覚悟しろ / くろいぬ
【アニメ27話】【ロイ】








『call』





「とうとうだ。セントラルへ行くぞ」
 広いデスクの上の電話機の、受話器に向けるロイの声に強い響きが籠もる。
「この機を逃したりはしない。決してこのままでは終わらせない。何もかもを暴き、奥底に隠れたものを真実の光の元に晒し出して裁く。それまではこの足を止めることは、もう、ない」
 受話器をきつく押し当てた耳殻が熱い。
「俺に付いて来る者達も、みな、どこまでも引きずり回すことになる。彼等は疾うに地獄の道連れの覚悟を持っていた。俺も漸く覚悟を決めた。何が待ち受けているやも知れぬ地獄の道行きに、彼等を巻き込む覚悟を決めた」
 キイ。
 身をもたれさせた椅子の背が、もの悲しい金属音を立てた。
「おまえが途中放棄した役目を、彼等が引き継ぐ。おまえが途中退場した所為で更に険しくなった道を、彼等と共に行く」
 ロイは囁いた。
「おまえの所為でみなを地獄に連れてくんだ。私がみんなを地獄へ連れて行くんだ」
 声が掠れてひび割れる。



「おまえがいないから。おまえがここにいないから。おまえが行ってしまったから」

「おまえがいなくても俺は行く。彼等と共に上を目指す。おまえの生命を奪ったものを突きとめる。そのまま上まで駆け上がり、欲しい物を手に入れる」

「今傍にいる者達が、当然のように最後まで揃っているなんて夢のようなことは、もう思わない。だが、むざむざと部下を奪われるようなことはもうしない。奪われてから自分の無力を呪うことなど、決してしない」

「奴ら全員、最後まで一蓮托生だ。誰一人この掌から取りこぼしたりはしない」

「もう奪われることなど」



「……最後まで俺と共にいると、誓ってくれたんじゃなかったのか」




 不通の信号の続く受話器に向かい、ロイの声は、低く、熱く続いた。
 最後の呟きだけが、零れ落ちたように小さく漏れた。
 やがてロイは、血の気が引くまで強く握り締めた受話器を電話機に戻し、デスクに肘突き額に掌を宛った。
 電話の隣には、餞別物の折り畳み式チェスボードが置いてある。
 白黒の市松に塗り分けられたボードを眺めたロイが、溜息を深く吐き出した。
「覚悟したさ」
 顔にかかる髪を振り払い、立ち上がる。

「大佐?」
「ホークアイ中尉は? 少尉や曹長は今何処に?」
 執務室の半開きの扉から司令部室内をぐるりと見渡したロイは、ファルマン准尉に目を留めた。
「一体、何を……」
 ロイの口調の慌ただしさに、ファルマンは懸念深そうな表情を浮かべて見つめ返した。
 問いかけを振り切るようにロイは息を吸い込み、肚の底から声を出す。
「彼等を至急呼び出す。……戦闘開始だ」






fin.