rule the world / くろいぬ-2
【ロイ】【16話ネタ】




『等価交換』


 等価交換。
 判り切ったルールを、初めて呪う。
「ヒューズ」
 共に歩んで来た、これからも人生を同じ方向に進むと信じた友の命が奪われて漸く。
 
 ゆっくり歩く喪服の人群れは、水をたっぷりと含んだスポンジのようだ。
 慎重に歩かねば、誰かひとりでも躓けばいとも簡単に含んだ水が溢れてしまうだろう。

「 ―――― いかん。雨が降って来たな」

 涙ではない。
 涙ではない。
 私は彼から涙など受け取っていない。
 涙など返してはいけない。

 彼から与えられたもの、共有したもの、未来に夢見たものの何と多いこと!
 それにしてもこの喪失感の大きさはどうだ。
 打ちのめされそうなこの喪失感は!
 出逢った頃に遡って記憶感情ココロが抉られ血を流す。

 出逢いと別れは決して等価交換ではない。

 別れて、奪われて、この悲痛な心を幾人もの人間が共有したところで分散される訳ではない。
 受け取ってもいない涙を彼に返す訳にも行かない。
 ではこの喪失感は悲痛はどこにやればよいのだろう。
 沸き上がる慟哭を抑える術など知らないのに。

「どういうことだ。世界は単純明快なルールで出来上がっているのではなかったのか」

 質量保存の法則。
 等価交換。
 全く性質の違うものは錬成出来ない。
 ゼロは1ではない。
 理解分解再構築。
 奪い、与え給う。
 この喪失感を説明するルールなどどこにも見付からない。

 大事なアルバムが目の前で1頁1頁破り取られて行くようだ。
 どうか奪わないでくれ、許してくれと叫んでも、びりびりと高い音を立て引き千切られた破片と笑い顔の記憶だけを残して、冷たい手に暴力的にさらわれて行く。

 それでも、彼に出逢えた人生を神に感謝せねばならないのだろうか。
 突然に必要なものが奪われる理不尽さを、誰に訴え、呪えばよいのか。

「雨なんて降って……」
「いや、雨だよ」





 明日になれば、雨も乾く。
 死者にだけ構っている訳にも行かない冷たい生者である私も、やがて喪失感に慣れて行く。
 それまでは。
 彼に与えられたもののひとつひとつを丁寧に思い出せるその日までは。

「何が等価交換だ。出逢いと別れはイコールではない。経過時間やその充実度を差し引いても、悲しみや悔しさや怒りの方が重いだろう。かけがえのないものを奪われたのだ!」

 世界を統べる冷酷な法則に唾吐き続ける。
 奪い、与え給う存在の冷酷を、呪う。

 私は、世界で一番愚かな錬金術師だ。




fin.