*番外/炎のたからもの / くろいぬ
【パラレル】【出来心です】【すみませんすみませんすみません…】



『炎のたからもの』


 とある日曜、レンタ屋の7泊8日100円キャンペーンで借りてきたビデオを部屋に持ち込んできた男がひとり。
 テレビで散々放映している古い映画を嬉しげに、所々解説だか茶々入れだかを混ぜながら、野郎ふたりでむさ苦しくも騒々しい鑑賞会。
 そんなものに付き合う自分も大概なものだが。

 静かな湖と緑を背景に白いドレスの少女が涙ぐみ、だみ声の中年が声をかける。

『奴はとんでもないもの盗んで行きました。あなたの心です』

「いーねえ! ここがいいよな!」
「そんなに好きか」
 わざわざ部屋の灯りを落として、画面の反射を無くしての鑑賞のサイゴのサイゴに喚き出す奴に、呆れる。
「だって、連れ去ってくれって言う美少女を、抱き締めかけた腕を震わせながら引っ込めて、必死の理性、男の美学のデコちゅーで、それでいて心盗んじゃうんだぜ!? 『ハイ』だぜ!? お姫さーんだぜ、可憐なんだぜ!? これぞ男の浪漫じゃねえかよ!」
「人のこと同性だろうがかまわず押し倒して、デコちゅーどころか、最初っからベロちゅーして来た奴の言うこととは思えんな!」
「それ言われるとひゅーたんちょっと弱いかもー」
「このバカ者!」
 空になったピザの、馬鹿でかい箱を頭にぶつけようかと逡巡する。

「何の手出しもしないまま、心だけ盗んで。一生忘れられないと思わねえ?」
 夢見るように言う奴に、無性に腹が立った。
「もう一生逢わないのに忘れさせない、か? 人のこと縛り付けたがる奴の言いそうなことだな」
「何怒ってんの?」
「怒ってなどない」
「呆れた?」
「……そうだ」
「おまえも忘れないでいてくれんの?」
 嬉しげな顔が心底腹が立ち、手許のスナック菓子の袋を投げ付けた。
 袋の底に残っていたスナックの欠片が、油交じりの塩と共にばらばらと、ソファや絨毯に花びらの様に散る。
「バカ、このポテチ青海苔……」
「知るか!」

「一生忘れさせたくねえなあ」
「メガネのヒゲなど、そこら中にうろちょろしている。ありふれた顔はすぐに忘れ
る」
 散らばるポテチを拾い上げ掃除機を一通りかけたと思ったら、ソファに押し付けられて図々しい顔を目の前に突き出され。
「冷てえな」
「おまえが暑苦しいんだ」
「俺はおまえのこと一生忘れないがなあ」
「不確かな未来の約束など、誰が信じるてやるか」
「嘘じゃねえって」
 急に真面目な目と声で。
 とても卑怯だ。
 信じてしまう。
 そんな目も声も卑怯で不実で信じたくないのに。
 これ以上耐えられないと思った瞬間に。
 腕が縋り付こうとするのを我慢出来なくなると思った瞬間に、巫山戯た口調に変えるから。
「おまえに忘れられないように、ずっとこのヒゲ面を見せ続けなきゃな」
「本格的に暑苦しいぞ」

 約束をしたがる奴が、それを必ず守るとは限らない。
 どれ程守りたくても、ある日突然約束は途切れることがあると、知っていたのに。



『奴はとんでもないものを盗んで行きました。あなたの心です』



「……はい」
 暗い部屋でひとり。
 ぼんやり眺める古いビデオの憶え込んでしまった台詞を、ビデオテープが回るのと同時に呟く。

 せめて心くらい、返してくれよ。



fin.


2003/11/11(Tue) 21:05