とある日常 -3- 

愛のバカやろう。

「なあ、さんぞー?!で一体どうすんだよ」

誰もが忘れていたかもしれないが、実は三蔵一行はまだ旅の途中であった。
道中、いきなり謀反(?)を起こしたジープに遁走されてしまい、足を失って足止めされてしまったのだ。
幸い、陽はまだ高い。
岩砂漠に点在するわずかばかりの身近な石の影に身を寄せて、とりあえず今後の相談をする。
地図を広げて三蔵と八戒がルートと現在位置を確認している脇では、そろそろ待つのにも飽きた悟空が騒ぎ出した。
普段ならこんな時、白竜ことジープと遊んだり悟浄と仲良く喧嘩したりしているのだが、前者は渦中の人物で緘口令が引かれ、後者の悟浄は・・・・先ほどジープが消えたあたりから一帯の捜索に出ていた。
悟空も付いていこうかと思わないでもなかったが、八戒がなにやら笑顔で(当社比1.5倍)、悟浄ひとりでできますよねvと言い出したため、留まったのだ。
八戒の微笑の見極めだけは間違えては行けない。
その先にはハリセンより弾丸より恐ろしいものが待っている。
三蔵のように判りやすく殴ったり、飯抜きを命じたりされるのはまだいい。
反論の余地も弁解のチャンスも残っているからだ。

だが、優しげな口調、さもこちらの気持ちを汲んだような発言をしながら、結局自説を曲げたことの無い八戒の話術とゴリ押しに敵うはずが無い。
いつ、丸め込まれたかなんて誰も判らないうちに、結局そのとおりになってしまうのだ。
さっきだって、煩がる三蔵を説き伏せて金冠と被布を身につけさせた。
確かに強い日差しの下、風を切って進む車両の助手席ではないのだ、地面からの反射熱だって相当なものだ。
三蔵は丈夫だけど、妖怪の自分たちとは比べるべくも無い。

結局、自分には何もすることが無くてぼんやりしているのにも飽きた。
「あーあ」
らしからぬため息をついて、大の字に寝転がると頭の後ろに腕を組む。
真上から射るような日差しがまぶしい。

手のひらで遮っても、指の間からまだきらきらと光が漏れる。
「ほんっとーに、どこいったんだよーっ!ジープのばかやろーっ!(エコー)」


「あいつは何騒いでやがるんだ?」
地図を眺めながら、とりあえず徒歩で到着可能な街をさがし、ルートを八戒と図っていると、大地に寝転がって手足をじたばたさせては大声で叫んでいる。
気を散らした三蔵を話に戻すべく、八戒が至極実務的に話を続けた。
「さて、問題は無いでしょうから、悟空のことはとりあえずおいておいて、先に決めてしまいませんか?」
「ああ、そうだな」
また視線を地面に広げた地図に戻す。
金冠と被布の柔らかな影が落ちた白い面はいつもより幾分優しげに見える。

「ふふv」
そのとき、きらりとモノクルが光った。


----------------


一方、その白竜のいる天界では、必死の介護あって(?)ようやく出血も無事とまった様子だ。
なんども金たらい(二郎神愛用)一杯の氷水に突っ込まれ、酸素を求めて首を出そうにも、その度に勢いよく押し込まれて危うく溺死の運命だった。
おろおろと見守る二郎神と、必死の形相の金蝉を交互に見ながら、天蓬は満足げに煙をくゆらせていた。

「いい傾向ですねv」
白皙の面にくるくると浮かぶ表情を、じっと眺めてもう一度紫煙を深く肺に吸い込んだ。




禿げ山の一夜

「天蓬、オマエ何か言ったか?」
「いえいえ、何も。あなたの必死の看護の甲斐あって、その白竜も命を取り留めそうですね」
「ああ」
「…一体どうしてこんな…。観世音菩薩が拾って来られた時よりも重傷になってるだなんて…。金蝉童子、あなたはやはり観世音菩薩の血縁者ですな…」
「…二郎神。あんた死にたいのか?」
「いえいえ、滅相もない」
一瞬の内に青筋だらけになった金蝉に、二郎神は首をぶんぶんと振りながらも苦労人のため息を付くことは忘れない。
それを天蓬は、面白そうに眺めた。

「う〜ん。当てずっぽうも、結構いいかも。中々のコンビネーションじゃないですか」
「はあ!?貴様先刻から何なんだ!?…ってーか、観音の所で何してやがったんだ!貴様のその顔は、何か悪巧みをしてる顔だ!」
「やだなあ。僕はね」

天蓬は指を組んで天を仰いだ。

「…僕は、『愛』を探してるんです」
「……」
「……」
「…詳しく聞きたくはないんですか?」
「いらん。何かソラ恐ろしいことを聞かされそうな気がする。いらん、絶対にいらん!」
「私もそろそろ公務に戻らないと…」

そそくさと逃げ出した二郎神の後ろ姿を見送りながら、天蓬は残念そうなため息を吐いた。

「う〜ん。ここで白竜を見捨てる様じゃ、やはり二郎神は本当のお母さんではなかったんでしょうかねえ?ここには『愛』はなかったんでしょうかねえ…?」
「天蓬。オマエ『愛』とか言うな。なんだか物凄く…」
「嘘臭いって、さっき捲簾にも言われちゃいました。で、僕や捲簾には無い『愛』を探しに来たんですよね」
「どこへ」
「ここへ」
「ここのどこだ」
「あなたの手の中に」

金蝉は言われるがままに自分の手の中の動物を見る。
白竜は、丁度目を覚まして頭をぷるぷると震っているところだった。
真っ白な羽毛に、深紅の瞳がきらきらと輝き、自分を抱く金蝉の姿を認めると嬉しそうに一声鳴いた。

「『愛の結晶』」
白竜を指さし、天蓬がにっこりと笑いながら断言した。
「…それ…もしかして先刻の『お子さんですか』の続きなのか…」
「ぴんぽーん♪」
「…天蓬…きさま……」

白竜は、思い人の自分を抱く手が震えていることに気付いた。
手の甲に血管が浮いている。
見上げた顔は、半ば金糸に隠されているものの、頬が引きつりこめかみには血管が浮き上がっているようだった。

白竜は俄に厭な予感に見舞われた。
この美しい人に感じるべきでない、恐怖と畏れ。
見たことの無い筈の、金蝉童子の怒りに眩んだ瞳が、デジャヴの様に思い浮かぶ。
あの紫水晶の瞳が眇められ暗い色に染まると、次に見開かれた瞬間には苛烈な光を帯びるのだ…。

いや、まさか。
この美しく(不器用ではあるものの)優しい手を持った人が、そんな…。
白竜の目前で、金蝉の唇が嘲笑を形取り、奥歯がギシリと音を立てた。
怒りの形相が脳裏にフラッシュバックのように立て続けに映し出される。
耳鳴りが「スパーン」という音に聞こえてくる。
いや、火薬の匂いのする轟音か?
リアルな幻覚が耳にこだまする。

《発動2秒前だ…》
白竜は自分の体が、逃げ出す用意をしていることに気付いた。
そう「いつものように」とばっちりを受けない様に体をかわす準備だ。
「……ブッ殺す!!!」




Run

感情の起伏も乏しく、普段は退屈に囲われているような金蝉は、怒りという、喜怒哀楽に習い表される感情の中でもかなり激しいものに身をゆだねていた。

整いすぎた顔は、表情が乗らないとえてして能面のように見える。
それは、そのひとの内面、「実」を映さなくてそら寒い印象を与えていた。
『いつも不機嫌な金蝉童子』
それが彼につけられた俗称だった。
なんにつけ、好奇心という名の悪戯心を持ちすぎる血縁の観音菩薩に比して、よく言えば人形のような彼は、確かに血が通っているのかどうかさえ怪しまれるほどだった。

だから、今、二郎神と白竜が抱き合いつつ震えながら眼前に見ている光景は、天界人の度肝を抜くには最適だったし、『仏頂面』と甥をからかい続けてきた叔母さんにしてやったりと言うにも素敵な場面だったろう。
彼のコメカミに浮く怒りマーク、ふるふると震えつつ腱のうく拳、わなわなと肩をいからせつつ震わせて、爆発するのは、あと何秒後だろう?

『さようなら、幸せな日々』
わけのわからない言葉が、白竜の小ぶりの頭を去来する。
何の因果か、遠いもんだよ銀河系。
さておき、遠くまで流転してきてようやくたどり着いた先は似た修羅場。
どっちを向いても結局、こうなってしまうのか?

・・・・おかしい。
似ているなら、もう一人「不幸大魔王」の名をほしいままにした彼が、そう、あの彼がここにいるはずだ!
一方、ジャキン、と金蝉が取り出した獲物は、やはり「伝家の宝刀・天界の名人が丹精こめた一品。その名も"レインボー張り扇"」であった。
かの芭蕉扇にも匹敵するという宝物を、なぜ金蝉が装備しているかはわからない。
「ふ、ふふふ」
顔に縦線をたらして、天蓬に挑もうとする金蝉はイッちゃってるようである。

「悟浄さーん!かーむばーっく!」
と白竜が叫んだかどうかは判らないが。


――――――――


『へっくし!』
お約束のネタどおり、どこかでくしゃみの音がした。

God bless you.




ルビーの指輪

『『へっくし!』』
時空を越えつつも、シンクロ率の極めて高いくしゃみが響いた。
ひとつは地上、ひとつは天上で。

『へっくし!』
「悟浄?どうしました、具合でも…?」
「うわ!…八戒かよ、いつの間に真後ろに立ったんだよ。ちょっと寒気が走っただけで別に何にも……ン?ナニ、俺のこと探しに来てくれたん?」
「ええ。悟浄に探索に出て貰ってから、随分時間経っちゃいましたからね。もう一回計画を立て直して出直そうっていうことになったんですよ…」

砂漠に満ちる殺人的な光。
手をかざして上空を見上げた八戒の顔は、汗と埃で汚れている。
悟浄も、こめかみ辺りを拳で拭ってから、自分がかなり汗をかいていることに気付いた。

「…はははっ。そんで呼びに来てくれたワケ?待っててくれりゃすぐに戻ったのによ。…悪ィな、探させちまって」
砂漠をあてど無く彷徨っていた疲労が、俄に軽減されたように感じられた。
砂漠の砂粒は、キラキラと粒子をきらめかせる。
そこに落ちる濃い影がふたつ並んでいるのを見て、悟浄は白い歯をにっ、と見せた。

「ま、長い旅だもんな。こーゆー日も、たまにはアリってか?…ほんじゃ、戻っとすっかぁ!」
ハイライトに火を付けた悟浄は、頭の後ろに手を組んで足取りも軽く歩き始めた。
「…そうですね。長い旅ですもんね。たまには、長い、長い、長ーーーーい1日っていうのも…アリですよね…?」
悟浄の後ろ姿に向かって、八戒は呟いた。
笑顔に落ちた影は果てしなく濃く、暗く、ただモノクルが陽光を眩しく反射していた。






ぽつねん。

悟浄は自分の置かれた状況を表す言葉を、それしか思い浮かべることが出来なかった。
広い広い砂漠に、影を落とすものは自分ひとりしかいなかった。
「八戒の…」

鬼、アクマ、ヒトデナシ、嘘つき、ペテン師、人外魔境………

様々な罵倒の言葉が脳裏を巡るが、口に出すと呪われそうで、音声として発することが憚られた。
「な〜〜〜にが、もう一回計画を立て直そうなんだよ。この、この、この………!」
悟浄は唇をきつく噛んだ。

悟浄達が三蔵、悟空の元へ戻った途端の八戒の言葉。
「探索は改めて悟浄に任せて、さあ、僕らはそろそろ出発しましょうか!」
「悟浄、諦めろ」
「悟浄。俺、お前のコト忘れねえからなっ」
「な、な、ナニよ!?どーゆーコトよ!?これから計画立て直すんじゃねーの!?八戒!?」
「はい?」
傍らに立つ青年は完璧な笑顔で、…自分の荷物を既に肩に掛けている。
「おい、八戒。もう一回計画立て直すってーのは、どーなった訳よ?」
「あぁ。それは既に済んでます。計画を立て直して、やっぱり僕らは先に街まで行かせて貰おうってコトに決まりました。今から出直しの出発をするところです。悟浄は引き続き、この地点を中心にジープの探索を続けて下さい」

笑顔が砂漠の空気並みに乾燥している。
誰かこいつの心を潤してやってくれ。
悟浄は八戒の笑顔を見ながら、心中で呟きを止めることが出来なかった。

「…俺、何の為にココに戻ったのよ?」
「それはですねっv」
嬉しげな八戒の声に、三蔵と悟空が目を逸らした。
「誰だって、自分の置かれた状況を正確に把握することは、大切だと思うんですよね。そうでなくても砂漠に置き去りですから!厳しい状況を生き抜く為には、シビアな状況判断が必要です」
それは単にとどめを刺すダケだろう…。

「それに、僕達だって鬼じゃありません。砂漠を歩き回るには、やはり飲み物も必要でしょうし…ハイ、これv(微笑)」
「達」じゃない、「達」じゃ。心に鬼が棲むのはお前だけだ。
ずだ袋を胸に押し付けられた悟浄は、その心許ない重みにまた涙した。
「…俺、黄色いイヤーマフ付けて、要るモノ、要らないモノ仕分ける箱を目の前にして、るるるるるーーって気分なんだけど」
「あはははは。ヤですね、悟浄。僕は宇宙の果てまで行ってくれなんて、言いませんよ。ただタクラマカン砂漠でジープを探してくださいってお願いしてるだけです。…じゃっ」

爽やかな笑顔を残して八戒達は去って行った。
三蔵と悟空は、最後まで眼を逸らしたままだった。


ひるるるる〜……


砂漠の風に吹かれながら、悟浄は三人の後ろ姿が消えて行くのを見つめていた。
三人の影が視界から消え、漸く八戒がウムを言わさぬ笑顔で置いていった袋の中身を見る。
「・・・・・・」
空を仰ぐ。
涙が溢れそうになった。
悟浄の手元には、封を切られていないボトル。
液体は黒い。
――コーラかもしれない。
そう想像することもできないくらいに、悟浄の目に焼きついた赤い6角形のロゴ。

キッコーマンの薄口醤油。
「は、はは」
人指し指を左右にふりながら、八戒が学校の先生のように言い残した言葉が、頭に蘇る。
「あ、悟浄。いくら喉が乾いているからって、一気飲みしちゃいけませんよ?それは砂漠では自殺行為ですからねV」
3人の姿が蜃気楼の向こうに消えた今になって、ツッコミを入れても遅いのだが悟浄は呟かないわけにはいかなかった。
「つーか、醤油を一気飲みしたら普通死ぬから」
 砂漠での飲み物として適していないことは言うまでもない。

 やがて歩き出した悟浄の後ろ姿から、小さな歌声が乾いた風に乗り、空に消えて行く。

「頑張れ〜負けるな〜、力〜の限〜り〜……ご丁寧に『薄口』って、どうよそれ?」




Break through

『『へっくし!』』
時空を越えつつも、シンクロ率の極めて高いくしゃみが響いた。
ひとつは地上、ひとつは天上で。


『へっくし!』
観世音菩薩の執務室を辞した捲簾大将は、盛大なくしゃみをした。
朱塗りの柱の立ち並ぶ回廊に響き渡ったそれに、数名の者が振り向く。
「…っと、失敬。また美人が俺のウワサしてやがんのな」
もうひとつオマケにくしゃみを一発放ってから、捲簾はなんとなく薄ら寒い予感に襲われた。
どうも最近、美人と縁がない。
いや、「美人」自体はつい先程面談を交わした観世音菩薩といい、例の無表情な金髪美人といい、ちょくちょくお目には掛かるのだ。
上司も一応白衣と眼鏡の知的美人…と言えるだろう。
「まいったなあ・・・」

予定とは違う美人達に引きずり回され、どうやらそれを諦めているらしい自分に気付く。
…楽しんでるのかも?
くしゃみの余韻に、捲簾はぶるっと躯を震わせた。
「まいったなあ・・・」

『ま、オマエも判ったような顔でジンセイ手抜きしてないで、ちょっとは羽目はずせや』
ぽん、と捲簾はつむじに手を置かれ、鮮やかな朱唇を歪めて背を押された。
『ついでに俺の秘蔵っコとトモダチになv』
『はあ?』
『オマエさえ、首尾よくヤんなら「それ以上」でもかまわんがな』

・・・後に辞した観世音菩薩の意味深・・・というより含みまくりの応援(?)に背を押されたわけではないが、ぽりぽりと頬を掻き、ついで撫でられた頭をばりばりと掻きながら、足は自然に金蝉達の方へ向かっていた。
今更お友達だの何だの言う歳でもなく、図体のでかいのが何人も集まって、お友達ごっこってのも気持が悪い。
まあ、適当に砕けた遊びでも教えてやれと言いたいのだろうが。
「まいったなあ・・・」


その時の捲簾は、ほけほけと考え事なんぞしていたせいで、武人としての勘が鈍っていたのだろう。開け放たれた戸口から漏れ出る激しい怒りのオーラに気がつきもせず、ひょい、とい角を曲がって部屋に入った。

とたん。
目くるめく光と色彩のシャワー。
これが・・・世に言う??

ばたん、と激しい音がして、夜の暴れん棒将軍こと捲簾大将は綺麗にひっくり返っり、ついで当然、後頭部をしたたたか床に打ちつけて気絶していた。

「あーらら」
なんとも部下想いの大将だろうか。
よけた天蓬の脇から顔を出したところを、力いっぱい振り下ろした金蝉のレインボーハリセンをおもいっきり正面から受け止めてしまった。
もともと身体はでかいが体力皆無の純粋培養お坊ちゃま・金蝉のハリセンなど、フルスイングでもたいした事はない。
しかも軌跡もバレバレなのだから、好んで受ける趣味もなし、と天蓬は気楽にひょいとよけた。
それが更に金蝉の怒りをあおることを知っていてやるのだから、本当にイイ性格の幼馴染ではある。
もとい、そこへ顔を出した捲簾は上手い具合にハリセンと接吻してしまったのである。
しかも。
ハリセンの「柄」を、である。
握力もない金蝉の手からすっぽ抜けた七色の古式ゆかしい(?)ハリセンは、くるくると一回転してきれいにその鼻の頭を打ちのめしたのだった。

やはりこういう運命なのか?

ジープは二郎神の腕の中、いやんな符号に頭を悩ませていた。


――――――――


「まったく、お前まで手間かけさせんな」
憮然とした表情で、捲簾の鼻の頭に細く白い指が不器用にバンソウコウを貼ってやる。
「っててて!もう少し丁寧にやれっての!」
「うるせえ!」

ばたん、と木製で大ぶりの救急箱の蓋を閉めながら、やれやれと次郎神はため息を零した。
問題が次ぎから次ぎへと手に手を取ってダンスをしながらやってくる。
きっとあの方の思し召しには違いないけれど・・・・
今更ながらに中間管理職(?)の悲哀をかみ締めながら、二人のやり取りを見ていた。
さて、当事者でありながら、すっかりギャラリーの位置の天蓬元帥は、いつのまに手なづけたのか、更なる問題の当時者(?)の白竜を肩に乗せ、壁にもたれて優雅に紫煙を吐き出している。
もっとも煙草を嫌う金蝉童子のために、きちんと窓際に立ち出来る限り煙は外へと出していたけれど。
金蝉がそういうことに気がつくかどうかはおいておいて。
天蓬は、上司である捲簾と、生まれて始めてケンカと呼べるものをする金蝉を眺めては、旨そうに煙を吸い込んだ。

「大体テメエまで何しに来たんだ?!」
ひときわ、金蝉の声が大きくなった。







 → Next !  『とある日常』topへ