この日、陰陽寮での仕事を終えて、泰明は家路を急いでいた。
珍しく急いでいる泰明に、同僚は目を見張っている。
最近になって少しづつ感情を表出できるようになった泰明が、目に見えて焦っているのだ。
周囲が驚くのも無理はない。
だが。
周囲がどういう目で見ようとも、泰明にとっては全く問題なかった。
ただ1つ、『問題がある』こと。
それは・・・・・・仕事のせいで3日も家を空けていたことだった。

「今帰った!」

小さいがしっかりした作りの館。
その入口から声をかける。
いつもなら泰明の『妻』が飛び出してくる、はずだった。
しかし・・・・・

「?神子?戻った」

相変わらず、自分の妻を『神子』と呼ぶ男、安倍泰明。
この男の言う『神子』とは、当然、八葉と共に京を守った龍神の神子のことである。
最後の決戦の後、泰明と共にこの世界に根をおろす決意をした少女。
彼女が泰明の妻となって、そろそろ3ヶ月経とうとしていた。
少しづつ、感情とは何か、を教えられ、泰明もゆっくりと成長していた。

ところで・・・・・
返事がなく迎えにも出てこないのを不審に思うと、泰明は家の中に入る。
しかし部屋にも庭にも愛する妻はいない。
それどころか・・・・・

「・・・・・『式』が来た形跡がある・・・・・まさか!?」

家の中の『気』に、若干の乱れを感じる。
微かだがこの家に何者かの『式神』が送りこまれた形跡があった。
(まさか・・・・・神子がさらわれた!?)
慌てる泰明。
深呼吸をすると、ゆっくりと家の気を探る。
そして、何かに気がついたのか、踵を返すと家を飛び出していった。

しばらく後・・・・・・

泰明はとある館の前に立っていた。
式の気配がここで途絶えているのである。
何も言わず館に足を踏み入れると、あかねの気配を追って奥へ入っていく。
ある部屋の前で立ち止まると、中から声がする。

「おお、泰明、やっと来たか」

しばらくすると安倍清明が、ほろ酔い気分で出てきた。
そう、ここは泰明の師匠安倍清明の館なのである。

「やっと来たかではない。神子はどうした」
「ははは、神子殿ならそこに」

中に入ると、あかねが真っ赤な顔をして脇息にもたれ掛かっている。
周囲には酒肴が置いてあり、近寄ってみれば酒くさい。

「神子」

声をかけるが返事はない。
どうやら酔いつぶれているようだ。
清明の式だと気がついていたから身の心配はしていなかったが、それでも姿を見てほっとする。
思わず抱きしめる。

「おまえが3日も家にいないと聞いていたのでな、寂しいだろうと我が家に招待したのだが・・・・ふふふ、楽しい話を聞かせてもらったよ。おまえでなくとも神子殿に魅かれる気持はよくわかるな」

御簾の向こうから、楽しそうな清明の声が聞える。
神子の相手をしてくれるのはありがたいが『魅かれる』とは聞き捨てならない。
(本来なら人妻をかどわかしたと言ってもおかしくない状況だが、その辺の考え方はまだ泰明にはないらしい。)
泰明の気配が変わったのに気がついたのだろう、清明は肩をすくめる。

「ははは!変わったな、泰明。神子殿を大切にすることだ」

そう言うと、清明は酔いを覚ますといって部屋を後にした。

「そんな状態の神子殿を連れては帰れまい、今宵はこちらに泊まってゆくがよかろう」
「そうさせてもらう」

清明の声に小さく答えると、再度あかねを抱きしめる。
あかねは小さく身じろぎすると瞳を開ける。

「やすあき、さん、らぁ・・・・」

きゅっと狩衣をつかみ、安心しきった、まるで子供のような笑顔を向ける。
一瞬、泰明の心臓が高鳴る。
まだ酔っているのだろう、呂律も廻ってはいない。

「神子、すまなかった。寂しい思いをさせたのだな」
「んーーー?らいじょうぶ・・・・らって、やすあきさん、たい、へんなおしごと・・・・・・」
「?神子?」

また、眠りに落ちたのか、気持良さそうに寝息を立てている。
体を離そうとするが、狩衣をつかんだまま離そうとしない。
そんな様子を見て、くすっと泰明は小さく笑った。

そして・・・・・

「や、や、泰明さん!?」

小さな叫び声で目を覚ます。
外は白白と夜が明けているようだ。
目の前ではあかねが赤い顔をして泰明を覗きこんでいる。
そっとあかねの顔に手をのばす。

「まだ酔っているのか?」
「え、ち、違います!そうじゃなくって・・・・・」

恥ずかしそうに上目遣いで泰明をみつめる。
目が覚めたら泰明の寝顔がどアップであったこと、抱きしめられていてびっくりしたことを説明する。

「黙っておうちを空けてしまってごめんなさい。清明様からのお使いが来て・・・・」
「問題ない」

無事でいてくれたのだから。
そう優しく笑いかけ、ついばむようにキスをする。
未だ、なかなか自分の感情を他人に見せられない泰明だが、あかねといる時だけは別だ。
照れたような、子供のような笑顔を見せる。
そんな泰明を見て、ますます赤くなるあかね。

「か、帰りましょ!」
「ああ、そうだな」

あかねは照れ隠しに立ちあがると、にこりと笑う。
泰明も立ちあがると、ふいに空を見て小さくつぶやく。
不思議そうに自分を見るあかねの肩を無言で抱く。

「さぁ、帰るぞ」
「はい!」

2人は仲良く並んで館を出ていった。


「『感謝する』とのことでございました」
「うむ、ご苦労であったな」

空からの声に、清明は小さく笑っていた。

「あやつも、変わってきておる。神子殿のおかげだな」

立ちあがると庭の緑を眩しそうにみつめる。

「感情が生まれることが、すべてに勝るとは思えぬ。しかし、感情があってこそ、人は人でありえる。泰明には・・・・人であってほしい。そう願うのは、私の勝手だろうか」

昨日、そう龍神の神子に問い掛けたことを思い出す。
その問いかけを真摯に聞いていた神子は、しばらく考えた後微笑みながらこう言った。

「私、以前の出会ったころの泰明さんより、今の泰明さんの方がずっと好きです。でも最初から感情がなかったなんてことありません。出し方を知らなかっただけだと思います。だって泰明さんは最初から人だもの。私でお役に立てるのなら、これからもずっと泰明さんを支えてあげたいです」

その想いがあったからこそ、泰明は変わり、京は救われた。
想いの強さ、それが神子の力だと、清明は改めて思う。

「神子殿、泰明を頼みましたぞ」

泰明の館に向けて、清明は頭を下げていた。

よしきちゃんに捧げる、泰明Xあかねwithお師匠様・・・・・・
ああ、お師匠偽者のような気が・・・・(~~;)☆\(=~=;)バキ
しかも、ちっとも甘くない・・・・
こ、これを機に遥かに転んでね♪という「想い」を込めて(笑)
Thanks 575Hit Get m(_ _)m



…というスバラシイお言葉と、スバラシイ創作を頂いてから早幾月…
よしきの別館立ち上げ、決心から大変遅れてしまったのですが、
この晴明さんと神子殿とお師匠様との「のほほん、うふっ」ストーリーを
ようやく自サイトにおけることが嬉しいです
another country入居第一号さんです
日下部葉月ちゃん、いつもありがとうv




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