夢のあとさき
 うつつ世の夢、うつつを夢見
 夢のまた夢、夢の中
 醒めてもここは、まだ夢の中……?
 真っ先に酔いつぶれた三蔵を、八戒は愛しそうに眺めていた。
 金の髪を撫でた指を、そのまま頬に滑らせ、唇をくすぐる。
「……ふ……」
 くすぐったげに首を振るう三蔵は、酔いに染まった顔色といい、扇情的なこと、この上ない。
 知らず、ごくりと唾液を呑むと、八戒が微笑みながら俺を見た。
「ねえ、悟浄。三蔵を、自由にしてみたいって、思うことありますか?」
 何を馬鹿なことを。
 そう返すのが、一瞬遅れた。
「僕が催眠術出来るの知ってますよね。それを三蔵にかけたとしたら…?」
 紅く染まった三蔵の唇を、親指で嬲りながらそう続けた。
 ふっくらした唇は、さすられ、捏ねられ、唾液を絡め伸ばした濡れた輝きが、そこだけ別の生き物のように見せていた。
 柔らかそうなそこに、別のものを咥えさせてみたいという欲望がそそられる。  
「催眠術って、『本当にやりたくない』ことは、させることは出来ないんです。だから」
 愉しそうな目元。
「隠れた欲求や願望をくすぐって、そうっと揺らして、起こしてあげるだけなんです」
「俺に好きにさせるような願望が、三蔵にあるとでも?」
「さあ。そういう願望が、ないとも言えませんが。それよりも、この人、いつも疲れ過ぎだと思いません?」
「はァ?まあ、ハードな人生送ってやがるがな」
 意を得たり。
 八戒は嬉しそうに笑いながら、三蔵の唇を嬲り続ける。
 紅い唇が捻れ、白い歯が見えた。
 その歯に割り込み、意地の悪い指が押し込まれた。
「三蔵の背負ったものは、ひとりの人の子の運命としては、重た過ぎるんですよ」
 閉じきることの出来ない口元から、つと唾液が流れ出した。それも指に絡めて、唇に塗りたくる。
「記憶を退行させるんです。悲しいことも何も知らない時代に、戻してあげるんです」
 指の傲慢な動きとは対比的な、優しい声だった。 
「この人の精神が疲労で擦り切れる前に、三蔵自身も知らない奥底に眠る欲求を満たすんです。辛い記憶から解き放ち、存在を肯定され、深く愛され求められ、何をやっても許される幼児に、してあげるんです」
 焦らされた唇から、甘い呻きが洩れるのが聞こえた。
「起きても何も覚えてません。ただ、幸福な満足感だけが残ります」
 再び、俺は唾液を呑んだ。
「……ホントに、出来んのかよ」
 八戒は立ち上がって、机に突っ伏した三蔵の背に、覆い被さった。
 くすり。
 微笑みながら俺を見る。
「三蔵には既に深い暗示をかけてあります。後は呼びかけてあげるだけです。幼く幸せな頃の名を」
 ぴたりと背を付け、金糸に隠れた耳元に、柔らかく囁きかけた。
「 ―――― 江流。可愛いわたしの赤ちゃん」
「ンあんっ」
 耳朶に吐息がかかり、小さななき声があがった。

 八戒は、ぐったりと力を脱いた三蔵を抱き上げ、ベッドに運んだ。
「お利口ですね。大人しくしていてくださいね。暑いからお着物を脱がせてあげましょうね」
 経文と袈裟を丁寧に引出しに仕舞ってから、八戒は慣れた様子で三蔵の帯を解き出した。投げ出した腕を器用に袖から抜いて、三蔵の白い素肌を露わにして行く。
 躯を締め付けるものがなくなって、三蔵は、ふう、と小さく吐息を就いた。
 その様子を微笑ましそうに眺めていた八戒は、ブーツとジーンズをも、三蔵の躯から取り去った。
 あっという間だった。
 白いシーツの上に、白い裸体が無防備に曝された。
 力なく開いた掌が顔の両脇に置かれ、部屋の灯りを反射する膝小僧が、軽く立てられ寄せ合わされる。
「ほうら。何てきれいなんでしょう。こんなにきれいな子は、他にいませんよ」
 八戒は金糸の髪をそっと撫で、愛しげに囁く声を聞いた三蔵は、喉を撫でられた猫のような仕草を見せた。
 軽く仰け反った喉から滑らかな胸元まで、流れるようなラインだった。
 色素の薄い躯に、そこだけ紅を差したような胸元の飾りが、視線を引き付けた。
 シーツの白とも違う、透明感のある白い躯が、目の前に美味しい果物のように、置かれている。
 立てた膝の向こうには、柔らかな金の茂みと、また果実。
「 ―――― 悟浄?そっちはまだですよ」
 八戒の声に我に返った。
「おい。マジでこんなことして、いいワケ?」
「よくないと思うんなら、止めたらどうです?それとも、じっとそこで見てるだけにします?」
 八戒は、ベッドを回って三蔵の頭の近くに立った。
 通りすがりに、俺の一物を指先で弾く。
 固く主張するそれに、八戒が声をあげて笑った。
「可愛がってあげるんです。うんとうんと。それだけですよ……?」
 言いながら、三蔵の手を取り、親指を唇に咥えさせる。
「赤ちゃん、ちゅぱちゅぱしてもいいですよ。今まで我慢してたんでしょう?今日は特別許してあげますから、指を吸ってもいいですよ」
 三蔵は嬉しそうに目を細め、自分の親指に吸い付いた。
 横を向いて反らされた首が、匂い立つようだった。
「『指吸い』ってね。赤ちゃんがお母さんの乳首に吸い付くのと、同じ快感と幸福感を与えてくれるんですって。お母さんのおっぱいに吸い付けない幼児の、代償行為なんですって。あなた方が普段吸ってる煙草も、それに近いでしょう?」
 八戒が俺の顔を覗き込むので、つい貪るように見つめていた三蔵から視線を外した。
「別にィ。それに俺、どっちかっつーと、咥えて貰う方がスキだしぃ」
 眉を顰めて見せたが、八戒は笑うばかりだった。
「じゃあそれも、後でね。でも今は。 ―――― さあ、あなたも、甘やかして、可愛がってあげてください」

 八戒は三蔵の枕元に座り込んで、髪を撫で続けた。
 時折その掌を彷徨わせ、頬や耳、首筋をくすぐって行く。
 三蔵はその度、目を細める。
「ふぅん」
 鼻にかかった小さな声に、吸い寄せられるように一歩三蔵に近付いた。
 無心に指を吸う三蔵の、口元を指先で辿った。
 そこからゆっくり、顎を通って首を降りる。
 鎖骨を過ぎ、先刻から目を奪われっぱなしの淡い紅の周囲を、指先でくるりと撫でた。
 ふる。
 微かな身じろぎと共に、三蔵のそこがしこる。
 爪の先で触れるだけ、ぎりぎり接触するだけの刺激に敏感に充血し、紅くて硬い粒になる。
 三蔵がこくりと唾液を呑んだ。
 今度は指の腹で粒を転がしてやると、益々それは硬くなり、身じろぎがひっきりなしに続くようになった。
「ふぅぅんっ……」
 指を咥えたままの唇が、半開きになり甘い吐息を吐いた。
 胸の飾りを押し潰しながら捏ね回すと、切なそうに眉を寄せて、いやいやをした。
 濡れた唇から、指が外れた。
 ベッドにのし掛かって、その唇にむしゃぶりついた。
 熟した果実が目の前にあるのに、これ以上の我慢をする気がなくなった。
 柔らかな唇は、甘噛みすると何の抵抗もなく開かれた。
 舌を滑り込ませると、指にしていたように吸い付く。
 こくこくと、しごくように絡んでくる三蔵の舌を、また絡め取るように追い掛けた。
 八戒の声が聞こえた。
「赤ちゃんがお乳を吸うのと同じでしょう。ちゅ、ちゅ、って、吸い付いて来るでしょう」
 その言葉通り、送り込む唾液を全て、小さく顔を動かしながら呑んで行く。
 急にその動きが乱れた。
 ちらと顔を動かして見ると、八戒の指が、三蔵の胸の飾りをきつく摘んでいた。
「んんん……」
 泣きそうな表情が、すぐに蕩けたように変わる。
 八戒は、摘む力を強めたり弱めたり、また転がしたりと、まるで弄んでいるように指を動かしていた。
「ああっ……ふ」
 僅かに開いた唇の隙間から、声が漏れた。
 八戒にあげさせられた声なのだと思うと、悔しさが募る。
 唇をぴったり塞いで、八戒に弄ばれているのとは違う方の胸を、掌で覆った。
 乾いて暖かな掌で、三蔵の上を撫でるように動かし探る。
 性感を刺激する場所を探し、小さな反応を見逃さないよう、唇を合わせながらじっと三蔵を見つめていた。
 驚くほどに三蔵は敏感だった。
 二の腕や脇の、柔らかな皮膚を撫でると、必ず睫毛を震わせる。
 そこから胸元に戻ると、掌を硬い突起がくすぐる。
 ぴたりと動きを止めてやると、今度はじれて自分から身を捩らせる。
 その間ずっと甘やかし続けた唇は、俺のすること全てを受け入れるように、差し出されたままだった。

「そろそろ起こしてあげましょうか」
 八戒の声に、思わず不満の籠もる目を向けた。
「違いますよ。赤ちゃんにおやつの時間です。 ―――― さあ、目を開けて。いいものをあげますよ」
 八戒が次になにを始めるのか。
 急に離れた唇を不審がる三蔵を眺めながら、妙に興奮している自分を感じた。
「赤ちゃん、目を覚ましてくださいね」
 八戒の言葉に、三蔵はゆっくりと目蓋を上げた。
 とろんと蕩けた眼が、開いたままの唇の上にあった。
 先程からエレクトしっぱなしの自分のものが、また硬度を増したようだった。
「赤ちゃんがお利口だから、悟浄がご褒美をくれますよ。甘い甘い、キャンディをくれますよ」
 屈み込んで三蔵の耳元に囁きながら、八戒は悪魔のように微笑んで俺を見る。
「ねえ、キャンディあるんでしょ?」
 三蔵から身を離しながら、悪戯っ子のような表情で俺を見る。
「……可愛い赤ちゃんにやるのには、でっか過ぎかもしれねえがな」
 すっかり八戒にノせられてしまった自分が悔しいが、もう止めることなど考えられない。
 ベッドの上に乗り上がり、膝立ちで三蔵に近付いた。
 俺が三蔵の胴を跨ぐと、八戒が金色の頭の下に、枕を重ねて宛った。
 力無く開かれたままの両腕のすぐ上に膝を就いて、三蔵の顔を見下ろして跨いだ。
 前を開けると、すっかり勃ち上がったものが、天を向いていた。
「ちゃんと赤ちゃんの口元まで、持って行ってあげてくださいね」
 煩いぞ、とヒトコト言ってやろうと思ったが、掴んで無理矢理向きを変えたものに三蔵の唇が触れた途端、そんなことなど頭から吹き飛んだ。

 あぁん。
 唇が開かれた時には、そんな声が聞こえて来そうだった。
 それでも、柔らかな唇に、急に雄臭いものを呑み込ませるのに躊躇して、先端を触れさせるだけにする。
 差し出された、濡れてふっくらした唇を、昂るもので押した。
「ん」
 小さな声がして、三蔵は昂りを咥えようと更に口を大きく開いた。
 それを避けて、唇の周囲を辿るように、握り込んで動かした。
 ほの紅い唇から薄い舌が覗き、俺を追い掛けて来る。
 唇も舌も濡れて輝いていた。
 それを撫でた俺も、時折触れる舌にどんどん濡らされて行く。
「……うぅん……」
 思うようにしゃぶれない三蔵が、切なげな声を出した。
「悟浄、これ以上赤ちゃんに意地悪しちゃ駄目ですよ。ほら、こんなにいい子にしてるんですから、ちゃんとお口に近付けてあげてくださいね」
 言われて三蔵の表情をよく見れば、今にも泣き出しそうに眉を歪めていた。
 甘いキャンディ。
 すぐ側にあるのに、舐めさせて貰えない。
 俺の突いた膝の脇で、三蔵の掌はきつく握られていた。
「……悪かったよ。ほら、今度は大丈夫だから、ちょっとずつ舐めな」
 そうっと唇に、……突き付けた。
 紅い舌がすぐに近付き、先端をぺろりと舐めた。
 半ば閉ざした目蓋から、潤んだ紫色の瞳が見えたが、すぐに満足げな笑みに隠された。
 舌先の熱さと感触に、ゾクリと何かが背を駆け上がった。
 俺の『キャンディ』が逃げないことに、三蔵は漸く安心したようだった。
 先端を濡れた舌でねぶる。
 くびれまで咥え、口の中で舌を絡めて転がそうとする。
「くっ……」
 喉の奥まで突き入れたくなる衝動を、抑えるのにかなりな努力が要りそうだった。
 思わず自分のものを握り込んでいた手を離すと、途端にソレは天を向く。
 三蔵は、今度は慌てずにそれを追い掛けてきた。
 枕の上から顔を起こし、舌先を伸ばして、撫で上げてくる。
 ぴちゃ。
 ぴちゃ、ぴちゃ。
 膨れ上がったものに鼻先を擦り付けるように近付き、舌を這わせて行く。
 ぴちゃ、ぴちゃ。
 無心に目を瞑って、水音を立ててしゃぶり続ける。
 唾液に濡れたものが触れ、三蔵の細い鼻梁も滑らかな頬も、濡れて光った。
 大人しく舌を遣い続ける三蔵の、柔らかな前髪に手を伸ばした。
 髪を撫で、耳の後ろに梳かし、そのまま顎に掌を滑らせる。
 掌の中の三蔵の顔は、小さく、従順に見えた。
「ね。甘いの?俺の美味しい?」
 小さな頷きを掌に感じ、そのことがまた俺を追い上げた。
「甘いの、最後まで舐め尽くしましょうね。お利口さんは、お残しなんかしちゃいけませんよ」
 見計らったように、八戒の声がする。
 三蔵はまた、唇を開いた。
 口に挿れられるのを、待っている。
 濡れた舌が、迎えるように、下唇を隠して伸びて来た。
「ちゃんと、咥えさせてやるよ」
「ん、ぅンン……っ」
 舌に沿って滑らせて、口の奥まで挿れてやると、ほんの少し苦しそうに眉を顰めて、それでも舌を絡めて来た。
 三蔵の顎を固定して、ゆっくり抜き差しを繰り返した。
 三蔵は一生懸命を絵に描いたように、口一杯に頬張って、しゃぶる水音を立て続けた。
「きれいなきれいな、いい子…だ…な」
 声を掛けてやると、顔を挟んで突いていた膝に、三蔵の掌が触れてきた。
 膝頭から腿にかけて、つ、と滑らせる。
 息苦しいのを訴えたいのかと覗き込むと、急にぱっちりと目が開いた。
 うっとりとした紫の瞳が、微笑んだのだと気付いた時に、放出した。

 こくん。
 呑み込んでから、三蔵は少し顔を顰めた。
「最後は甘くはなかったかもしれませんね」
 膝立ちのまま後ずさってベッドから降りる俺に、八戒の笑いを堪えた声が掛けられた。
「そら、にがにがだろうよ。可哀相になあ」
 そう言ってやったのに、当の三蔵は、唇の端から垂れた雫まで、きれいに舐めて呑み込んだ。
「……ほら、悟浄?」
「ああ。ちゃんと残さず、本当にいい子だったな。きれいで可愛い、いい子だ」
 嬉しそうな顔に近付く。
「いい子だ。……大好き、だぜ」
 微笑みを浮かべた唇を、唇で塞いだ。
 唇をついばむようにしてやると、楽しいのか同じように返してくる。
 顔を抱えるように片肘を突き、髪を撫でながら接吻けを続け、掌を躯に彷徨わせた。
「いい子、だ」
 八戒は三蔵の足下に腰掛け、中心を掌で包んでいた。
 ふたりから与えられる快楽を、素直に受け取る三蔵は、すぐに声をあげ始めた。
「……んあぁぁん。あん。……ふぅ……」
 聞くだけで神経が溶け出しそうな、甘い声だった。
 仔猫よりも細く、時折高い旋律を交えて。
 自分の気持ちのよい場所から、少しでも指が離れて行こうとするものなら、いやいやをしながら悲しそうな声をだす。
「甘ったれだよなあ」
「そこが可愛らしいでしょう?」
 横たわる三蔵の躯の上で、ふたりで目を見合わせ、笑った。
 唇と掌が一度に離れ、三蔵が不安そうに辺りを見回した。
「……ごめんな」
 謝りながら、三蔵の上に乗り上げた。
 紅い突起を摘みながら、勃ちあがって震えている果実を、口に含んだ。
 八戒は、微笑みながら、金色の髪を梳かしつけるように撫で続けていた。

 ふたり掛かりで落とし込んだ躯は、どこもかしこも神経が鋭敏になっていたようだった。
 咥えながら脚や脇を撫でてやる度に、口中で三蔵自身が震え、快楽を訴える声が続いた。
 幾度か登り詰めさせた三蔵の、様子が少し変化して来た。
「……ふ、あぁぁん……」
 触れると素直に喜んでいたのが、困ったように首を振り続ける。
 開かせていた脚を、摺り合わせようとする。
「ああ。」
 八戒が声を潜めた。
「おしっこ、我慢出来なくなっちゃったんですね」
 小声だったのに、気の毒な程に三蔵は頬を赤らめた。
「まだ赤ちゃんだから、トイレで出来ないんですよねえ。お漏らししちゃったら大変ですね」
 ふるふると震え続ける躯が、全身ばら色に染まった。
 固く瞑った目元にも、涙が滲んでいるようだった。
「お漏らしで辺りを汚すなんて、とんでもないことですけど。でも、あなたは赤ちゃんだから、しょうがないんですよ」
 八戒は優しく囁いた。
 三蔵はまだ顔を振るい続ける。
 徐々に限界が近付いて来たのか、大粒の涙がぽろぽろと零れ始めた。
「お利口な赤ちゃん。ここで出来ますか?」
 摺り合わされていた三蔵の腿が、ますます固く膝を寄せ合わせた。
「どうしてですか?お粗相しちゃいけないって、ちゃあんと知ってるからですか?」
「ふぅ……っ。……えっく」
 とうとう、三蔵はいやいやをしながら、泣きじゃくり始めた。
「大丈夫ですよ。お粗相しても、僕たちはあなたが大好きですからね。叱ったりなんか、絶対しませんよ」
 八戒は、どうしてもここでさせるつもりらしかった。
 そのつもりで、時折意地の悪い言葉を交ぜつつ、三蔵を促していた。
 羞恥に染まる素肌で、三蔵はまだ首を振るい続ける。
「本当はとっても恥ずかしいことなんですけど、赤ちゃんがおしっこでお粗相しても、しょうがないですから。さあ、やってごらんなさい」
「んん……っ。やぁ……ん」
 救いを求めるように、紫色の瞳が俺を見た。
 泣き濡れて、睫毛の端まで涙の粒が乗っていた。
 染まった躯を小刻みに振るわせ、どうしてよいのか判らずに、ただ助けてくれと泣いていた。
 ぽろぽろ、ぽろぽろ。
 涙が流れ続ける。
「……いやぁ、……ん」
 さっきまで甘ったれてあげていた声が、余りに悲しそうに聞こえたので、躯が動いた。
 固く縒り合わされていた脚の、膝にそっと掌をかけた。
 紫色の瞳と、目を合わせながらゆっくりと開かせた。
「してみ。汚くないから」
 ぽろぽろと、涙はまだ零れている。
「怒んないから。……恥ずかしい?」
 脚の間で揺れているものの、先を舌で突っついた。
「あああっ」
「上手に出来る……?」
 自分でも、その後どうすればよいのかなんて、考えてなかった。
 ただ、恥ずかしがる三蔵が可愛かった。
 泣き顔が可哀相だった。
 三蔵のを、汚くないと言ったのは、嘘じゃなかった。

 三蔵は目を瞑った。
 すぅ、と息を吸った。
 また躯が震えた。

 先刻遂情させたばかりで、微かに痛みを感じたのか、また眉根が寄せられた。
 震える果実から、透明な水が放たれた。
 『お粗相』の言葉を畏れていた三蔵を思い出し、つい掌で受けた。
 意外なほどに、熱かった。
 ぽろぽろと零れた水と同じで、そんなに汚いものには思えなかった。
 掌から溢れそうになったので、今度は口で受けた。

「すいません。見物してたらつい出し遅れました」
 八戒の声に気がつくと、いつの間にかタオルが幾重も三蔵の脚の間に置かれていた。

「まさか。それにしても呑むとは思いませんでした」
 パン!
「え?」
 耳元で、大きな音がした。
 八戒が手を合わせた音らしかった。
「どうです?いい夢が見られました?」
「…あ!?俺!?催眠術かけられたの、俺なワケ!?」
「ちょっとした暗示で、夢を見ただけですよ」
 にっこり微笑む八戒は、やはりタチの悪い悪魔に見える。
「心の奥底の願望を、ほんの少しだけくすぐって、そうっと揺らして、起こしてあげただけです」
「……誘導尋問とか、てめェ、したんじゃねえだろうな……?」
「全くの否定は、致し兼ねますねえ」
 今までテレビで見たことのある催眠術のシーンが、頭の中でフラッシュバックした。
 糸の先に揺れるコインを見つめながら、催眠術師の質問に、あることないことしゃべり出すヤツ。
 慌てて周囲を見回した。
 三蔵は。
 ベッドに横たわっていた。
 法衣を着ていることに、安堵の吐息を就いた。
「あなたの願望の欠片、見つけられました?……モット素直に、優しくしてあげたらいいのに」
 がばっと振り向くと、笑顔の影から尖ったしっぽがゆらゆらと揺れているのが見えた。
「八戒、お前な……」
「はい?」
「……も、いいよ」
 一体どこからが夢だったのか。
 それすら判らず、聞くことも出来ず。
「とにかくだな。コクハクとかザンゲとかって、聞いたヤツは口外しちゃいけねえんだろ?お前それは守れよな」
「勿論」
 八戒の機嫌の良い声に、思わず肩が落ちた。
 三蔵の寝息に気がついた。
 ぐっすりと、安らかに眠っていた。
 暫くは、こいつの顔を正視出来ないんだろうなと、溜息をついた。
「……も。寝る」
「はい。おやすみなさい」
 自分の部屋に戻ろうと扉に向かい、ふと思い出して慌てて三蔵の眠るベッドに近付いた。
 ベッドサイドの引出しを開ける。
 経文と袈裟が、きれいに揃えて入れてあった。
「いつ、入れた、ワケ?」
 グラスの酒を飲み干す横顔に向かって聞いた。
「先刻ですよお」
 横顔の、微笑む口元だけが見える。

「……あなただって、見てたじゃないですか」

 微笑む悪魔に見送られながら、背中で戸を閉め、寄り掛かった。
『奥底に眠る願望』
『モット素直に、優しくしてあげたらいいのに』
 重大な問題を提示されたような気もするが、それよりなにより、先程の夢は夢なのか。
 それとも今は、真実うつつの世であるのか。

「……こういうの、足下すくわれるってのかぁ?」

 今立つ大地も、途端に不確か。
 不安に眩暈を覚えながらも、思い出すのはほの紅く濡れた……

 うつつ世の夢、うつつを夢見
 夢のまた夢、夢の中
 悪魔の微笑は、うつつなる……?












note
「スカトロ好んでは読みません」て、言ってたのにね(泣)
書いてみたら、とっても楽しかったです(更に泣)
夕夜さん、新しい世界への扉の鍵を、どうもありがとう!


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