喪服 / 白猫
【ヒューロイ】 多少、そのテの描写があります




『喪服』


なんていい天気なのだろう。

透き通るような蒼い空を渡る鳥。
爽やかな空気。
柔らかい風。
そして。
黒。


(どうしてパパ埋めちゃうの?)
小さな小さな喪服の黒。
小さな声は、静まり返った平野を奔る。

お前は、こんなものを、見せつけて逝くのか。

(おしごとできなくなっちゃうよ)
お前が愛したものは、まだ、こんなにも幼い。
お前を殺したものが、何なのか、知るにはまだ年月が必要で。
いつか、私に会いにくることもあるのだろうか。
お前が最後に言葉を残そうとした上官として。




「帰らなくてもいいのか」
「あ…ん? なんのことだ」
司令部に与えられた個室の奥の簡易ベッド。いざ、不測の事態ともなれば、誰が飛び込んできてもおかしくない場所で、コイツはいつでも私を抱く。

(ンなこと気にしてんのか? 焔の錬金術師サンは)
(お前の場合、表沙汰になったら困るだろう。なぁ、『愛妻家』?)
(お前はどうなんだ、『マスタング大佐』)
(私に今更一つや二つ醜聞が増えたところで、気にする者など此処にはいないが?)
(まあな。此処にも一体何人連れ込んだことやら)

「くぅッ…おいっ」
「俺とヤってるときくらい、俺のことを考えるのが礼儀だろ?」
大きく広げられた足の間から覗く悪戯な目。
「お前が、他のことを考えていられるようなセックスしかしていないんだろう?」
「くそっ、相変わらず可愛くねえよなあ」
張り詰めたものに舌を這わせながら苦笑する奴。
「今夜の汽車で戻る筈だっただろう」
「つまらん仕事ばかり増やしてくれんのは、お前らだろが」
「これもつまらん仕事のひとつか?」
「ん? これは別だろ。愛よ、愛」
「馬鹿か、お前は。くだらんことを言ってないで、さっさと済ませろ」
「なんでわかってくれないかねぇ」
わざとらしい溜息。
「お前な。あれだけ妻子自慢してる奴の台詞か、それが」
「あ、そりゃ仕方ねえだろ。だって自慢なんだからよ」
嬉しそうに笑って。
「娘は可愛いぞお。おまえさんも、早く嫁さんもらえ。無理なら子供だけでも作っとけ。子供はいいぞ。なんたって、生きていこうって気にさせてくれっからな」
「…これまでは思ってなかったのか?」
「さぁな。まあ、とりあえず、妻も娘もお前も残して死んだりしねえから、心配しなさんな」
「誰が心配なんか、っ! あッ…っう」
「ちゃんと愛してっから」



『心配しなさんな』



「嘘つきめ」
「大佐? どうなさいました?」
「いや。なんでもない。未亡人は?」
「先程、少佐と一緒に、車で戻られましたが」
「そうか」
「嫌なもんですね」
「なんだ、少尉」
「あんなに小さな喪服は見たくないです」
「せめて、小さな棺は見ずに済むよう、精々働いてくれ」
「…大佐」




いつか、私がただの上官ではなかったと知ったら。

 (おしごとできなくなっちゃうよ)

私を恨むことになるのだろうか。



小さな喪服の黒が焼付いて。



fin.