| 期待2 / 白猫 |
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【ハボロイ】『ナイショ(白猫)』の続き 『こねこーその頃ハボは編』【黒猫物語】 『期待2』 「ふう」 疲れきった体を引き摺って帰って来た自分の部屋。熱いシャワーを浴びてから、ビールを一本、一気に空けた後、いつもの煙草を銜えれば、吐き出されるのは、煙と溜息。 (明日は昼過ぎに出勤すりゃよかったんだけどなあ) 頭に浮かんだ勤務シフトの表。久し振りの2連休を取っていたフュリーが早朝から出てくるかわりに、明日の自分は午前中全休の筈なのだが。 上官二人がいないとなれば、必然的に自分の仕事が増えることになる。休みに甘えて昼まで出勤しない間に、一体どれだけの決済待ちの書類が机に乗せられるのか、考えただけで頭痛がした。 (明日も朝からか) それでも、そこにロイの姿があるというのなら、それこそ休日出勤だって喜んでするのだが。 「あーあ」 どうしたって、良い方向に思考が巡らない、そんな日もたまにある。今夜はどうも、そういう日の様だった。 「さっさと寝るか」 小さく呟いてから、銜えていた煙草を灰皿に押し付けて。大きく伸びをしながら、寝室の扉を押し開けて、スタンドの灯りをつけた途端、足が止まった。 「あ?」 見慣れた自分のベッドの上にある見慣れぬもの。真っ黒い塊。 「ああ。そっか」 そのまま近寄って、首筋を摘みあげる。 「よお、猫。ちゃんと留守番してたか?」 大きなベッドの真ん中で、我が物顔で眠っていたのは、誰よりも大切な人が幼い少女から贈られた黒い大きな猫の縫いぐるみだった。 ロイの中央への出張。 気にしないようにはしていても、どうしても多少はもやもやとした思いを持つのは仕方がないだろう。せめて本人には気付かれないように努力しているものの、どうやら、自分の思いくらいは、簡単に読まれてしまっているようだった。 『お前が寂しがるだろうと思ってな』 そんな言葉と共に、ロイが、にやにやしながらコレを持って来たのは、昨日、正しくは一昨日の夜。 『あとで行く』 帰り際、すれ違い様に、そんな言葉を掛けられて、急いで帰って食事の支度をして待っていた自分に、やってくるなり差し出された大きな包み。 『出張と聞いてから、お前、ずっと機嫌の悪そうなカオしていただろう』 だからといって。 『コレを貸してやるから、抱いて寝てろ』 普通、こういうものを貸し借りするか? 仮にも、東方司令部の事実上の司令官であり「焔の錬金術師」と怖れられている男が。 『汚すなよ』 心配そうに向けられたロイの表情を思い出してくつくつと笑う。 「可愛がられてるよな、お前」 コレが司令部に送られてきたときの騒動にも関わらず、今ではすっかりロイのお気に入りとなった黒猫の顔を突きながら話し掛ける。 「なんだ、お前も淋しいか?」 主人がいなくて。 「…俺もだ」 はあ、と溜息をつきながら、大きな猫を抱き締めて、黒い頭の上に顎を乗せる。 今頃、あの人は何をしているんだろう。親友と面白可笑しく笑いながら飲み明かしているのかそれとも。 (また怒られてっかもな) 不意に、先日の電話を思い出して、また笑みが洩れた。愛する人に渡す贈り物を『ロイ』にあげるのだと愛娘に言われた中佐は、そのとき一体どんな情けない顔をしたのだろうか。 (今日、貰ったのかな) 小さな少女の無邪気な想いは素直に可愛いが、それにしても。 『愛の言葉に甘いお菓子を添えてプレゼントするんだそうだ』 「そんな風習がこの辺りにもあったら、俺だって大佐に山程菓子贈ったのに」 甘い甘い菓子をたくさん買ってきて、ロイの机を埋め尽す程に乗せれば、一体どんな反応をしてくれただろう。尤も、そんな風習があった日には、自分からの贈り物など目に入らないくらいに、たくさんの甘い菓子があの人のまわりをうめるだろうけれど。自分の贈ったものなど、書類の下に埋もれて見えなくなるのが関の山かもしれない。 「それじゃフュリーのチョコと変わんねーな」 思わず苦笑してから、ベッドに潜り込んで、スタンドの灯りを落とす。 「おい、寝るぞ、猫」 そのまま、大切な人の代わりの猫を抱き締めて、目蓋を閉じて………。 「…ちょっと待て」 何かがおかしい。 一体、自分が何に引っ掛かったのか判らないままに、目を開いた。 なんだ? 何がおかしい? もう一度スタンドの灯りをともせば、目の前に浮かび上がる黒猫。 (黒猫に甘い菓子に山程の贈り物…) ベッドに入る直前の自分が思っていたものを、一つずつ思い浮かべる。 一体何に引っ掛かった? (書類に埋もれたチョコにフュリーのチョコ。…フュリー…) 「待てよ」 フュリー。2連休の? …休みのフュリーがどうやってチョコを置くんだ? 「フュリーじゃない?」 だが、フュリーでなければ一体誰が何であんなところにチョコを置くというのだろう。 書類の下にあった甘いチョコ。 甘い菓子。 甘い…菓子? 「うわああああああ!」 思いあたった一つの可能性に、夜中だということを忘れて叫ぶ。 まさか。 有り得ない。 落ち着いて考えろ。 腕の中の黒猫を潰してしまいかねない程の力で抱き締めたまま、必死に自分の机を思い浮かべる。 『これ、お願いね』 中尉が大量の書類を下ろしたとき、そこには何があった? 何がなかった? あの中尉が、急いでいたとしても、何かの上に書類を乗せてしまうようなポカをしたりするだろうか。 「まさか」 書類を置いてすぐに部屋を出た中尉と、文句を言いつつ、それに続いた自分と。 あのとき、ロイはどうしていた? 自分とロイと、先に部屋を出たのはどっちだ? 金色の紙に包まれた小さなチョコは、一体いつ自分の机に乗ったんだ? 「大佐? え? まさか。ほんとっすか?」 ぐっすり眠る黒猫に問いかけても、返事が返るはずもなく、ただ頬だけが熱く燃えて。 そのとき。 『愛の言葉に甘いお菓子を添えて』 不意に浮かんだロイの言葉。 「言葉っ!」 もしかして、他になにかメモでも添えてあったんだろうか。 机のどこかにまだ。もしくは書類に混ざったか? 思い付いて、大慌てでベッドから飛び下りようとしたとき。 『ひとつひとつに、いろんな言葉が書いてあるんです』 もうひとつ、浮かんだ言葉に体が硬直する。 あのチョコを教えてくれた女の子の声。 『好きとかキライとか、愛してるとかサヨナラとかきわどい言葉もいっぱい』 「どあああああああっっっ!」 朝になれば、確実に近所から文句が来るだろう大声を張り上げる。 真っ赤になっていた顔が一瞬で真っ青になるのを自覚しながら、黒猫を見つめる。 「…食っちまった…」 愕然とする自分の前で、我関せずとばかりに眠る黒猫が一匹。 一体なんて書いてあったんだ? 『好きとかキライとか、可愛いとか愛してるとかサヨナラとかきわどい言葉もいっぱい』 小さなチョコに書かれていた言葉は、いまはもう闇の中…。 fin. |