お気に入り2 / 白猫
【ハボロイ】【黒猫物語?】『楽園』『お気に入り』の続き【Illustration by amane】





『お気に入り2』






これは反則だ、とハボックは思った。
愛しい上司の部屋で、ただ二人きり。楽しい会話と美味しい食事。熱いシャワーと程良いアルコール。
目元を朱く染めた恋人が、思わせぶりな視線を投げてから寝室に消えたとなれば、若い熱が一気に上昇するのは当然で。
あまり、がっつく様を見せるのもマズイかと、リビングのテーブルに残されたグラスをキッチンに運ぶ余裕を見せてから、期待に胸膨らませて追ってみれば、柔らかいベッドに先に潜り込んだ恋人のしあわせな……寝息。
「冗談でしょ?」
寝付きの良さは折り紙付きだということくらい知ってはいるが。
「そりゃ、あんまりっすよ、大佐」
しかも。
その腕に抱かれているのは自分ではなく一匹のぬいぐるみ。
真っ黒い艶やかな毛並みのソレは、先日、セントラルから東方司令部マスタング大佐宛に届いたものだった。他人を余り寄せつけない人の、自他共に認める『親友』から送られて来た大きな黒猫は、もうすっかりこの人のお気に入りで。おんなじカオをして、すーすーと眠るふたりに、思わず深い溜息が洩れた。
「オイ、猫。そこは俺の場所なんだけど」
そっと手を伸ばして、ロイの手をソレから外そうとしてみれば、それまで何気なく添えられていただけに見えた手が、ぎゅっと握られてソレを奪われまいとする。
「大佐? 起きてます?」
不審に思って、そっと問いかけてみても、返されるのは、しあわせそうな寝息のみ。
(寝てるってことは無意識っつーことなんだよなあ)
無意識にでも、握りしめてしまう程に、コレが気に入ってるということなんだろうか。
「なんとなく、嬉しくないんスけど」
今度は、もうちょっと力を込めて、黒猫の前足を引っ張る。と、ますます強く握りしめられる黒猫。
「てめっ」
力を込めているのは、ロイの方だということくらい勿論判っているものの、なんとなく、黒猫の方がロイを離さないように見えて、思わず真剣に引っ張ろうとした途端。
「や……」
薄く開いた唇から、小さく洩れた吐息混じりの声に、腰が砕けた。

「あんたねぇ」
ベッドの脇にへたり込んだまま、朱くなった顔を大きな掌で覆う。
「そーゆー声は、そーゆー時に出して下さいよ」
お気に入りの縫いぐるみを取られそうな時、ではなく。
「まいったなあ」
ベッドの上に顎だけ乗せて、恋しい人の寝顔を見つめて。その、あまりにも、しあわせそうな様子に、再度の溜息。
(…まあ、いいか)
別に、黒猫の一匹や二匹。青いリボンのそれは、大切な人にそっくりだから。
(これが、顎髭生やして眼鏡かけた猫だったりしたら絶対許さねーけど)
そんな有り得ないことを、つい呟きたくなる程には、やきもちもやきながら。
「はいはい、愛の褥にお邪魔しますよー。すいませんねー」
毛布を持ち上げて、もぞもぞと隣に入り込んでみれば、今迄黒猫に回されていた手が、そのままのびてきてハボックの頭を抱える。
「大佐?」
どきんと心臓が鳴った次の瞬間。
くしゃ。
髪を掻き回されて、そしてそのまま頭を、ぽんぽんと二回叩かれて。
「……俺も縫いぐるみと同じ扱いっスか」
欲張りな腕が、黒猫と自分を同時に抱え込むのに気付いて大きく3度目の溜息。


「いいっスけどね。明日、文句言わんで下さいよ」
そして、黒猫の反対側から、猫とロイを抱き込んで。何とも妙な三つ巴のままゆっくりと目を閉じる。

「おやすみなさい。大佐」
「ん……」

黒猫とロイが同時に返事をする姿を思い浮かべて小さく笑いながら、ゆっくりと睡魔に身を任せて。



今夜の夢は、黒猫に守られた眠り姫の夢…。



Illustration by amane
Special Thanks!


fin.