サボタージュ / 白猫
【ハボロイ】




『サボタージュ』


「みーっけた」

軍司令部の建物の裏手。年に2度程の大掃除のときにしか使われない掃除用具の詰まった物置きの陰。其処が『焔の錬金術師、ロイ・マスタング大佐』の数有る隠れ場所のひとつだった。



「なにが、みっけた、だ。気持ち悪い」
「探したんですよ。中尉が、大佐なら会議室にいる筈だとか言うもんだから、司令部中の会議室覗いてきちまいましたよ」
雨曝しで、すっかり汚れ切った物置きの壁に所在なく凭れる上官をみつけて、ほっと一息つきながら、ハボックが零した。
「会議室に行ってたさ。窓からハクロ将軍の公用車が見えなかったらな」
「おっさん、何しに来たんでしょうね。この間も、視察だとかなんだとかで、やってきたばかりだってのに」
「さあな。放っておけって言った…何をしている?」
さり気なく隣に並んだ部下が、胸ポケットから煙草のパッケージを取り出すのを見て、ロイが顔を顰めた。
「一服させて下さいよ。せっかくこんな所まで探しにきたんですから」
「そんなのはお前の勝手だろう」
そのまま、煙草を取り上げると、ハボックの胸ポケットに返す。
「私は此処にはいなかった。大佐はまだ行方不明です、さっさと戻って、中尉に伝えろ」
「御冗談を。中尉にウソがばれたら、どんな目にあわされるか。まだ死にたくないですよ」
おおげさに首を振ったハボックに、ロイがにやりと笑う。
「お前にも苦手なものがあるのは、楽しいな」
「なんですか、ソレ」
「将軍をおっさん呼ばわりするような奴が、唯一頭が上がらないものが、たった一人の女性なんだからな。おかしいのも当然だろう?」
「中尉にアタマが上がらないのは、何も俺だけじゃないですよ。大佐だって、そうでしょ」
「私は彼女のことは、常に有能で忠実な、大切な部下だと思っているが?」
「俺よりもですか?」
「当然だ」
「まあ、いいっすけどね」
肩を竦めたハボックを気にとめることなく、軽く伸びをしたロイが、凭れていた壁から身体を起こした。
「行くぞ」
「何処にですか?」
「馬鹿か、お前は。お前が呼びに来たんだろう」
「そうなんスけどね」
ほんの少し、困ったような顔で頭を掻くハボック。
「もう少しだけならいいかなって」
「なにがだ」
「煙草、吸い損なっちまいましたし」
「吸いたけりゃ勝手に…」
そのまま、離れていこうとしたロイの手を捕らえて。
「同じ吸うなら、こっちがいいです」
「今は仕事中だ」
「サボってる、の間違いじゃないですか?」
ゆっくりと近付く唇が、小さな溜息の上に、重なった。


軽く触れあった唇が、段々と深く交わっていく。
舌を絡めて吸い上げて。
どちらが与えるでも、与えられるでもない、対等な接吻けを。


「もう終わりだ。戻る」
不意に離れていく身体に、ハボックが囁く。
「熱、持っちまいましたよ」
「何処かで冷まして来るんだな」
「大佐は?」
「お前のキスくらいで私が熱を持つとでも?」
「つれないっすね」
「生憎だったな」
くるりと踵を返したロイの背中に、ふと思い出したようにハボックが声をかけた。
「そういえば、セントラルからヒューズ中佐が来るそうですよ」
一瞬、足を止めるロイに気付かぬふりで。
「明日の午後にはこちらに着くそうです」
「そうか」
再度、歩き出すロイの背中に、もう一度声をかける。
「大佐。今晩、伺ってもよろしいですか?」
「…勝手にしろ」
「どうも」


歩き去るロイから視線を外したハボックが、もう一度ポケットから出した煙草を銜える。



ほんの少しだけ

slow down




fin.