| サボタージュ2/ 白猫 |
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【ヒューロイ ハボ】【始めのころ】 『サボタージュ2』 「大佐? こんなところにいらっしゃったんですか」 息が白くなるような冷え込みのなか、午後の街を上司を探して駆け回っていたジャン・ハボックは、路地の奥の壁に寄り掛かる二人の軍人に気付いて立ち止まった。 「なんだ、ハボック。何かあったのか」 探し回われることに慣れている上司、ロイ・マスタングは、何ら悪びれることもなく、間の抜けた声を出す。 「何かってワケじゃないっすけど、中尉がだんだん機嫌悪くなってますよ。そろそろ戻った方が…」 ロイの隣に立つもう一人の士官に遠慮して、すぐに見つけて連れ帰って来い、と半ば命令されて探しに来たことは、取り敢えず口にしない。 「もう、そんな時間か」 「大佐のサイン待ちの書類、随分と溜ってたみたいっすからね。あと午後から会議もあったでしょ。大佐がいないから、延びてるみたいでしたよ」 「ああ。忘れてた」 「それ、中尉の前では言わないことをお薦めします」 緊張感のまるでない会話を交わす二人の隣で、素知らぬ振りでいたマース・ヒューズが、不意に口を開いた。 「ハボック少尉、だったな。なぁ、その会議、緊急ってモンじゃないんだろ?」 「ええ、まあ。そうだと思いますけど」 「じゃ、コイツが出なくてもなんとかなるな?」 「え、と、それは…」 「悪いな、坊や。少し真面目なハナシをしてるんだワ。もうちょっとこいつ、借りとかせてくれ」 普段飄々とした男の真面目な視線。威圧感などがあるわけでもないのに、従わざるを得なくて。それを取り敢えず階級の所為にして、ハボックは肩を竦めた。 「ヒューズ中佐。…ええ、まあ、いいっすけど。それでいいんスね、大佐?」 「ああ。悪いな、少尉。できるだけ早く戻るから、中尉にはうまく言っておいてくれ」 「判りました。あ、じゃあ、すいませんけど…」 一旦、引き返しかけたハボックが、コートを脱ぎながら、壁に凭れる二人に近付く。 「冷えてきましたんで。これだけ羽織っておいて下さい」 「要らん」 「風邪ひきますよ」 「別に構わん」 「あんたは構わなくても、こっちは構うんです。あんたが風邪ひいて困るのは、こっちなんスから。ほら、早くしないと時間取りたくないんでしょ」 仏頂面のまま、壁から身体を起こしたロイに、半ば無理矢理コートを着せかける。 「…デカい」 「文句言わない。ないよりマシでしょう。じゃ、ヒューズ中佐、すいませんけど、この馬鹿上司宜しくお願いします」 「おお。なるべく早く返すワ。悪いな」 小さく敬礼して、今度は振り向くことなく小走りに去って行く後ろ姿を見ながら、大きく息をつくロイの隣でヒューズがくつくつと笑う。 「お前さんの部署には不敬罪は存在しないのか?」 「煩い。お前のところも、似たようなものだろう。それにアレは特別だ」 「…お前のトクベツ?」 「なんだ、それは。特別な馬鹿だ、と言っているんだ」 「ああ、なるほどね。でもま、お前さんが、黙ってコート着せかけられてる程度には、トクベツなワケね」 「…ヒューズ? 何か言いたいことでもあるのか?」 「いんや、別にぃ。独り言だろ」 わざとらしく呟いたヒューズが、ロイに向けてそっと身を屈めた。嗅ぎ慣れない煙草のニオイの染み着いたコートに、ほんの僅かに眉を顰めて。 白い息が溶けあう。 fin. |