に感じて、三蔵はこれまで以上に身を捩らせた。

 逃れようと。
 耐え難いと。
 これ以上は気が狂うと。

 涙をこぼしながら、啼き始めた躯を制御するには、もう逃げ出すしかないのだと。
 捉えられたままの両腕に挟まれた、小さな貌と金糸の髪が振り乱される。

「三蔵…?」

 躯ごとシーツに抑え付けられても、まだ利かん気な瞳は僕を睨む。

「これ、嫌いですか?ではどうして欲しいですか?」

 問えば問う程に、三蔵の唇は閉ざされる。
 答えが溢れ出しそうで、喘ぎを噛み殺すのが精々で、三蔵はまた唇を噛んだ。

 いつの間にか、強張る腕から力が抜け、くたりと頭の両脇に、肘が開いて倒れていた。
 滑らかそうな誘惑に、我慢仕切れず唇を落とした。
 触れる感触に、ぞくりと何かがわき上がり、噛み付くように痕を付けた。

「……やっ……メっ!見える……ッ!」

 ノースリーブから出る肩口に、目立つように紅い花。

「やめろっ!」

 願いのような抗議の声も、気にせず痕を残し続けた。

 三蔵は、酸素を求めるように唇を開いた。
 乱れた呼吸に、まだまだ吸い足りないのだと、またじわりと汗を浮かべて唇を開いた。
 何かを叫び出しそうな、そんな苦しげな表情で。
 僕の下で身を捩らせつつ。
 胸を押し返した腕は、今は僕の肩に掴まり爪を立てる。
 躯の奥を揺らす度に、深く深く爪を立てる。

「三蔵…?」

 呼びかける声に、視点の合わない視線を寄越し、僕を見たまま、声を出さずに叫び続けた。

 果実の甘さが滴る唇を、もう一度優しくなぞりあげた。

 疲れ切った三蔵の舌が、漸く諦め僕に絡んだ。

 声にならない悲鳴をやっと、甘い呻きで訴え始めた。

 揺すり上げれば躯を反らし、指で触れれば奏でるように吐息を漏らす。
 甘やかすように、ひとつひとつ、言葉の形を教えるように、唇で押し開いて、声を。  
 接吻けの隙間から。
 もう噛み締めることも出来ずに。
「……はっかい……」
 蜜のように蕩けた声で、僕の名を。

 甘い香りで。

 僕を酔わせた。

 包み込む、シーツの狭間で。














 fin 







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◆ note ◆
between the seets
 ブランデー 1/3
 ホワイトラム 1/3
 ホワイトキュラソー 1/3
 レモンジュース 1tsp

氷とシェイクしてグラスに。きつくて甘い香りです