御褒美 / くろいぬ
【ヒューロイ】【18禁】



『御褒美』



「よお、久し振りだな」
「ヒューズ」

 中央から離れた東部の地には、軍に対抗するテロ組織が幾つも潜む。
 理想や利害を違えた組織が一時的に手を組むことも決して珍しいことではなく、テロリスト達が結集して大規模な武器調達を企てるとの情報に、ロイ・マスタングは国境付近へ赴きテロ組織壊滅作戦の指揮を取った。
 作戦を終了したロイは司令部に帰還してすぐに、ここ数日滞在している中央からの来客の存在を報され、彼が使用しているという小さな応接室へと向かった。
 ノックもせずに開いた扉の向こう、ソファとテーブルだけの殺風景な部屋でヒューズが笑った。

「珍しく3日ばかりここにいたんだが、おまえさんとはきれいに入れ違いだな。ま、顔見られただけよかったか。最近の東部はキナ臭くって、たまに俺が出張して来ても、おまえ留守が多かったからなあ」
「もう用事は済んだのか」
「ああ。このまま中央に戻って今日中に報告だ」
 ヒューズは傍らの小さな木箱とブリーフケースに目を遣った。
 木箱と鞄とヒューズの頭の中には、3日間の間に集めた情報がぎっしりと詰まっている。
「そうか」
「お互い、宮仕えは辛いな」
 ロイの声から落胆の成分を感じ取ったヒューズは、苦笑いを浮かべながら答え、ソファに背を預けた。
 深くソファに沈みながら、ヒューズはドアの前に佇んだままの錬金術師を見つめた。
「なあだから。今ここで抱かれろよ」
 熱い視線の先でロイは、後ろ手にドアをロックした。

「こっちも報告を後回しにしてるからな。いいとこ2、30分か」
「忙しねえなあ」
 ロイは一直線にソファの前に歩み寄り、跪いてヒューズのベルトに手を掛けた。
 キスも、碌な挨拶すらも交わさずに、バックルを外してヒューズの下半身に顔を埋める。
 ヒューズは自分のものを咥える濡れた口元を眺めながら、軍服の上着を脱いだ。
「いい光景だよなあ」
「馬鹿言うな。ほら、もう勃ったぞ」
「がっつくなって」
 ロイも立ち上がると上着を脱いで放り投げ、自らベルトを外しボトムを下に落とした。
 裾を軍靴に突っ込まれたボトムは足下に溜まり動きを妨げる。
 動き辛さに舌打ちをしながら、ロイは露わにした膝でソファのヒューズの躯を跨ぎのし掛かった。
 唾液に濡れた指がすぐにロイの脚の奥に向かい、穿つ指の数が増えるごとに黒髪が打ち振るわれる。
「時間がないからさっさと済ませろ」
 ヒューズの首にしがみつくように回る腕の熱とは裏腹の、そっけない声。
「判ってるって」
 ヒューズは引き抜いた指を自分の勃ち上がったものに絡め、待ち兼ねて熱を孕んだ場所に宛う。
「時間のないことなんか判り切ってるって」
 ロイの腰骨を捕まえた掌に力が籠められる。
「く……、あ、くっ……!」
 狭い場所に無理に押し入る為の、強引さと裏返しの気遣いに荒らぐ吐息と、求めながら逃れようとする躯を無理に制御する為漏れる呻きが、部屋を支配した。
 やがて、ヒューズの躯を跨いだ白い脚から震えるほどの強張りが消え、ふたつの吐息が深く続いた。
「動けるか?」
 ヒューズが大きく開いた腿の上に掌を置き筋肉の張りを確かめるように撫でると、肩口に項垂れていた黒髪がまた震えた。
「急かしたりがっついたりしてるのは誰だ?」
 ロイの声が笑った。
 ヒューズもロイからは見えぬ場所で、うっとりと目を細めて唇に笑みを浮かべる。
「しょーがねーだろ、餓えてんだから」
「しょうのない奴だな、おまえは。昔から一向に変わらん」
 ゆっくりと。
 ロイは首筋から顔を上げた。
 薄らと浮かべていた笑みが、瞳が合った瞬間に色合いを変える。
「たった今、滅茶苦茶にしろよ」

 次ハ イツダカ 判ラナインダカラ。
 次ガアルノカサエ 判ラナインダカラ。

「……ああぁっ、あ、ぐっ……!」
「啼き声聞きてえのは山々なんだけどな、ココ、防音じゃないよな?」
 ロイの腰を両腕に捕まえ、ヒューズは繰り返し突き上げた。
 背を仰け反らせながら、ロイも躯を上下に揺らす。
「防、音じゃ、ナい」
 途切れがちに答え、ロイは躯を屈めた。
 声をあげさせるなと、忙しなく上がる息に開きっぱなしの自分の唇をヒューズのものに押し付ける。
 がち、と、歯のぶつかる音がした瞬間ふたりは目を見合わせたが、気にせず舌を絡め始めた。
 躯の中心を硬いものに貫かれる度ロイは呻き、ヒューズの唇が吸い込むように声を抑えさせる。

 歯が鳴る程にぶつかり合う焦って拙い接吻けは、ふたりには馴染みのものだった。
 イシュヴァールで明日の生死も判らぬ作戦に参加していた頃に、数少ない機会を捉えては、生自体を貪るように躯を合わせていた逢瀬から、全く変わらぬものだった。
 イシュヴァールから戻っても、未だ明日の生命の保証もない日々が続くとは。
 軍という組織に自ら望んで入った時から、判り切っていた筈だったのに。

 かつっ。
 また歯のぶつかる音がした。
 首に絡む腕の力が増したのをきっかけに、ヒューズはふたりの腹の間で揺れるロイの雄に指を絡め、最後の律動のスピードを速めた。



「またヤれっかな?」
「下品」
 巫山戯た声と、呆れ声の短いいらえ。
 はじけた熱を掌と体内に受け止め、薄く汗を浮かべながら、吐息も戻らぬままで。
 熱も吐息交じりの声も匂いも逃さぬように、胸のどこかに大事に仕舞い込んだ。

 次もまた逢えますように。






fin.