嘘つきな君 / くろいぬ
【ハボロイ】【18禁】




『嘘つきな君に』


 気が狂いそう。
 何か事件が起こり、大量の書類を裁かなくちゃならなくなったとか、その返答をいついつまでに受け取らなきゃならないとか、たった今サインが必要な書類があるのに手間のかかる上司がサボリ癖を発揮して、どこかへ消えてしまっていたとか。
 その手の狂騒的な忙しさの真っ只中に、そう思うことはままあるケド。

「おい、ハボック」
「なんスか?」
 そう多いという訳でもない、この人を部屋に引っ張り込んで抱き締めるチャンスの、真っ最中のこの横柄な口振り。
 締め切ったカーテン、落とした部屋の灯り、熱源は互いの躯だけなのに汗ばんで。
 そんな時間に、我ながらごつい躯に押し潰されてる相手からの。
「こんな状況で気を遣うようなおまえじゃあるまいし。上の空で手を抜く気か?」
「気配りはしてるつもりですけどねえ」
 ゆったりと抽送を続けながら、頬や顎に唇を彷徨わせて。
 優しくしたい気持ちの時に限ってこの爆弾上司は。
「手緩いことを続ける気なら帰って寝るぞ。強請る言葉連発したくなるくらいに気持ち良くさせるか、さもなくば、何も考えられなくなるくらいに滅茶苦茶にしろ」
 突っ込まれて、充分充血した熱源を互いの腹の間に挟んでいるのは自分だというのに。
「気持ちヨクなってるでショ?」
「足りない」
 揺すりあげてやればその度に、シーツに押し付けられた背を精一杯反らして呻く癖に。
「まだまだ考え事が出来るレベルだ。抱いてる相手に他の人間のこと考えられたくなかったら、真面目にやれ」
 平気でそれをやる人が、そんなことを言う。
 セックスで汗だくになってる最中に他の誰かのことを考えて、その癖名前の呼び間違いは絶対しない、抜け目がなくて薄情な人が。


「そりゃご勘弁」

 
 両脚ともに胸に押し付け、逃れようのないように黒髪の頭を抱いて肩も掴んで。
 無理矢理みたいに捕まえて、早さも勢いも手加減しないで腰を動かしたから。
 喘ぎなんてものじゃなくて腹から出る苦痛の訴え。
「酷くされたいんだったら、最初から言ってくださいよ」
 耳孔に注ぎ込むように言ってやれば、吐息に耳朶を嬲られて躯を引き攣らせるから。
「今考えてんのは誰のことです?」
「おまえ、だ」
 ひとこと応えるのにも息を詰まらせ途切れ途切れ。
 そんな状態に追い込んでいるのに。
「極端、すぎっ……!」
 だって、優しくしてあげようと思っていたのに。

 誰のこと考えてるの?
 誰の名を呼びたいの?

 せめて、息苦しいくらいに優しくして、忘れさせてあげようと思ったのに。
 そんなんじゃ足りないってさ。




 
 オーダー通り、達しても抜いてもやらずに繰り返して、互いの躯の間で所在なげな主張をしていたこの人のものも、絞り出すように何度も達かせて。
 ああきっと、腫れあがって大変なことになる。
 脚だって、この人は明日筋肉痛だ。
 ふたりとも色んな所が精液まみれで、でもそんなの気にならないくらいに汗でシーツが湿って冷たくて。
 文字通りのどろどろなアイヨクの残滓の残る部屋で、漸く疲れ果てて眠るから。

「気が狂いそうなんスけど」

 閉じた目蓋に唇触れて囁いた。
 腕の中に掴まえてても、自分のものにはなってくれないつれない人に。
 せめて眠っている時だけは。
 この人に優しいキスが染み込んで行けばよいのにと、願いながら。






fin.