玩具 / くろいぬ
【ブラロイ】【ハボック】【18禁】

※少し暴力的な描写を含めた、貶め辱め系のお話です。
 ライトなぷれいという程度のものですが、18歳未満の方とソッチ系が苦手な方はお避け下さい。

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『玩具』


『君の身辺警護に腹心をひとり、連れて来なさい。焔の錬金術師の眼鏡に叶う程に肝が据わり、腕っ節も強く、忠誠心の厚い者を』
 大総統からの直通電話にロイ・マスタングは無意識に司令部室内に目を遣り、金髪の女性士官と目を合わせた。
『聡くて口が堅く、秘密を守れる者がよいだろう。……ああ、女性は避けた方がよかろう。君はともかく、女性の方が可哀相だ』
 声に滲む愉悦を感じ取り、ロイは背に悪寒が走るのを感じた。
 ホークアイから逸らした目線が、もうひとりの金髪の士官の青い眼に捉えられた。
『楽しみに待っているよ』
 通話が切れたことを確認してから、ロイは受話器を電話に叩き付けた。



 大総統府の最奥に、キング・ブラッドレイ大総統のプライベートスペースに近い部屋が存在した。
 幾重にも重なる分厚いカーテン、足首まで埋まる絨毯、蜜のように濃厚な光沢を持つ調度が、今は最低限の灯りにぼんやりと、陰翳だけを強調していた。
 扉の閉まる音と気配までも吸収するような深い絨毯の感触に、ハボックは僅かに気後れのようなものを感じた。
 三歩分離れた距離で敬礼をする上司の後ろ姿が、伸びた背筋にも関わらず普段よりも小柄に見える。
『何があっても服従の姿勢を崩すな。奴に逆らうことは私が許さん。今はまだ早い』
 大総統府に足を踏み入れる前のロイ・マスタングの言葉が蘇った。
『今はまだ、早いのだ。我々はただの軍の狗だ。抵抗の素振りも見せるな』
 言い聞かせるように繰り返した、その時のロイの表情に浮かび見えたのは自嘲だったようにハボックには思えた。

「ロイ・マスタング、ジャン・ハボック、参りました」
 薄暗い部屋の中央のソファにブラッドレイは躯を沈み込ませ、笑みを浮かべた。
「マスタング、焔の錬金術師。呼び立てて済まなかったな」
 ブラッドレイは軽く掌を上げてロイを差し招き、ハボックは扉の前に取り残される。
 手の届かない場所にロイが離れて行くことに、ハボックは焦慮を感じた。
「私の警護を部屋に招き入れておいて、閣下ご自身は身辺警護のひとりもおつけにならないとは。些か不用心ではございませんか?」
「よいのだ」
 ロイの肩越しにブラッドレイの隻眼が光るのが見える。
「よいのだ。今日は忠誠心を確かめる為に呼んだのだから」
 眼帯の下の年かさを重ねたしぶとい皮膚に、笑み皺が寄った。
「早速だがマスタング。ここに来てベルトを外せ」

 ハボックは茫然と立ち尽くしていた。
 ブラッドレイの言葉を聞いた瞬間、頭に血が上りロイの前に飛び出そうとしたが、素早く振り向いたロイに無言で牽制された。
『今はまだ、早い』
 躯の隅々にまで、怒りが行き渡る。
 例えば小さな合図のひとつもあれば、ハボックは自分の首が掻き切られても、ブラッドレイとロイの間に立ちふさがったろう。
 自分ごとロイがブラッドレイを焼き殺すというならば、本望だ。
 その望みをロイ本人に眼で拒絶され、憤りに躯が震え出しそうだった。

「ハボック少尉、そこで待ってい給え」
 
 ロイはハボックからブラッドレイへと向き直り様に、婉然と笑みを浮かべた。
 女性的な部分などひとかけらもない筈のロイの容貌に、途端に艶が刷かれる瞬間をハボックは目の当たりにし、身動きが出来なくなった。
 不遜な目つきは蠱惑を、微かに端を上げた唇は挑発を。
 戦闘に培われた身のこなしでしなやかに歩み、ブラッドレイの傍らに進む。
 堪え切れないようにブラッドレイの浮かべた笑みは、ロイに向けられたものだったのか、茫然と立つハボックへのものだったのか。
 
 ベルトに手を伸ばしながら脚の間に跪こうとするロイを、ブラッドレイは片手で制止した。
「私の、ではない。君のだ」
「イエス、サー」
 ロイは頷き、自分のベルトのバックルに手をかけた。
「靴は?」
「履いたままでいなさい」
 ハボックが無意識に噛み締めた歯が、軋む音を立てた。
 歯軋りが届いたか、ブラッドレイはハボックに目線を向けてロイに声をかける。
「服は下ろさなくてよろしい。ここへ」
 ブラッドレイの隣を指さされ、ロイはソファに腰掛けようとした。
「!」
 ぐいと、ブラッドレイはロイの腕を引いた。
 ロイは驚きも表さずに従い、ブラッドレイの膝に俯せに倒れ込む。
「さあ、これからが忠誠心のテストだ」



 ソファは深く柔らかにブラッドレイとロイを沈め、捉え込んだ。
 ロイの突いた肘も半ばまで埋まり、乱れた黒髪だけがかろく、鞣した革の上に散る。
 ブラッドレイの手がかかるのを予測し、ロイは腰を浮かせた。
 男の膝の上で腰を高く持ち上げながら、首を捻ってハボックに薄い笑みを見せ付ける。
『今はまだ。逆らう素振りすら見せるな』
 ロイの真摯な声を脳裏にこだまさせながら、ハボックは彼の淫靡な姿勢と笑みに、下腹を熱くさせた。
 熱く重たい血が下半身に集まる。
 頭が痺れそうだ。
 血の気の引いたハボックの顔を確かめてから、ロイはもう一度艶然と微笑んだ。
 こんなことは大したことではないのだ、ただの戯れに過ぎないのだから。
 今の私は単なる玩具だ。
 余裕の笑みを浮かべて従順に目蓋を閉ざし、下を向いてソファに顔を埋めた。

「マスタング」
 ブラッドレイの声に、ロイの黒髪が揺れた。
 ロイの顔を覗き込むように、ブラッドレイは優しく言った。
「随分と大人しげだな。今日は牙を剥かんのかね? いつものあの眼はどうしたのだね?」
 言いながら、ロイの腰を覆う軍服のスカート部分を捲り上げる。
 ブラッドレイは剥き出しになった腰の、ボトムのウェストに手をかけた。
 ひゅっ。
 息を飲んだのは、ハボックだったのか、ロイだったのか。
 ブラッドレイは気にした様子もなくボトムを一気に引き下げ、ロイの臀を露わにした。
「どうしたのだ、今日はあの、私の愛する、反抗的な眼を見せないつもりか? 殺意を隠そうとして隠し切れないあの眼を、見せてくれないつもりかね?」
 ロイに咥えさせて唾液を絡めた指を、ブラッドレイは白い臀の間に這わせる。
「くっ」
 指が肉の間に差し込まれ、ロイの腿が強張った。
 ごつく節くれ立った男の指が、高く持ち上げられた臀に飲み込まれて行くのを、ハボックは目の当たりにした。
 指が内部で蠢いている様が、手の甲に浮いた筋や手首の角度から手に取るように判る。
「……っ!」
 軍靴に包まれたロイの爪先が反った。
「マスタング」
「んっ」
「抵抗も出来ぬだろうな、あの者の前では。おまえが刃向かう素振りのひとつでも見せようものなら、あの男は私に飛びかかって来るのだろうな」
 ブラッドレイが濡れた指を引き抜くと、ロイは脚を震わせてその動きを追おうとした。
 抑え切れぬ動きに、ブラッドレイは眼を細める。
「ふ、あッ。くっ」
 急に行き来を開始した指にロイが呼吸を乱した。
 熱く濡れた喉から漏れる息は、苦しげに愉悦を訴える。
「おまえはそこでのたうつことしか出来ない。今あの者が逆らえば、あっと言う間に命を落とすことが判り切っているからな。力の差を、おまえは思い知っている」
「ん、んっ」
 優しげな声と忙しない吐息が交互に続く。

 ハボックは暗い部屋に白い臀がそこだけ別の生き物のように蠢く様を見た。
 愛しささえ滲ませて、ブラッドレイはロイに侮蔑の言葉を囁き続けた。
 指と言葉に翻弄されて、その度敏感に腰を揺らめかせる、ロイの姿を見た。
 頭は冷え切った血液に冴えながら、躯の中心の熱が抑えようもなく高まる。
 硬度が高まるだけ高まったものが、ハボックの下着を摩擦しながら持ち上がり、血流を主張した。
 ブラッドレイはそれに気付き、殊更のように声を潜めた。
「あの者の名は、何と言った?」
「……?」
 ロイは首を捩り、ブラッドレイの声を聞き取ろうとした。
「あの者の名だ。おまえの口から聞きたい。焔の錬金術師に尽くし従う忠義者の名を、おまえの口から聞いて覚えておきたいのだ。マスタングよ」
「あッ、はぁっ!」
 指が体内からロイの腺をなぞった。

「彼の名は?」
「ハ、ボック」
「聞き取れない」
「かれ、は、ジャン、ハボ……ク、んうっ」
「もう一度」
「ア、ア、ア! ハ、ボック、ジャン、ハボック」
「繰り返しなさい。彼の名を覚えて置きたいのだ、私が」
 指が執拗に腺を刺激する。
「ハ、ボック、ハボック、……ハボ、ク!」

『ハボック!』

 ロイの叫びにハボックは全身を強張らせた。
 立ち止まり、自分が一歩踏み出そうとしていたことに気付いた。
 猛りを躯の前にぶら下げたまま、ブラッドレイに飛びかかるところだったのだ。
 動物の雄であるかのように。
 自分のものである筈の獲物を、旨そうに喰らう敵を排除しようとする獣のように。
 己の牙の小ささも忘れて。
 敵の大きさを顧みずに反対に食い殺される、愚かな衝動に突き動かされて。

「ハボック。彼の名は、ジャン・ハボック。下からの信頼厚く格闘にも優れた、優秀な部下です」
 ロイは穏やかに言い、ハボックに顔を向けた。
 肉の悦楽も露わな陶然とした瞳、上気し濡れた唇を見せ付け、喉を仰け反らせる。
 指はいつの間にかに本数を増やし、体内で複雑に蠢きロイを責め立てている。
 ブラッドレイの与える愉悦を従順に受け取ったロイの吐息に隠しようのない悦びが混じり、その艶はハボックの耳から染み込み全身を総毛立たせた。
「優秀な? 軍の狗?」
「その通りです、閣下」
 本能の命じるままに腰を振るロイの姿を、ブラッドレイとハボックは、それぞれ異なる色合いの眼で見つめた。



「つまらぬ」
 
 唐突にブラッドレイは指を引き抜き、快楽を追いきれなかったロイが喉から物欲しげな呻きを洩らした。
「よく躾ておる。マスタング、部下の躾は誉めてやろう」
 脱力しかけた躯を上から押され、ロイはブラッドレイの膝の上に倒れ込んだ。
「閣下……?」
「よい狩猟犬は主人の『行け』の合図が出るまでは、瞬発力を全身の筋肉に秘めたまま我慢するものだ。獲物に向かって飛びかかろうと、主人の合図を今か今かと待ち続ける」
 ひたり。
 冷たい掌がロイの臀に触れた。
 咄嗟に身を捩ったロイは、冷ややかに見下ろす隻眼を見た。
「だが、肝心のおまえが狗になりきれていない。『隙あらば』という気持ちを隠しおおせていないから、危うく大切な飼い犬が迷ってしまうところではなかったのかね?」
 ブラッドレイはゆっくりと腕振り上げ、直後に空気が唸った。
「ぐっ!?」
 肉を打つ音が室内に反響した。
「それともやはり、飼い犬に舐められているのか? 犬が飼い主のモノであるのではなく、飼い主を犬のモノと勘違いをさせているのでは?」
「う、あ!」
 破裂音にも似た音が、ロイの臀と分厚い掌の間で続いた。

「喰らいつくならば機会を慎重に見定めなければな」
「おまえが上っているつもりの階と、私との間にどれ程の距離があると?」
「マスタング、私をいつまで待たせる気かね?」

 薄く柔らかな膚は打たれてすぐに赤く染まった。
 分厚く大きな掌の、指の形が白い膚の上に重なり内腿までも侵食して行く。
 冷たい空気に晒されて、剥き出しの臀から腿にかけての腫れだけが赤く熱く熱を持つ。
「ひぁっ、ああっ!」
 肉を打つ音は続いた。
 幼児の仕置きのように躯を抱え上げられ、臀部を剥き出しにされ。
 部下の目の前での仕打ちに、ロイは羞恥で眼を瞑った。
 臀を打ち続ける掌と腫れあがった肉の痛みだけに没頭し、全てを忘れた。

「あぅ! 閣下、もう……、あ、やぁっ……!」



 ハボックはロイの嬌態を見た。
 打たれて上げる苦痛の叫びを聞いた。
 腕を振り上げ続ける男を見た。
『今はまだ、早いのだ』
 ロイの言葉の意味する距離を思い知った。
 なんと遠くへだたれた距離。
 そこから更に遠くに置き去りにされた自分。
 悔しかった。
 何もすることが出来ぬまま、熱だけを滾らせる自分が不甲斐なかった。



『今はまだ ―――― 』
 三人三様の重みで、その言葉だけが。
 いつまでも心の奥に留まっていた。








fin.