| 声が聴こえる-2 / くろいぬ |
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【ブラ(ックハヤテ号)←ロイ】【軍部】 『東方司令部異常なし - ブラックハヤテ号 -』 chap. 1 「ふはははは!」 とある晴れた日の、東方司令部。 ロイ・マスタング大佐が、デスクの上の小包を開け上機嫌な笑い声を上げた。 すかさずハボック少尉が手許を覗き込む。 「勝手に見るんじゃない」 大佐はガバリと身体で覆って荷を隠そうとしたが、時既に遅し、小包はハボック少尉の手に、そし少尉からファルマン准尉、ブレダ少尉へ……、司令部内に回覧された。 小包の中身、丁寧に梱包された小箱には、愛くるしく見上げる瞳のウェルシュコーギーの写真が印刷されていた。 「ええと……? 『発見!! 犬の気持ち翻訳機』? バウリ●ガル?」 しげしげと小箱を見たフュリー曹長が読み上げた。 「私の屈辱の日々は終わりを告げる。軍の狗よと蔑まれようが、私は自分の野望に添い遂げる。今こそ私の望みの叶う時だ!」 「発送元は個人……? 大佐、あんたこの間っからオク覗いちゃーそわそわしてると思ったら、そんなモン落としてたんですか」 「探していた物を入札したら、オークションの最終日に落ち着かなくなるのは情理というものだ」 胸を反らす大佐に、ファイルに目を通していたホークアイ中尉が釘を刺す。 「大佐。ヤフ●オーク●ョン覗いている暇に、そちらの山になった書類の1枚や2枚や10枚や30枚は片が就く筈ですが」 「中尉、私とて出品者の履歴を調べたりと、調査すべきことが沢山あったのだ。この人の評価は『非常によい』ばかりだ。随分沢山出品してるし入金の確認連絡も素早かった。こういう実績と信頼の高い人とは、是非またお取り引きをしたいものだ」 「仕事中にオク取引きにに熱中しないでくださいと言っているんです」 聞いちゃーいねえ、な状態のマスタング大佐は、逸る手付きで箱を開封しマニュアルを捲る。 「まずは『犬種データ』の設定か……」 「黒柴でしょう」 すかさず答えたファルマン准尉に、マスタング大佐は驚いたように目を向けた。 「仔犬の頃はタレ耳で少し心配してましたが、ぴんと立ちましたし。前傾気味の小さな三角の立ち耳、背側に立ち上がった巻尾、しまってはいるが幅広な腰、がっちりした首、そして何より愛嬌のある麻呂眉」 腕組みしたファルマン准尉が言った。 「ダブルコートの漆黒の上毛に、胸や尾の付け根や腹側の鮮やかな白。ブラックハヤテ号は、遥か東の方の国の犬種『柴犬』の黒色種、黒柴と思って間違いはないでしょうな」 「何故私の設定しようとした犬がブラックハヤテ号のことだと判ったんだ」 「…………違ってたら、その方が驚きなんですが」 愕然とした様子のマスタング大佐を、司令部の面々は同情を持って眺める。 バウリ●ガルを握り締め立ち尽くす大佐にハボック少尉が近付き、優しく声をかけた。 「重要書類の隅にブラックハヤテ号の絵までお絵描きしてましたね。自分は空腹を堪えつつ、昼食のサンドイッチやって手懐けようともしてましたよね。ブラックハヤテ号が警戒姿勢取ってるのに気にせず追い掛けてるから、いつ嫌がられて噛まれるかと冷や冷やしてましたよ。まあ、噛まれる前に意思の疎通を図ろうとしたってのは、大佐にしちゃあ賢い選択だったかもしれません」 ぽんと、労るように大佐の肩に手を置き、振り返る。 「これ、電池沢山要るみたいスね? ……おいブレダ! 電池貰うぞ!」 「俺のボタン電池! ゲーム用ストックの単三単四! 犬の為に俺の電池持ってくな! キライっ! 犬、大キライっ!」 ブレダ少尉は泣きながら止めようとするが、ハボック少尉は気にせず電池を奪った。 「あのぅ、ブラックハヤテ号は中尉がしっかり躾てるし、人間は噛まないんじゃ……。大佐に大分しつこく構われてる時にも、一生懸命我慢していたようですし」 「その我慢の限界が判らない人間もいるということね、フュリー曹長」 普段大人しげな曹長や、中尉までが好き勝手なことを言い出すのに、自分の周囲には味方ナシとみたマスタング大佐が。 キレた。 「幾らでも暴言を吐くがいい。今に見ていろ、私はブラックハヤテ号とコミュニケイションを取ってみせる」 ふるふると震えながら大佐は叫ぶ。 「私は……私は……、ブラックハヤテ号と仲良くなってやるぅ!」 バタン! バタバタバタバタバタ…… 扉を思い切り開けて、どこかへ掛け去って行く。 司令室には茫然とそれを見守る人々が残された。 が。 バタバタと駆け戻る足音が近付き、マスタング大佐が司令部室内に飛び込んで来た。 「ファルマン! 設定画面に黒柴の選択項目が無い!!」 「や、柴犬選べばいいから。色が違うだけだから」 ファルマン准尉が『ちゃいまんがな』のスナップと角度で掌をひらりと挙げる。 「ホークアイ中尉! スケジュールモードの『ていき検診』を何月何日に設定すればよいのか判らん!」 「健康状態は良好なので、今のところ検診の予定は立ててません」 「じゃあ『トリミングの予定』はいつにすればよいのか!?」 「柴犬は短毛で殆どトリミングの必要がありません。走り回って爪も自然に削れています」 「『予防接種』は!?」 「接種はつい先日したばかりで、次は一年後です」 「そうか」 すごすごと。 焔の錬金術師、ロイ・マスタング大佐は肩を落として司令室を出て行った。 その後ろ姿は、見る者に「タレ耳タレ尾の犬」を思い浮かばせた。 司令部に静寂が訪れる。 「……無駄な時間を過ごしてしまったわ。さ、仕事に専念しましょう」 「そうですね。あ、これタイプしてしまいますから」 「頼みます」 それぞれが自分の持ち場につき、日常的な慌ただしさと活気が司令部内に戻った。 だがしかし。 誰もが何か機会があるごとに窓の傍に立ち寄り、ブラックハヤテ号のいる筈の中庭を眺めることをやめられなかった。 中庭には、四肢をふんばり睨みを利かせるブラックハヤテ号と、相変わらずどうやって犬に近付けばよいのか判らないなりに、なんとかバウリン●ルを装着させようと努力し続けるマスタング大佐の姿。 一匹対ひとりの対峙を時折観覧しながら、「……今日はいい天気だなあ」と心にもないことを言いつつ、窓から離れてそれぞれ仕事に戻るのだった。 chap. 2 大佐のデスクに書類を置いたホークアイ中尉は、置き忘れられたバウ●ンガルマニュアルに気付き何気なくページを捲った。 『設定項目、飼い主の名前』 ……『ロイ・マスタング』と入力しているに違いない。 リザちゃん、想像して心ならずもムカっ。 chap. 3 ある日、マスタング大佐がデスクに力無く俯せてバウ●ンガルを放り出したのを、ハボック少尉が目敏く気付いた。 「あれ? もう要らないんスか?」 「役に立たん」 「やっぱ機械に頼るより、相手の観察続けた方がいいって判ったんですか?」 「違う」 大佐は日当たりのよいデスクに頬を擦り付けながら、ハボック少尉に言った。 「柴犬は殆ど鳴かないんだ。音声データが入力されなければ、翻訳文章が出てくる訳がない。スピッツとかならもっと鳴いたんだろうが、こんなことならオクで競るんじゃなかった。抜かった……」 バウリン●ルに犬の仕草を入力する『しぐさ翻訳モード』もあるのだが、マスタング大佐は気付かなかったようだった。 ハボック少尉は笑いを堪えつつも、気の毒と思い大佐の為にコーヒーを淹れに席を立った。 当のブラックハヤテ号は、主人であるホークアイ中尉へは群の最上位への忠誠振りを見せ、適度に意思の疎通が可能なハボック少尉とファルマン准尉を群れの第二位、第三位、おやつをくれ遊んでくれるフュリー曹長を自分のすぐ下の位置、いつも叫び声を上げながら逃げて行くブレダ少尉を群れの外の存在と認識したようだった。 肝心の大佐については、『いつも睨み付けながらじりじりと近付く怪しい敵』として常に警戒態勢をとかずにいる。 『いつかは噛む!』 そう思いながら、厳しいご主人の手前、礼儀正しく無視するフリを続けている……のかもしれない。 fin. (時期未定予告『東方司令部異常なし - ロイリンガル -』に続く) |