律動 / くろいぬ
【ヒューロイ】【18禁】





『律動』


 暗い部屋に一瞬ドアから洩れた光が広がり、消えた。
 シャワーを浴びたヒューズが、湿り気を残した躯をベッドに潜り込ませるので腕を回す。
「ん」
 鼓動を掌で感じるだけでは物足りなくなり、胸の上に頭を乗せた。
 ヒューズは僅かに首をもたげ、私の顔を伺おうとしたようだったが、すぐに枕に頭が落ちる乾いた音がした。
「おやすみ」
 私は彼の低い囁き声が好きだ。
 胸から直接聞き取る響きが。
 暫く鼓動を聞き続けると、やがて彼は大きく息を吸い込んだ。
 腹筋がひくりと動くのを、載せていた手で感じ取る。
 毛布に鼻先を突っ込んでいた私は、洗い立ての清潔な香りと共に立ち上る体温を満足した気分で嗅ぎ続けた。
 ヒューズはまた、深い呼吸をした。
 さほど体重を掛けぬようにはしているが、成人の頭部が胸の上に乗っているのだ、圧迫感があるのだろう。
 いつの間にやら私の髪を、ごつい指が撫でている。
 猫をあやしているかのようだ。
 その間も彼の心臓は規則正しく鼓動を打ち続ける。
 律動的に続く鼓動と永遠に続くかのような血流の音。
 心地よい温もりと心地よい雑音。
「あぁ……」
 酷く居心地がよく、眠りの誘いに身を任せるよりも、このまま蕩っている方が魅力的だ。
 溜息を付きながら滑らかな腹に掌を滑らせると、髪を撫でていたヒューズの指の動きが止まった。
 替わりに私が腕を動かす。
 腹筋の筋に沿い、熱と脈動を生み出す場所まで。
 途端、耳を押し付けていた胸の鼓動が、リズムを早める。
「明日早いんじゃねえの? 久し振りだからいーケド」
 気分よく蕩けていたのに、勘違いをした男がニヤけ切った声で言った。
 現金な彼の雄はあっと言う間に硬度を取り戻している。

 別に全然そんなつもりはない。
 先刻充分付き合ってやっただろ。

 口に出すのも面倒で、ヒューズの厚い胸に頭を載せたまま、指先で雄を弄び続ける。
 鼓動に合わせて振ってやれば、益々厚かましく体積を増した。
「オイ」
 早鐘を耳から頬から、それと同じリズムを掌から。
 掴むように指をきつく回せば、最早はち切れそうな。
「…………ロイ? おーい、ロイ?」
「だからもう眠いと言って」
「おまえな、その気にさせといてこの状態で放置ってのは!」
 おまえが勝手にその気になっただけだ。
 言葉が途中であくびに紛れ。
「ローイ!?」
 夜遅くに寝室で出すには余りに情けなさ過ぎる男の声に、つい頬が緩みそうになるのを隠そうと枕に懐いた。
 先程の甘やかすような声での『おやすみ』は、一体どこへ消え果てたのだ。
 まるで子供のように、頬を突いたり肩を揺すったり。
 笑いを堪えるのも限界で、諦めてぱたりと躯を俯せた。
「ロ……」
「勝手にしろよ、私は寝るから」
 枕に埋めた顔からちらと、片目の視線を投げてやれば。
「面白がってんのか?」
 ぐいと顔を近付ける。
「文字通りに勝手にするぞ?」
 低い低い囁きの、恫喝。

 見せ付けるつもりで俯せた背に、ヒューズはすぐに覆い被さり躯を合わせた。
 数十分前に散々解された躯は、すぐにヒューズの指を、雄を受け入れた。
 薄い粘膜を押し広げる熱の固まりからまた脈動が始まり、全身に行き渡る。
 繋がる場所から、背に触れる胸から、首筋に掛かる吐息から、彼の鼓動を感じ取る。
「 ―――― っ!」
 高く引き上げられた腰に打ち付ける熱は、それもすべて、彼と私の脈動。
「……ハァッ、ハァッ」
 規則的に続く、いつまでも。

 いつまでも。
 合わせた膚から感じ取り染み込み混じり合う、続く律動を。
 私は祈りに似た想いで望んだ。




fin.