| 指先 / 白猫 |
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【ハボロイ】 『指先』 この人の指を好きだと思う。 男にしては細くて綺麗な指。けれど、女性のものとは確かに違うごつごつとした関節のライン。10代の頃好きだったミュージシャンのギターを弾く指にも似た、まるで芸術家の様なその指を軽く弾いて、この人は音楽ではなく焔を奏でる。その焔は、決して芸術なんかではなく、誰かを殺傷する為のものだから、ますます音楽などとは縁遠いのだけれど。それでも。 まるで音楽みたいですね。 そう言った途端、上目遣いに、訝しそうな視線を向けられた。 「何のことだ?」 広いベッドの上で何も着けない男が二人。くしゃくしゃになったシーツ。床に落ちた毛布。端から見れば、どのように映るのだろう。何処か現実離れした世界のなかで、未だに何よりも信じられないのは。 自分に覆い被さる相手が、ロイ・マスタング大佐、その人だということで。 「あんたの指が、なんだか楽器を扱ってるみたいだなあって」 「こんなデカい楽器は要らん」 呆れ声と共に、胸元に埋められていた顔が上げられる。ついでに、かりっと突起に歯をたてるのは忘れずに。 「イテッ。あんたねえ、それやめて下さいって言ってんでしょうが」 「何をやめるんだ?」 ニヤリと笑うロイの手は、この人の媚態を見て既に熱く勃ちあがる場所に添えられていて、ゆるゆると擦りあげられて、ごくりと唾を呑み込む。 「やめるか?」 「意地悪しないで下さいよ。ここでやめられたら泣きますって」 「ベッドで相手を啼かせるのはキライじゃないがね。さすがに、それは女性限定にさせて欲しいな」 「なら意地悪言わないで下さいよ」 「お前に優しくしても仕方がないだろう?」 「そりゃ普段はそうっスけど。こういうコトしてるときくらいは、もうちょっと優しくして貰ってもいいと思うんスけどねぇ」 「優しさを求めているのなら、他をあたるんだな。お前でも、優しくしてくれる女性くらいは見つけられるだろう?」 「そこで疑問系なあたりも、さり気なく意地が悪いっスよね、ったく」 くつくつと笑うロイの指が、また柔らかく熱に絡んだ。 「で、どうするんだ?」 「はい?」 突然訊ねられて思わず聞き返せば。 「舐めてやろうかと訊いている」 しれっとして返される言葉。 「あー…、えーと、お願いします」 「ハボック。お前、カオ、朱いぞ」 「当たり前でしょう。あんたに舐められて動じない男なんていませんよ」 「そうでもない…ぞ?」 くっ。 全身に震えが奔ったのは、この人の舌を感じたからだろうか、それとも、この台詞の所為だろうか。 自分がこの人にとって、ただひとりの男でなんかないことくらい嫌という程知っていた。男女の恋愛じゃないのだから、こんなことに嫉妬するのが筋違いなことも知っている。今、此処でこうしていられるだけで、自分には勿体無い程の幸運なのだと。そう思わなくてはいけないことだって解っている。 けれど。 「あッ…」 不意に吸い上げられて、思わず声が洩れた。 瞬間的に瞑った目を薄く開いてみれば、熱を咥えたままのロイと視線が合って。 「大佐…?」 「何を考えている?」 思いきり熱を高められたまま、放り出されたモノが、ロイの口許で揺れる。 「なにって…」 言えというのだろうか。 あんたのことです。あんたがこういうことをするすべての相手に嫉妬しているんです。過去には嫉妬しなくても、現在と未来にあんたを抱くヤツ等には、死ぬ程嫉妬するんですよ。 どうしたって、言える筈のない台詞を呑み込んだとき、目の前の人が、酷く不機嫌そうなことに気付いた。 「大佐?」 「私とするのは嫌なのか? だからそんなに嫌そうな顔をするのか?」 「はあ?」 思わず声がひっくり返りそうになったのも、この際、仕方がないだろう。 「あの、大佐? 一体なにを? 俺があんたとするのを嫌がるハズないでしょう?」 「ではなんだ。さっさとイれたいのか?」 それなら、とばかりに、起き上がって、腰に身体を落としてくる人に、真剣に慌てて。 「た、大佐っ? ちょ、待って下さいっ。あんた一体何をしてんスか?」 「イれたいんだろう?」 「そりゃイれたいッスけどって、そうじゃなくて! こんなことをしたら、あんた傷付いちまうでしょうが!」 慣らしてもいないその場所に、硬く勃ちあがったものの先端があたって、途端、僅かに眉を顰める人の身体を慌てて離そうとすれば。 「やっぱり嫌なのか?」 「だから、そうじゃないって言ってんでしょうっ。あんたにはイれたいです。ヤりたくてしょうがないっス。けど、これじゃ、あんたは全然よくないでしょう? 俺は、あんたと一緒によくなりたいんです。その為に抱き合うんです。それが、これじゃ強姦とかわんないでしょうが!」 「合意の上の強姦など有り得ないだろう? 第一、それで言うならば、どちらかといえば、私がお前を強姦してる方なのだが?」 「…あんたね」 なんとなく。それだけは避けたいような、それもいいような、複雑な思いで首を振る。 「おい」 「なんスか」 「嫌じゃないんだな?」 「当たり前でしょう。あんた、さっきから何言ってんですか?」 「お前がイヤそうな顔をしているんだろう」 少しだけ、拗ねたようなカオで。 「ああ」 この人が一体何を勘違いしたのか、なんとなく判った気がして苦笑する。 「すいません。あんたの相手に嫉妬していただけなんです」 「…なに?」 「あんまりガキみたいなことするつもりも言うつもりもなかったんスけど。えーと、その」 一瞬考えて、まあ、いいかと息をついて。 「俺、あんたとこういうことすんのすごく好きなんスよ。あんたとのキスも、イれんのも、舐めてもらうのも、呑んでもらうのも好きですし、嬉しいっス」 目の前の顔が、僅かに顰められて、その目許が仄かに朱く染まる。 「勿論、それが自分だけの特権だなんて思ってないっすけどね。あんたを独占できる筈もないですし。…でも、たまには、こう…やきもちも妬くっつーことです。すいません、結構ガキなんで」 「本当だな」 溜息混じりの声に、さぞ呆れられたことだろうと思うと胸が痛んだ。そのまま目を閉じて、次の言葉を待つ。できれば、あまり冷たい言葉ではないように願う自分は、思っていた以上に小心者なのかもしれなかった。 「ったく」 不意に髪を撫でられて、思わず目を開くと、なんとも言い難い困った様な顔で見下ろして来るロイと視線が合った。 「大佐?」 「目、閉じてろ」 言われるままに目を閉じると、そのまま髪を弄ってくる手。まるで子どもをあやすかのような優しい動きに硬くなっていた身体がゆっくりと解けていく。 「あー、大佐? 俺、もしかして宥められてんですか?」 「まあ、そんなものだな。気にいらないか?」 「いえ。気持ちいいです。あんたの指、好きですから」 「指?」 戸惑ったように、髪に触れたまま動きの止まる指。 「どうかしました?」 「私の指を好きだと言うような奇特な奴はお前くらいだな。普通は、怖がるんだが」 「怖がって欲しいんスか?」 「人を殺す指だぞ?」 「焔を生む指ですね」 「兵器と呼ばれる程のな」 「でもそれはあんたの指には何の関係もないでしょう? あんたの指はすごくきれいです。それに、気持ちいい」 そっと手を伸ばして、触れた手を、頬に持ってきて。 「俺は、この指すごく好きなんです」 一瞬躊躇った指が、ゆっくりと頬を撫でる。 「これが?」 「これがです。…ほんとに言われたことないんスか?」 これまで、この人の指に触れてきた奴らは、一体何を思っていたのだろう。つい、余計なことを考えたとき、突然耳に入って来た台詞。 「ならば、これはお前にやろう」 「は?」 余りに意外な言葉に、思わず目を見開く。 「あの。大佐?」 「お前だけのものが欲しいのだろう?」 見つめられて、ごくりと唾を呑み込む。 「勿論、切ってやる訳にはいかないが」 そして、ゆっくりと顔を撫でてくる指。柔らかく、撓やかに、あの綺麗な焔を生むこの指。 「これはお前のものだ。私が何処で何をしていても、誰といても」 他の誰かに触れているときでさえ。 お前のものだ。 そう言って笑った人の、壮絶なまでに綺麗な笑顔。 「あんたって人は、ほんとに…」 そのまま、もう何も言えずに、手の甲に接吻けて。 例え、すべてを独占できなくても。 たったひとつ、この指先だけでも。 俺だけのものに。 fin. |