| 休息 / くろいぬ |
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【ヒューロイ】 『休息』 寝返りを打ちかけて、不意に意識を覚醒させた。 これ以上毛布を引っ張ってはいけない。 毛布を奪えば隣に眠る男が躯を冷やしてしまう。 目蓋を開ければ鼻先数インチに見慣れた寮の壁紙。 恐る恐る振り返って見ると、背後には窮屈そうに眠る男。 寮の寝台は質素なアイアン製、硬いマットレスに、糊の利き過ぎたシーツ。 寝苦しい晩には壁や床に接吻する羽目になることもある、そんな狭っ苦しさの寝台で、隣の男は行儀良く「気を付け」の姿勢で寝ていた。 『そんなことなら自分のベッドに行けよ』 ひとり呟こうか話しかけて起こそうかと逡巡し(いや、殆ど迷うことなどなかったが)、黙って身を擦り寄せることにした。 薄い毛布が奴の躯を覆っていることを確認し、暖かな腕に身を寄せ肩口に唇を付けるように顔を伏せる。 『ヤってすっきりしたら、さっさと自分の陣地に戻れよ。アツクルシイ』 毛布の隙間に籠もる柔らかな温もりを吸い込み、また奴に躯を擦り付けた。 酷く眠たかった。 暖かさが躯に浸透して行き手足の先まで広がり、重たくて指一本も動かせなくなる。 奴の肩に付けた唇を、接吻けの形に動かした。 奴は眠りの世界に全身浸かったまま、「ああ」とも「うう」とも判別付かない声を漏らし、緩慢に腕を動かし私の背を撫でた。 背筋に添って何度か。 肩口まで指を這い進め、髪に指を埋める。 「おやすみ」 欠伸と区別の付かないような不鮮明さで呟くと、奴は再び深い眠りに落ちて行った。 腕の重みが躯の上にのし掛かり、身動き出来ずにまるで腕に閉じこめられるようだった。 奴の指だけが幼子にするように間欠的に髪をまさぐり動いた。 私の躯に添って作られた私だけの暖かな牢獄で、静かに奴の香りのする温もりを吸い込み続けた。 fin. |