| 埋み火 / 白猫 |
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【ヒューロイ】【18禁】 『埋み火』 「お前を初めて抱いたときは、すっげえおっかなかったんだがな」 「…なんだ、それは」 キングサイズのベッドの上。真っ白なシーツに包まって大きな枕を抱き締めたまま薄く目を開ければ、ベッドの端に腰を掛けたまま煙草を吸う親友の、撓やかで筋肉質な背中が目に入った。自他共に認める頭脳派の男の、それでも、無駄一つない鍛えあげられた綺麗な背中のライン。半時間前まで、必死に縋り付いていたそれに、爪の痕などがついていないことに、ほっと安堵する。 「棘だらけのヴァラの実みたいだっただろが、お前。何処を触っても怪我すんじゃねえかってヒヤヒヤもんだったぞ」 砂漠地帯独特の素手では触れることも出来ない程の棘に覆われた果物の名前を出しながらヒューズが笑った。 「はん。よくもそんなものに手を出したものだな」 「危険に近付きたくなるのは、男の浪漫だろ」 「くだらん」 抱き締めていた枕に顔を埋めようとした途端、不意に伸ばされた手に頬を撫でられる。 「危険に近付いたおかげで棘の中のこんなに甘い果実にも気付いたんだからその甲斐もあったというワケだ」 「…バカか、お前は」 思いきり呆れた声で呟いてやれば、くつくつと笑う声。 「お前の棘が今でも抜けてなくて嬉しいよ、ロイくん」 「当たり前だ。そんなに簡単に丸くなってたまるか」 「ご尤も。丸くなったお前なんざ想像もできやしねえ」 吸いかけの煙草を、サイドテーブルの灰皿に押し付けて、ゆっくりとベッドに乗り上げるヒューズを黙って見上げる。 「なんだ、ロイくんは、俺に見蕩れているのかなぁ」 「見蕩れられるほどのイイ男だという自信があるのか」 「少なくとも、グレイシアとエリシアとお前にとっては、イイ男だろ? 俺は」 臆面もなく妻子の名前を出しながら、覆い被さってくる男に溜息をついて。 「お前の売りは誠実さだと思ってたんだがな」 「この上なく誠実だぞ、俺は。だからこそ、今、此処にいるんだろう」 「その口、燃やしてやろうか」 「それは勘弁してくれ。お前の名前を呼べなくなる」 どうしようもなく不実な男が囁く嘘と真実。 「ロイ」 耳許で囁く声にぞくりと躯を震わせる。これまで耳にしてきた誰のどんな声にも、こんな風に感じたことはないというのに。 「ロイ」 大きな掌が頬を撫で、肩を滑り落ちていくのが、堪らなくて。できるだけ素っ気無く聴こえるように、溜息混じりに呟いてやる。 「まだやるつもりか。いい加減に…」 「ローイ」 そして返されるのは、小さな子どもを嗜めるような声。こんな声にすら欲情する自分に少しだけ嘲笑った。そのままふっと力を抜けば、嬉しそうに重なる唇。 「ヒュ…ズ」 口腔を這う舌は、まるでそれ自体が生きている軟体動物のように蠢く。自分を抱くとき、コイツのすべてが、いつもこうして好き勝手に振舞った。その指も、掌も、太股の間を割り開く脚も、そしてその欲望の象徴も。その息遣いを感じるほどに、いつでも弄り吸い付き撫でて、そして犯していく。 「ローイ。どうした?」 気遣うように問われて、眉を顰める。そんなものを望んでいるのではないことくらい解っている筈の男に、少し苛立つ。 「やるなら、早く…」 「なにをして欲しい?」 僅かに苦笑してから、声のトーンを落として囁かれる声。 ああ、この声だ、と思う。いつでも誰にでも優しさを溢れさせるこの男の、きっと知る人は殆どいないだろう酷く意地の悪い声。 「なぁ。なにが欲しい?」 ぺろりと、耳朶を舐める舌の生暖かさ。 これが欲しいんだろう? すべて解っている男の誘惑に、今更逆らうつもりはない。 「ローイ?」 「舐めろ」 「何処を」 問われて考える。何処を。何処がいい? 何処にこれが欲しい? 「此処か」 ヒューズの指が胸の尖りに触れる。つん、と突かれて、びくんと跳ねる躯。 「それとも」 その反応を喜ぶかのように、言葉に笑みを含みながら、撫でるように降りて行く掌。 「此処か」 「つッ…」 張り詰めたものにほんの少しだけ触れて。先から僅かに洩れる液体を指先に取って舌に運ぶ奴。 「塩っぱいぞ」 「知ってる」 「自分の味もか?」 「お前のだけだ」 「嘘つけ」 可笑しそうに笑うヒューズに何か言い返そうとした途端、同じ指を唇に差し込まれて。ヒューズの唾液にほんの僅かに混ざる塩味に眉を顰める。 「お前のだ、ロイ」 「るさ…い。舐める…のは、お前…だろが」 「ああ。そうだったな」 悪びれない口調。 「で、何処を舐めて欲しいって? 此処か?」 「あっ…」 空いた手で突然突かれたのは、こいつを再度受け入れることを期待している最奥の。 「お前、此処を舐められるの好きだろう?」 「んッ…ん」 爪をたてられて感じたのは、苦痛ではなく脳天まで駆け上がるほどの快感。 「ローイ? どうする?」 「舐め…ろ」 「了解。自分でこっちに向けろよ。できるだろ?」 優し気な声で。柔らかく命令されて初めてこの行為を許容する自分の性癖は、もう何年も前にこいつに教え込まれたもの。 「ローイ」 宥めるように呼ばれて、ゆっくりと身体を起こす。そのまま反転して両手と膝をつき、尻を突き出して。屈辱的な恰好も、これからやってくる快感の為だと思えば、何の事はなかった。 「脚、開けよ」 言われて、ゆっくりと脚を開く。これで、ヒューズの目の前に、その場所はすっかり晒される。 「赤くなってるな」 「当たり前だ。お前がさっきまでイれてたんだろうが」 「ひくついてる」 見られている、と思うと、ひくりと喉が鳴った。 「いつまで見ている。もう珍しくもなんともないだろう」 「お前を見飽きるワケねえだろ」 「いいから早くっ」 くつくつと笑うヒューズに、余裕のなくなった声をあげれば、漸く大きな掌が太股に触れる。そのまま、ぐっと押し開かれて、待ち焦がれていた温かさが押し付けられて。 「ああ…っ」 「お前、此処を舐められるときだけは素直に声あげんのな」 「るさ…っ…んんっ…」 揶揄うような声とは裏腹に、ゆっくりと丁寧に舐め上げられて、すぐに熱が上がった。 「つッ…」 薄い皮膚を強く噛まれても、感じるのは苦痛ではなく。 「気持ちいいか?」 「ああ…ッ…、いいからっ…」 もっと、と強請れば、何度も歯がたてられて、吸い上げられる。敏感になり過ぎた皮膚を執拗に刺激されて、限界を越えたモノから濁液が洩れる。 「舐められてるだけでイっちまう?」 「ん…っ…」 入り口を指で強く押し開かれたまま、視線だけを注がれて。 「ヒューズっ」 「暫くは人前で裸になるなよ。随分痕つけちまった」 「ッ…」 言葉と同時に尻に強く噛みつかれて思わず息を呑んだ。また、何日も消えない痕が残った、と微かに思う。胸にも背中にも、そして下半身の至る所に、こいつのつけた朱い痕が散りばめられている事実。 「ひ…っ…やぁ」 不意に開かれた場所に熱い舌を感じて悲鳴を呑み込む。尖らせた舌先が直接差し入れられて中を抉る。 「ヒューズ…っ、やっ…」 「イイ、んだろ?」 くぐもった声が。 「ヒューズッ」 「イイって叫んで、腰を振って、そのままイってみろよ」 何よりも誰よりも、自分を甘やかしながら、取り込むように支配するこの男が。 「ヒューズ!」 「なぁ、ロイ」 穏やかな、柔らかい口調で命じる声に。 「ローイ」 甘く囁かれてしまえば。 お前が望む通りに。 それだけを願う自分を知っていた。 「起きてるか、ロイ」 「ん…。帰るのか?」 潰れそうな瞼を必死にあけようとすれば、目の前の気配が笑う。 「寝てろ。もうちょっと、お前が寝るまで、此処にいるから」 優しく髪を撫でる掌には、もうあの熱さはない。 「また、来るから」 「来るたびにこれでは身体が保たない」 「ああ、確かに、な」 苦笑するヒューズの表情を頭に浮かべて。 「悪かったな」 「思ってもないことを口にするな」 「…お前の棘は好きなんだけどな、ロイくん。たまには可愛いこと言ってくれても罰はあたらねえと思うんだがなぁ」 「ヒューズ。馬鹿なことを言ってないで、さっさと帰れ。眠い」 「ローイ」 呆れたような声を最後に、言葉は消えて、ただ、掌の柔らかな体温だけが残る。 誠実も不実も、嘘も真実もどうでもよかった。 ただ、燻る火だけは、消えることなど有り得ない。 声の余韻と体温を感じながら、思いはただそれだけ。 fin. |