夜明け前
寝物語も碌にせず、三蔵は立ち上がった。
明かりもない部屋に、白い素肌が闇から際だつ。
後ろ姿に視線を感じたのか、三蔵は小さく舌打ちをし、床に落としたままのジーンズに脚を通した。
慣れぬ獣のようだと、八戒はこっそりとため息をつく。
睦言を繰り返す三蔵など、想像も出来はしないが。
それにしても。
何ひとつ、染めることの出来ぬ。
いとも簡単に腕からすり抜ける。
「冷えるな」
「もう冬ですから」
振り向きもせず、まだ夜の色を残した窓に向かう。
「寒くありません?」
「いや」
指先に摘んだままの白いひとえを、せめて素肌に羽織ってくれれば。
薄く傷痕の残る肩や背の、細い骨格が目に痛い。
「何が見えます?」
「何も」
窓の外に顔を向け、きっとその瞳は暗闇を透かすように何かを見つめている。
「何を見てます?」
「別に」
では何を求めて。
望んでいるのか。
畏れているのか。
待っているのか。
細い後ろ姿を、ただ八戒は見ていた。
じきに夜が明ける。
また、旅が始まる。