最高のプレゼント


〜Happy Birthday 頼久さん〜

 by 日下部葉月    




もうすぐ、頼久の誕生日・・・・
この世界へ一緒に来て、5回目の誕生日が迫ってきていた。
龍神の計らいで、この世界へ来てからSPとして活躍している頼久は忙しくてなかなか会う事はできないが、それでも少しの時間を割いて2人の時間を過ごしていた。

「あかねちゃん、今年のプレゼントはどうするの?」

親友の蘭とウインドーショッピングをしていたあかねは、ふいに尋ねられていつもどおり頬を染める。
頼久の話になると、いつもこんな風に頬を染めるあかねに、蘭は微笑を禁じえない。

「今年はね、マフラーなんだ・・・・お仕事の時もできるように、薄手のウールのマフラーと皮の手袋にしたよ」
「頼久さん、SPだもんね〜お仕事の邪魔になったら大変だ」

頷く蘭にあかねは少し寂しげに俯く。

「うん・・・・今年はお休みだったらいいけれど・・・・」

去年も一昨年も、警護の仕事が入って、誕生日を一緒に過ごすことができなかったのだ。
一年の初め、元日に年を取る風習だった頼久はある程度は仕方ないと思っているらしいが、あかねにとって、頼久の誕生日に2人っきりで過ごす意味は大きい。
それでも、SPとしての腕をかわれている頼久に我侭は言えなくて・・・・いつもあかねはそれ以上責めることもなく。
勿論、あかねを大切に思っている頼久のこと、当日に会えない寂しさを口にしないあかねに申し訳なく思っていた。

「来月だったよね?お誕生日。きっと大丈夫だよ♪」

親友の肩をぽんっと叩いて蘭は微笑んだ。

「うん、そうだよね、今から諦めてちゃダメだよね」
「そうそう!!なんなら、龍神様にでもお祈りする??」
「もお!!神子でもないのに聞いてくれるわけないでしょ?」
「どうかな?わっかんないよ〜〜?」

くすくす笑って走り出した蘭を追いかけるあかね。
2人の笑い声は、人込みの中へと消えていった。



「かんぱ〜い!!」

満面の笑みでワイングラスを捧げるあかねを、頼久もまた嬉しそうに見つめていた。
小さいけれど、心のこもったフランス料理を出すレストランで、2人は頼久の誕生日を祝っていた。
2週間ぶりのデートを、おいしい料理と共に存分に楽しむ。
あかねの輝くばかりの笑顔が眩しくて、頼久は愛しそうに目を細めていた。

「よかった、本当に」

食事が終わり、食後のコーヒーを飲みながら、あかねはしみじみと呟く。

「ええ、やはり、当日にこうして祝ってもらえるのは嬉しいものですね」
「うん、だって、お誕生日は1年に1度しか来ないんだもん・・・・あ、そうだ!」

はにかみながら笑う頼久の前に、あかねは傍の小さな紙袋を差し出す。

「頼久さん、お誕生日おめでとうございます・・・・開けてみてください」

小さく頷いて、紙袋から平たい箱を取り出す。
開けてみると中には、薄手のウールの紫紺のマフラーと、黒い皮の手袋が入っていた。
嬉しそうに微笑むと、頼久はマフラーを首にかけてみせる。

「うん、似合ってる!その色にしてよかった」
「ありがとうございます、あかね」
「ううん、これから寒くなるから・・・・お仕事の時にも使ってもらえるようにと思って」
「ええ、これなら寒くありません。あかねの気持ちがこもっていますから・・・・」

満足げな表情で自分を見つめるあかねに、頼久は大きく頷いて見せた。


ほろ酔い気分で店を出ると、頼久はあかねを誘って小さな公園へ向かった。
秋の、冴えた空気に満月が浮かぶ。
頼久はベンチに座ると隣に座ったあかねを優しく見つめる。

「うわぁ、月が綺麗・・・・私、この季節大好き」

嬉しそうに月を見上げるあかねの肩をそっと抱き寄せると、頼久もまた同じように月を見上げる。

「真冬の、痛いくらいに冴えた月光も好きですが、秋の少し優しい月光が私も好きです・・・・やはりあかねは『月』そのものですね」
「?」

見上げたままで呟く頼久の横顔を、あかねは不思議そうに見上げる。

「遥か京で、龍神の神子として戦っていた貴女は・・・・すべてを包み込む優しい春の月であり、すぐ手の届く夏の月かと思えば、決して届かない、遥か天上をゆく厳しさを湛えた冬の月でもあり・・・・」

抱き寄せる手に少し力をこめて頼久は言葉を続ける。

「ですが・・・・今、この手に感じる暖かな温もりのような秋の月でもありました」

酔いのせいか、いつもより少し饒舌になっている頼久を、あかねは頬を染めて見つめ、月明かりの中で輝く翡翠の瞳を、頼久は愛しそうに見つめる。

「あかね・・・・先程祝って戴きましたが・・・・実はもう1つ欲しいものがあります」
「欲しい、もの?」

ええ、と頷くと、頼久はスーツのポケットから小さな箱を取り出し、あかねの手に握らせる。
不思議そうに自分と箱を見比べているあかねに、頼久は頷いて開けるように促した。
ゆっくりと箱を開けると、赤いビロード張りの小さな小箱・・・・そして中から月光を優しく反射して輝くダイヤのリングが姿を見せた。
言葉を失っているあかねを真剣に見つめながら、頼久は口を開く。

「あかね・・・・『貴女』が欲しい・・・・いつでも、どんな時でもこの月の光のように優しい貴女をこの腕の中に閉じ込めておきたいのです」

俯いたままで表情が見えないあかねの肩に両手を置いて自分に向けさせると、頼久は1つ大きな深呼吸をした。
しばしの沈黙、そして・・・・



「結婚・・・・して下さいますか?」



ようやく搾り出した言葉に、あかねは弾かれたように顔を上げた。
その何年たっても変わらない大きな翡翠の瞳に涙を貯めて、そして、満面の笑みを浮かべて。

「私・・・・なんかでいいの?」
「あかねでなくては嫌です」
「本当に?」
「はい、本当です」

滅多に見せない満面の笑みを浮かべ、溢れそうな涙をそっと唇で拭ってくれた頼久に、あかねはぎゅっと抱きついた。

「嬉しい・・・・すごく嬉しいよ、頼久さん・・・・」

しばらく頼久の言葉を、温もりを、確かめるように抱きついていたあかねが、恥ずかしそうにゆっくりと身体を離す。
頼久はあかねの左手をとって、小箱のリングをそっと薬指に通す。
そしてリングをじっと見つめていたあかねはにっこり微笑むと、大きく頷き、再び頼久に身を預ける。

「頼久さん、プレゼント・・・・受け取ってくださいますか?」
「ええ」

ぎゅっと抱き締めて、頼久はあかねについばむような口付けをする。

「最高の、誕生日プレゼントです・・・・」

頼久は嬉しそうに囁くと、愛しい存在を確かめるようにあかねを優しく抱き締めた。

「必ず、貴女を護っていきます・・・・この生命の続く限り、永遠に・・・・」

誓いの言葉は、降り注ぐ月の光の中で、2人の心の中に染透っていった。











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日下部葉月ちゃんの「遙とき」頼久さんお誕生日記念フリー配布です。ゲーム未体験で、コミックオンリーなワタクシですが、頼久どの=よりぃって、どんどん「格好いいけどわんこ系」イメージになって来てるのですが…合ってる?


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