| 魔法 / くろいぬ |
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【ヒューロイ】【18禁】 『Magic fire music』 『イシュヴァールの生き残りであるあの男の復讐には正当性がある』 即座に「くだらねえ」と返した少年の強さを、我々は羨望し、憐れむ。 少年はあの狂気の沙汰を知らない。 日常に於いては休日に庭の手入れをするのが無上の喜びだという優しく平凡な父親が、あの場では銃を取り、流血に酔って女を犯した。 イシュヴァール人の生首を掲げた男が、甲高い笑い声をあげながら涙を流すのを見た。 躯を半分吹き飛ばされた僚友に、殺してくれと懇願され、頼みをきいたこともある。 何もかもが壊れて行く恐怖。 自分がそれに飲み込まれるのに必死で抗いつつも、血臭や絶叫や瀕死の喘鳴に麻痺して行った、あの日々、あの場所を、少年は知らない。 誰もが蓋をしたいと願う記憶は、だが我々を本当に解放することは恐らく、ないだろう。 掌を眺めた。 多くの焔を生み出した指先を見た。 錬成陣の描かれた手袋に護られる、手の甲を見た。 「おい、ロイ」 節くれ立ってもおらず、陽にも灼けていない。 今では自ら先陣を切って戦いの場に出ることも少ない。 「ロイ」 この手よりも、収集した情報を活用する為の脳味噌や、無用なぶつかり合いを避ける為の二枚舌や、本心を隠した笑みの方が、活躍の場が多い。 それでもこの手は、かつて多くのものをなぎ払い焔の内に燻る煙や灰を生み出した。 「ロイ・マスタング!」 グラスに伸ばした腕をヒューズに強く掴まれた。 「ああ、何だ?」 「何だじゃねえよ」 セントラルからやって来た客人を前に、自分の掌ばかりを見ていたのだ。 呆れ顔をされるのもしょうがない。 ヒューズは掴む腕はそのままに、小さく溜息をついて唇の端を歪めて見せた。 「手袋を填めろよ」 笑わぬ目に見つめられる。 たまにあるのだ、彼にそれを求められることは。 「俺達にはあれを忘れることは許されない。先に逝った奴らの分も、狂気の中で踊り続けるしかねえ。さあ、手袋を填めろ、ロイ・マスタング。焔を操る錬金術師。俺達は俺達の罪をとっくりと眺め続けよう」 理性の箍は既にアルコールにより緩められていた。 昼間見た赤い瞳の男の顔、何年も前に焼き尽くした大地が、フラッシュバックのように脳裏に浮かぶ。 「そうだな。忘れたりはしない。自分のしたことから目を背けることなど、誰にも出来はしない」 緋色の錬成陣の描かれた、ましろな手袋。 罪の象徴に両手を戒められるようだ。 「よく似合ってる、ロイ。俺達は焔を忘れちゃならない。俺達が忘れてしまっては、何もならない。お前は焔を生み出し続けるしかない」 白いシーツの上を、発火布の手袋に包まれた指が這い、探り、掴んだ。 手袋以外の衣類は全て、背にのし掛かる男にはぎ取られていた。 裸身を絡めてのたうちながら、ふたり揃って、シーツを鷲掴む手袋を見る。 真新しいシーツは皺くちゃで、今もふたり分の膝に乱れた折り目をプレスされ続けている。 汗ばむ額や頬を擦り付けられ、滲む体液を吸い込み続ける。 可哀相なシーツ。 この男の為に新品を下ろす必要などなかったのだ。 馴染んでこなれたシーツの方が余程よかった。 「……あッ」 腰骨を強く掴まれ、これ以上ないほど奥まで穿たれる。 躯の中心。 抉られ、捻じ込まれ、掻き回され。 繋がる部分が引き裂けるのではいかと思うまでに、ヒューズの怒張を突き込まれる。 「あッ、あ、あッ」 貫かれる感覚に陶酔し、自分の雄が張り詰めるのを自覚する。 シーツに顔を強く押し付け、極端に狭まる視界の片隅に。 円陣の中心に囚われた緋色の火蜥蜴。 「ヒュー、ズ、きっつ……!」 「まだだ」 ぐいと躯を引き起こされて息を呑む。 「つぅッ、うっ」 「おまえ、深く挿れられんの、好きだろ」 仰向いたヒューズの腰の上で、両方の二の腕を背後から掴まれて、上体が反る。 「離せ……っ」 ぺたりと男の躯の上に座り込み、自重で更にきつく繋がる接点の痛みに呻いた。 躯を支える為に腕を前に突きたかった。 ヒューズの腿の上に腕を突けば、余裕を見せながら腰を振ることだって出来たのに。 仰け反る喉からは掠れ声しか出て来ない。 「痛ぅ」 なのに躯の芯は堅く勃ち、鼓動や、繋がる部分やこめかみの痛みと同期してひくつくのだ。 「ロイ」 ヒューズは腕から離した両手で腰を掴んだ。 指の跡が残るのじゃないかと思うほど強く掴み、下から突き上げた。 苦と快の入り交じった短い悲鳴が、上向く喉から勝手に漏れた。 自由になった両腕で、自らの躯を抱き、顔を覆った。 ヒューズより先に果ててしまいそうだった。 目蓋を上げれば白い手袋。 眼窩に、額に、頬に。 腕に、脇に、腹に触れてざらつく感触を膚に残す。 「アッ……!」 両腕を躯から離した。 何かを差し招く形に腕を伸ばし、上向けた掌を宙に浮かべた。 発火布の指先どうしが触れ合い、小さな静電気が起きる。 ぱち、ひゅうっ。 オレンジ色の小さな焔が、暗い部屋に後を曳いた。 幾つもの焔が、躯の回りを飛び、素肌の上を這う。 右腕の先から飛んだ火花のうちの幾つかが、手首をぐるりと巡り、長い尾を持つ蜥蜴を象る。 焔の蜥蜴は螺旋を描き二の腕に昇り、肩胛骨の辺りで行く先を変え背中を好きに走り回った。 右腕から左腕へ渡り指先から宙に消える蜥蜴もいた。 左手の先から舞い飛んだ火花もあった。 痙攣のように指先は静電気を生み続け、火花は次々と飛んだ。 私は目の前を横切っては消える火花を、ヒューズは私の背を走り回る火蜥蜴を眺めた。 「すげえな」 私も彼も、目の前の焔と過去の焔を同時に想い、なおも快楽を貪った。 「そうだ。俺達はまだ踊り続けなくちゃならない。あの狂気の沙汰の真っ只中にい続けなくちゃ。焔の宴は終わっちゃいない」 陶酔に半分目を瞑りながら火花を眺めていると、後ろからやはりうっとりとした響きのヒューズの声が聞こえて来た。 私は頷き、はじけては消えるオレンジの焔を、眺め続けた。 fin. |