ケ・セラ・セラ / 白猫
【ロイ ハボック ヒューズ】




『夢の中』


身体を重ねるのは嫌いじゃない。
さんざん熱を注いだ挙げ句、抱きしめるかのように腕をまわしてきたまま、寝息をたてる男の寝顔を見ながらロイは思う。短く切りそろえられた金色の髪は、連日の太陽の下での労働の為か、僅かに色を失っているようにも見えた。
傷の男の遺体の捜索。今となっては9割方無駄だと誰もが思っているだろう作業を地道に続ける男。

あんたが安心して歩けるようになるまではちゃんとやりますよ。
普段は文句ばかり言う癖に、こんなときだけ真面目な顔で。
大丈夫っすよ。身体だけは自慢なんすから。体力自慢あんたも知ってるっしょ?

こっそりと囁いて、オカシソウに笑って。
あんたは護衛つけて司令部にいて下さい。中尉がいれば安心っすから。あとセントラルから中佐がいらしてくだされば怖いものナシっすよね。
何故こいつは、そうなのだろう。

おまえの傍にはあいつがいるからな。
不意に浮かんだヒューズの声。
金髪の番犬に任せておけば、まあ安心だろう?あれは命懸けでお前を守るだろうよ。嬉しそうな顔で。

自分を挟んで、二人の思惑が複雑に絡んでいることを知っていた。
あんたがいちばん悪いっすよね。
お前、ほんと悪いよなあ。
同じことを笑って口にする二人が。

あんたのために。
お前のために。

そう言って互いを信頼する。

お前ら、互いを知らないだろう?
呆れて問いつめてみても。

だってあんたが信頼してるじゃないっすか。
お前が信じて傍に置いているんだろう?

同じ口調で。まるで示し合わせているかのように。

あんたのためっすよ。
お前のためだ。

ったく。馬鹿にされてるのかと思うぞ。
今隣にいる金色の大型犬の頬を軽くはじく。

昼間、市内を視察中に見かけた奴が、夜中に通りがかったとき、まだ土嚢を担いでいたのに唖然として。驚いて近くにいた男に訊いてみれば誰よりも働いているのがこの男だと口を揃えられた。

馬鹿か。こいつは。お前が倒れたら誰がやるんだ、こんな割に合わない仕事!怒鳴って引っ張るように連れ帰った深夜。そのくせ帰るなりやたらと元気になって3回戦。ほんとにこいつは何を考えているんだ。


「ん……大佐? 眠れないんスか?」
「いや。もう寝る。お前も寝とけ。ちゃんと此処にいてやるから安心しろ」
寝惚け眼の男が、うれしそうな笑顔を浮かべて、そのまま夢の中に引き込まれるのを見てから、コイツが眠る前、律儀にセットしていた目覚ましを止める。


たまには甘やかしてやろう。こいつも、それから遠い土地から3日と開けずに電話を寄越し、挙げ句に忙しい最中にわざわざこんな地方までいつでも出張してくる大馬鹿野郎も。
「ほんとに手の掛かる奴等……」


あんたにだけは言われたくないっスよ!
お前にだけは言われたくねえぞっ!


二人のハモる声が聴こえたような気がした時には既に夢の中。




fin.